スバル・インプレッサ WRX STi Limited(6MT)【試乗記】
累積30年の安心感 2002.06.12 試乗記 スバル・インプレッサ WRX STi Limited(6MT) ……299.5万円 2002年9月に、“スバル 4WD”が30周年を迎える。それを記念して、スバルのWRCウェポン「インプレッサ WRX STi」をスポーティに飾り、中身にマニアックなチューンを施した「Limited」に、webCG記者が試乗した。走る気マンマン
スバル初めての4WDモデル「レオーネ・エステート バン」が世に出てから、2002年9月でちょうど30周年を迎える。それを記念して同年5月7日にリリースされたのが、「速く、楽しく、安全に」スポーツできるクルマ(WRXシリーズのカタログより)のスペシャルバージョン、「WRX STi Limited」だ。
30年間ひとつのシステムを追求し続けるのは、大変なことである。なにしろリポーターは27年間しか生きていないのに、どうも進化が止まりがちだし……。なにはともあれ、“スバル 4WD”30周年、おめでとうございます。
どこが“リミテッド”かといえば、愛嬌ある丸目のフロントマスクを、グッとスポーティに変貌させるリップスポイラーと、リアに大きなスポイラーが装着されたこと。WRC(世界ラリー選手権)を戦う“ウェポン”のロードゴーイングバージョン。“コテコテ”に走り屋っぽい見た目が、小心なリポーターにはちょっぴり気恥ずかしい。
しかし、1995年から3年連続でWRCチャンピオンのタイトルを獲得したスバルと、そのモータースポーツ専門会社STi(スバルテクニカインターナショナル)がつくったクルマだから、外見だけの“カッコつけ”にとどまらない。“走り”に関わるチューンが施された。
ポイントは2つ。ノーマル(といえないかもしれないが)STiバージョンの最大トルク38.0kgm/4000rpmを、専用ECUの採用、インテークマニフォルド内の吸気効率向上、吸気カムシャフトのプロフィール変更とマフラーの大容量化によって、39.2kgm/4400rpmにアップした。最高出力は280ps/6400rpmとかわらない。
さらに、リアに装着されるトルク感応型LSDを、コーナリング時にアクセルを開けたときの「強烈なトラクションが持ち味」(カタログ)の、機械式LSDに変更した。レーシィな、かなりマニアックなチューニング。スバルとSTi、クルマも性能も「前へ前へ」と推し進める。
ドアは4枚あるけれど
ブルーが目に鮮やかな、専用のバケットシートが備わるフロントシート。お尻も体もスッポリはまシートに座り、ハンドルとシフトノブに手を添える。気分だけはWRCドライバー。ボンネット上に盛り上がるエアインテークは、運転席から見るとかなり巨大だ。ただエクセーヌの通気性がイマイチなのか、汗で背中がしっとり湿っぽくなることがあった。
リアシートは、シートバックが平板でヘッドレストすら備わらない。スペース的には狭くないのだが、太いCピラーのせいで圧迫感もある。ドアが4枚ついてはいるが、あくまでドライバーのためのクルマということだろう。
280ps、39.2kgmのパフォーマンスに恐れをなして、まずはゆっくりと走り出したが、エンジンが3000rpm以下では特に恐れることはなかった。4、5、6速に入っていたら、アクセルをいくら踏んでも加速は緩やかだ。ただし、あくまで3000rpmより下のハナシ。3000rpmから4000rpmの間でターボがかかると、爆発的なパワーがはじける。試みにフル加速してみたところ、1速2速ではレッドゾーンの8000rpmまで一気に吹け上がり、油断するとシフトアップする前に、レブリミッターのお世話になりそうである。ちなみに、1速全開で60km/h強、2速では100km/h弱までカバーし、3速では……、ご想像におまかせします。
ボクサーターボの威力をいかんなく発揮させるのが、スバル自製の6段MT。シフトフィールは硬めだがギアもカチっと入るし、ストロークはとても短い。ちょっと手首を動かせば、コキコキとギアが変わる。クロスレシオに設定されており、シフトダウンを駆使すれば、エンジンが元気な回転を保てる。
路面に張り付く
中央高速自動車道にのった。6速の100km/h巡航時、エンジンは2800rpm。ターボチャージャーが常に「ヒューン」という音をたて、怒濤の加速へ向けて、クルマが息を吸い込んでいるかのようだ。そこから本気で加速するには、つまり、ターボバンに回転計の針を入れるためには、最低でもギアを2つ落とすことが必要だ。
高速安定性はすごぶる高い。パワーステアリングのアシスト量は多くて操舵感は軽く、ステアリングホイールに手を添えるだけで真っ直ぐ走る。乗り心地はハード。路面のデコボコをしっかり拾い、繋ぎ目ではショックがお腹に響く。さすがにここまで硬いと、リポーターは、パッセンジャーにはちょっと申し訳なく思う。
高速をおり、クネクネ道が続く山道を走った。あいにくと雨が降り注ぎ、路面はしっとりと濡れて光る。轍にはところどころ、水たまりができていた。先ほどのフル加速で味わった強烈なパワーを思い出すと、「アクセルあけても大丈夫かな?」。と思って走り始めたが、杞憂だった。リポーター程度の飛ばし具合では、タイヤが「ズルッ」なんていう気配すらない。ステアリングホイールの切り込みに、インプレッサは忠実に向きを変え、“ヒラリヒラリ”軽い身のこなしというよりは、4つのタイヤがガッシリと踏ん張って、路面に張り付くように曲がっていく。同じコーナーを、徐々に速度をあげて数回曲がってみたけれど、クルマにはまだまだ余裕がありそうだった。その前に、ドライバーの限界がきてしまいそう。体力気力ともに不足気味で、大変お恥ずかしい……。
ヘアピンコーナー(ただの急カーブです)の立ち上がりで、ステアリングの舵角が残ったまま、2速4500rpmくらいからアクセルをガバっと開けてみたけれど、クルマはステアリングの向いた方向へググっと進む。“スバル 4WD”30年が積み上げた安心感、というと大袈裟ですが、ヨンクの恩恵をかなり受けたであろうことは間違いない。「速く、楽しく、安全に」スポーツするためのクルマという、WRXの宣伝文句を、雨のなか思い出していた。
(文=webCGオオサワ/写真=郡大ニ郎/2002年5月)

大澤 俊博
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