第255回:【Movie】大矢アキオと走れ! 太陽の道
2012.07.27 マッキナ あらモーダ!第255回:【Movie】大矢アキオと走れ! 太陽の道
憧れだった「太陽の道」
アウトストラーダ・デル・ソーレ(太陽の道)−−その昔、日本の自動車雑誌の海外試乗記を読んでいると、その響きも手伝って、夢の高速道路のように思えたものだ。
おさらいをしておくと、太陽の道は北部ミラノから南部ナポリまでイタリア半島を南北に縦断する総延長約760kmの幹線高速道路である。今回の動画は、そのうちミラノからフィレンツェまで約295km、休憩も入れておよそ4時間を走ったものである。
しかし、イタリアに住んでみると、太陽の道への憧れは次第に砕かれていった。まず、普段からわざわざ「アウトストラーダ・デル・ソーレ」と長い名前で呼んでいるイタリア人はいなかった。「アウトソーレ」と縮めて呼ぶ場合はあるが、それも新聞記事などが中心で、あまり一般的ではない。
ほとんどの人は正式名称であるアウトストラーダ1号線を示す「A1」と呼んでいる。イタリア語だと「アーウーノ」という。それを聞くたび思わず故・大平正芳元首相の現役時代によく用いられた物まね「あーうー」を思い出してしまう。
それはともかく、A1は設備が古い。ガードレールはさび、頭上をまたぐ橋のコンクリートも劣化しているものが多い。中央分離帯も、単純にコンクリートブロックで区切られた区間がほとんどだ。
ボローニャ−フィレンツェ間にあるアペニン山脈区間は、A1の中で一番の難所にもかかわらず片側2車線で、平日は大型トラックが走行車線を数珠つなぎで走っている。カーブの曲率は、高速道路にしてはきつすぎる。
それでいて、イタリア版ETCである「テレパス」や、ナンバープレートを自動で読み取り、区間ごとの旅行時間を計測して速度違反を取り締まる「チューター」と呼ばれるシステムは、欧州各国に先かげて導入された。「チューター」は安全走行に寄与していると考えれば納得がいくが、それにしてもお金を取ることだけには気合いが入っている。
「太陽の道」という甘い響きを感じる唯一の憩いシーンは、夏、所々に乱れ咲く無数のヒマワリたちだけである。
世界最長の戦後史博物館!?
だが調べてみると、古いのも仕方がないことがわかってくる。A1が全線開通したのは1964年。昭和39年である。イタリアが奇跡の戦後経済成長を謳歌(おうか)していたころだ。専門家によれば、完成時の交通量は、その時点で計画時の予想を大きく上回っていたという。
計画時からすると半世紀以上が経過しているのが今日のA1だ。2代目「フィアット500」が国民車だった頃の道を、いまだ使っていると考えれば、いかに無理があるかわかってくるだろう。
幸いにして、ここ10年でミラノ−ボローニャ間は3車線化の工事が終了した。ここはひとつ、アペニン区間の拡幅工事が1日も早く完了することを願うばかりだ。
と、文句を書き連ねたが、物流輸送の大半をトラックに頼るイタリアで、このA1がなければ、今夜のわが家の晩飯材料にも事欠くことは事実だ。とくに行きつけの格安スーパーのトラックが走っているのを目撃するたび、この高速道路に足を向けて寝られないことを実感するのである。
また沿道には戦後イタリアが最も輝いていた時代をしのばせる施設がちりばめられているのも面白い。
例えば北部平原に伸び伸びと建てられた工場群だ。パルマ郊外の有名なパスタメーカー「バリッラ」の本社工場は、建物の白い壁が延々と続く。以前、同社の歴史部門担当者がボクに誇らしげに語ってくれたところによると「製品の高い品質と衛生管理をイメージさせるための白」なのだという。
過去に本欄で何度となく紹介した、走るクルマを見下ろしながら食べられる陸橋式サービスエリア食堂は、モータリゼーションの仲間入りを果たしたばかりの家族にとって、最高のエンターテインメントだったに違いない。
また、フィレンツェの平野に道路開通と同時期に建てられたモダンな教会は、高速道路とともに地域が発展した時代を物語る。
太陽の道はイタリアの大動脈であると同時に、数百kmにわたる世界最長の戦後史博物館だ。そしていつか、ローマに向かった古代の街道、巡礼者がたどった中世の街道に並ぶイタリア交通史になるぞ、とボクは信じている。
(文と写真=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
大矢アキオと走れ! 太陽の道(その1)
大矢アキオと走れ! 太陽の道(その2)
(文と写真・動画=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
最終回:人それぞれに「最後のアルファ・ロメオ」 2026.8.27 イタリア・シエナで開催された「アルファ・ロメオ・スパイダー/GTV」のささやかなオーナーミーティングを、地元在住の大矢アキオが取材。あなたにとって最後で最高のアルファ・ロメオは、いつの世代のどのモデルですか?
-
第975回:ホンダ&スバルのTシャツがイタリアを席巻中 2026.8.20 イタリアで、ホンダやスバルをモチーフにした“日本車Tシャツ”が人気に。自動車をモチーフにしたアパレルの世界で、日本車や日本のブランドがもてはやされる理由とは? 素直に喜べないその背景を、現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う 2026.8.13 ルノーのクロスオーバーSUV「ラファール」がまさかの軍用車に? ルノーと軍需との第1次大戦にまでさかのぼるつながりと、彼らが今ふたたび防衛産業と距離を詰め始めた理由、世界的に見られる軍用と民生用の垣根を超えたクルマの歴史を、大矢アキオが解説する。
-
第973回:静かになりすぎたクルマと「聴かせて、聴かせて隊」に思うこと 2026.8.6 最近イタリアでよく見かけるという、道行くスポーツカーやスーパーカーのドライバーに、豪快なエキゾーストサウンドをせがむ若者の姿。彼らの存在は静かになりすぎた四輪車に対するアンチテーゼか? 現地在住の大矢アキオが考察する。
-
第972回:黒船来襲も! イタリア自動車販売店は戦国時代 2026.7.30 イタリアで急速に進む、自動車販売店の統廃合と巨大グループの伸長。その背景にはどんな理由があり、私たちにどんな変化をもたらすのか? 現地在住の大矢アキオが、変わりゆく自動車販売のあり方を考察するとともに、消えゆく街かど自動車文化に思いをはせた。
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。