日産NV350キャラバン プレミアムGX(FR/5AT)【試乗記】
目指すはシェア4割! 2012.07.30 試乗記 日産NV350キャラバン プレミアムGX(FR/5AT)……267万3300円
発売後約1カ月で月販目標の3倍となる6000台を超えるなど、好調な立ち上がりを見せている「NV350キャラバン」。シェア8割以上を占める「トヨタ・ハイエース」にどこまで迫れるか。
打倒ハイエース!
「キャラバン」改め「NV350キャラバン」のライバルは、ズバリ「トヨタ・ハイエース」だ。事実上、唯一のライバルなのだが、形勢は極めて不利。旧型キャラバンとハイエースの比較では、市場のシェアは2:8。「実際は15:85というところです」と開発陣が教えてくれた。
どうりで街で見かけるビジネスバンは、圧倒的にハイエースが多いわけだ。しかし、これほどまでに差が開いているとは思わなかった。その理由を開発陣に尋ねると、荷室の長さとデザインが主な要因なのだという。
4ナンバー小型商用車枠のモデルでは、全長4.7mの上限の中で、いかに広い荷室を確保するかが勝負になるわけだが、ハイエースが荷室長3000mmを確保しているのに対し、旧型キャラバンは200mm短い2800mmだった。ビジネスの場面でこの200mmがどれだけの差をもたらすかは私にはわからないが、カタログを見比べたときにハイエースに目移りする人は案外多いに違いない。
そのうえハイエースは、Cピラーをガラスで隠し、サイドウィンドウが連続するデザインがカッコいいと評判である。
おかげでユーザーの中にはハイエースしか眼中になく、キャラバンは購入候補にすら挙がってこない……というのも珍しくなかったというから、日産にとってかなりマズイ状況だったわけある。
プラス50mmの余裕
当然、新型NV350キャラバンでは、旧型の弱点を解消している。まずは荷室だが、全長×全幅×全高=4695×1695×1990mmの4ナンバーロングボディー標準ルーフの5人乗りバンの場合、最大の荷室長が250mm延びて3050mmに。ライバルに対して50mmのアドバンテージである。
試乗車の「NV350キャラバン プレミアムGX」の中をのぞくと、4ナンバー枠とはにわかに信じがたいほど、広々とした空間が広がっていた。後席を起こしても荷室長は2m弱もあるから、そのまま車中泊ができる広さである。
デザインも一新した。ハイエースばりのエクステリアでは、サイドビューがCピラーをガラスで隠したスタイリッシュなものに。ただ、門外漢には、ハイエースとNV350キャラバンをひと目で区別できないという、新たな問題が生じたかもしれない。そんなとき、着目したいのが“ドリップチャンネル”だ。
ドリップチャンネルとはいわゆる雨どいのことだが、NV350キャラバンではこのドリップチャンネルを廃止し、ライバル以上にすっきりしたサイドビューを実現しているのだ。その代償として、これまでドリップチャンネルを利用して取り付けていたルーフラックが使えなくなってしまった。日産としては、ルーフ上に取り付ける最大積載量100kgの「ヘビーデューティーラック」を発売してこれに対応。11万3400円のアクセサリーをすんなり買うのか、ユーザーの反応が気になるところだ。
もちろん追いつくだけではライバルには勝てない。というわけで、NV350キャラバンには商用車初のプッシュエンジンスターターとインテリジェントキーを採用したり、2リッターガソリンエンジンと5段オートマチックの組み合わせで9.9km/リッターの燃費(JC08モード)を達成したりするなど、装備や燃費といったわかりやすい部分で、その優位性をアピールしている。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
久しぶりに乗るキャブオーバーは……
そんな日産の意欲作、NV350キャラバンに試乗。とはいうものの、普段この手のビジネスバンとは無縁の生活を送っている私には、専門的なインプレッションが書けるはずはなく、いつもと変わらぬ試乗記になることをお許しいただきたい。
早速、運転席に着くと、ミニバンよりも一段と高いアイポイントが新鮮だ。前席の下にエンジンを積む“キャブオーバー”ならではの感覚である。乗用車に比べて明らかに上を向いたステアリングホイールも、この手のクルマならではのもの。その一方で、インパネのデザインやシートのデザインは“実用性一点張り”ではなく、そのままミニバンとして使えるくらい上等に仕上げられている。
搭載されるエンジンは2リッター直列4気筒の「QR20DE」型で、最高出力130ps、最大トルク18.1kgmの実力を持つ。これと5ATとの組み合わせは、CVTに慣れたミニバンオーナーには、出足がややのんびりしていると感じるに違いない。走りだしてしまえば2リッターの排気量でも必要十分な性能だが、本音を言えば、2.5リッターディーゼルを試してみたい。
乗り心地は、想像していたよりも快適で、195/80R15サイズのタイヤがマイルドな路面とのコンタクトをもたらしている。エンジンの上に座っているわりには加速時のノイズが思いのほか抑えられているのもうれしい誤算だった。一方、高速での直進安定性などはミニバンには及ばず、また、カーブを曲がる際には、回転軸から遠いドライバーのポジションでは動きが速く大きいことに違和感を覚えた。
それでも想像以上に快適な走りを見せてくれたNV350キャラバン。日産としてはシェア4割を狙いたいとのことだが、さすがに一気には無理としても、大幅なシェア拡大は確実だろう。そうなると、今後ハイエースがどう出てくるのかが気になるところで、しばらく街中のビジネスバンから目が離せなくなりそうだ。
(文=生方聡/写真=小林俊樹)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(前編)
2025.10.19思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル」に試乗。小さなボディーにハイパワーエンジンを押し込み、オープンエアドライブも可能というクルマ好きのツボを押さえたぜいたくなモデルだ。箱根の山道での印象を聞いた。 -
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】
2025.10.18試乗記「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。 -
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。