ホンダ・モビリオA(CVT)【試乗記】
新しいワケ 2002.01.19 試乗記 ホンダ・モビリオA(CVT) ……177.9万円 全長4m強の小柄なボディに3列シート7人乗りを実現した、「フィット」ベースのミニバン「モビリオ」。神奈川県は横浜で開かれたプレス向け試乗会で『webCG』記者が乗って、考えた。デザインについて
「これまた売れそうだあ」と思ったわけである。東京は青山のホンダ本社にNSXを返却に行ったとき、展示されていたコンパクトミニバン「モビリオ」を見て。なんか、新しい。
2001年12月21日に発売されたモビリオは、大ヒット作となった小型車「フィット」をベースにしたピープルムーバー。両側スライドドアをもち、全長4m強の小柄なボディに3列シート7人乗りを実現したのがジマンだ。低いウェストラインによる大きなグラスエリアが個性的。
「1995年にフランクフルトに駐在することになったんです。最初の週末にストラスブールに遊びに行って、古い石畳の街なみから路面電車が出てきたのを見て、インパクトを受けた。モダーンなデザイン。それでいて低床で乗り降りしやすく、車内には快適な空間があったんです」。翌2002年1月8日に横浜で開催されたプレス向け試乗会で話してくださったのは、モビリオのデザインを手がけた本田技研研究所和光研究所デザインAスタジオの村上邦俊研究員。なるほど、路面電車ですか。
ホンダのニューモデルは、従来の自動車デザインで重視された「流れ」や「勢い」といった概念を用いず、「バーティカルエモーション」とホンダが呼ぶ縦方向のモチーフを取り入れた、とのこと。「停まっていても、走って見える」というアプローチとは、まったく異なる手法だ。
「具体的にはドコですか?」
「Aピラーの付け根に垂直なテーマを入れたり、ドアのカットラインがすべて垂直方向に動いているだとか、一番後ろのDピラーも」まっすぐ空に向かうという。「もちろん、ただ垂直に線を引くと実際には上が広がって見えるので、斜めや後ろから見てもちゃんと垂直に見えるように、多少の修正は入れて」います。
村上さんは、まことに流ちょうに説明なさる。「ガラス面積が大きいと、明るく軽快な感じがするが、実はウェイトが重くなる」のが、いままでこのようなスタイルが採られなかった理由だという。コンピューターシミュレーションの発達によってボディの軽量化がグッと進んだので、今回のカタチが実現したわけだ。
サードシートに座って話すわれわれの周りを、撮影用のモビリオが行き来する。前、横、後姿を見ながら、村上さんの言葉を確認する。
風が強い。会場内に植えられた木々が、大きく揺れている。
「1998年にフィアット・ムルティプラが出たとき、どう感じましたか?」
「正直、『やられた!』と思いました。でも、あれは3人座りの2列シートですよね。1900mmの横幅というのは、日本ではどうかな、と……」
「やはり、やられた、と思いましたか」
「はい。ガラスの使い方とかはショックでした」
ミラクルアレンジシート
モビリオのドライバーズシートに座ると、ちょっと比例のない開放感がある。「運転手はキミだ」じゃなくて、「ボクだ」って感じ。インパネシフトを採用したセンターコンソールはじめ、インテリア全体が垢抜けている。
パワーソースは、フィットの1.3リッター「i-DSI」エンジンを拡大した1.5リッター直4SOHC8バルブ。1気筒あたり2本のプラグを差して燃焼をコントロールするツインスパークユニットで、最高出力90ps/5500rpm、13.4kgmの最大トルクを2700rpmという低めの回転数で発生する。「ホンダマルチマチックS」ことCVTと組み合わされ、カタログ上は18.2km/リッター(10・15モード)の燃費を謳う実用エンジンだ。
動力性能は大したことない。けれども、セカンドシート、サードシートに座ったカメラマンやスタッフは楽しそう。「ホント、電車みたいだ」と口々に言い合っている。広い窓の外を、ベイブリッジが流れていく。
2代目ステップワゴンで手品のようなシートアレンジを見せたホンダのこと、モビリオもその点は凝っている。燃料タンクを後席下からセンターフロアに移した「グローバルコンパクトプラットフォーム」の恩恵で可能となった、3列目シートを2列目の下に折り畳んで収納できる「ダイブダウン」機構が、「ミラクルアレンジシート」のハイライト。また、セカンドシートには座面下にダンパーが備わるので、前席後ろに跳ね上げるのも力いらず。詳しくは、ディーラーでセールスマンの方に実演してもらってください。
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動く井戸端会議
260mmのスライド量をもつ2列目をちょっと前にズラせば、サードシートにもちゃんと大人ふたりが座れる。燃料タンクがないので足もとのスペースは確保されるし、ボクシーなボディが奏功して、頭まわりはストリームよりずっと広い。ただし、背もたれとヘッドレストの大きさは、「トヨタ・スパシオ」よりはいいけれど、「オペル・ザフィーラ」には及ばない。
「2列目シートの下に収めるというのがありましたから」と村上さんはおっしゃっていた。そして、「でも、バモスのセカンドと同じくらいの大きさはあるんですよ」と言葉を続けられた。バモス、ですか……。
ホンダのコンパクトミニバンは、普段は2列5人乗りとして使い、いざというとき「サッ」と3列目を引き出して使うというのがコンセプトだそう。「立派なシートで3列固定にすると、では、荷物はどうするのか、と」いうことになっちゃうから。
「やっぱり、3列ないとダメなんですか?」というリポーターの根元的な問いには、「どんどん核家族化、少子化が進むなか、なぜクルマばかり多人数乗車の需要が増えるのか、ホントは僕たちにもよくわからないんです」とことわってから、村上さんは分析された。
「家族が小さくなったぶん、逆に、近所のコミュニティを大事にする流れが強くなったんじゃないでしょうか。隣の奥様方と出かけたり……」。クルマが“コミュニケーションのツール”として使われるようになった、というのが村上さんの意見だ。「つまり、動く井戸端会議ですな」とリポーターは頭のなかで考える。
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見もココロも
『webCG』取材班を載せたモビリオは、ベイブリッジを渡っていく。前を行くトラックが、大きく傾ぐ。風がますます強くなっている。
ホンダ・モビリオ、直接的には2001年の第35回東京モーターショーに出展されたコンセプトカー「S・U・U」の市販化だが、コンセプト自体は、1999年の第33回東京モーターショーで披露された「NEUKOM(ノイコム)」に盛られていたという。大きなグラスエリアと観音開きのドア、フルフラットな床をもち、車内で車座になって座れるショーモデルだ。
「当時、日本に出張で来た外国人デザイナーがですね、渋滞で動かない首都高で、クルマのなかでゲームボーイやっている男の子がいる、それを見ている大人たちがいる、クルマからナンパしている若者がいる、そういう情景を見て、日本に特化したコンセプトを提案できるんじゃないかと考えた……」。村上さんの言葉を反復しながら、「そういうのはクルマじゃないんじゃないか」と考える。個人に移動の自由を与えた自動車は、わが国では名実ともに「20世紀の恋人」になってしまったんでしょうか。
フロントスクリーンの先には、空に道が交差している。
思い出すのは、映画『惑星ソラリス』。主人公を乗せた自動運転のハコが、未来都市になぞらえられた東京の首都高をゴトゴトと走っていく……。ユーロトラムを模して、コミュニケーションツールとして使われるホンダのニューモデルは、身もココロもクルマから離れている。モビリオに、異質な新しさを感じ、しかし売れそうな予感がしたのは、つまりそういうワケだったのだ。
(文=webCGアオキ/写真=清水健太/2001年1月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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