MINI【特集/河村康彦】
MINIは小さくない 2002.01.02 試乗記 MINI ……195.0〜235.0万円 「今度のMINIは、どうしてかように大きいのか?」との疑問を抱いて国際試乗会に臨んだ自動車ジャーナリスト、河村康彦。答は、目に見えるところにあった……。BMWが“プロデューサー”を務めたニューFFコンパクト「MINI」はどうだったのか? イタリアはペルージャからの試乗報告。なんて大きいんダ!
「これを聞かずに死んでたまるか!」 --このところつとに日本でも有名になったイタリアの地「ペルージャ」で開催される新型ミニの国際試乗会に、ぼくはこのような決意をもって臨んだ(!)
誕生から41年目の2001年、ついにフルチェンジを行なった新しいMINIは、確かにどこから見ても間違いなく「MINI」に見えるルックスの持ち主。けれども、“オリジナルの”MINIの姿を実際に知るほとんど100%のヒトは、新型を目にすると開口一番「なんて大きいんダ!」とコメントを発するに違いない。
「今度のミニはどうしてかように大きいのか?」--これが、今回のイベントでぼくがどうしても明らかにしておきたかったことがらだった。モーターショーの舞台でその姿を目にし、スペックのアウトラインも手に入れると、ぼくのなかで新型MINIの「大きさ」にまつわる疑問が、いよいよフツフツと湧きあがってきたのである。
MINIが大きくなった理由のヒントは、目に見える部分にあった。15インチのシューズだ。新しいMINIは標準で15インチ、オプションでは16、17(!)インチのホイールも用意される。ちなみに、オリジナルMINIは、10インチからスタートした。
すでに知られているように、新型MINIの“プロデューサー”はBMWである。今度のモデルは、見た目のクオリティから走りのテイストまで、すべてが「BMW基準」のうえに成り立っている。
「15インチのシューズを履くことを前提とすると、最低のサイズが新型ミニの大きさだった」。テストドライブ後のディナーの席で、隣に座ったBMWのエンジニアがそっと教えてくれた……。謎は解けた。
ゼロ・ロール/ゼロ・ピッチ
新しいMINIは、まずベーシックな「MINI One」(90ps)とチューンの高い「MINI Cooper」(115ps)がラインナップされる。トランスミッションは、いずれも5段MTかCVTである。試乗会場に用意されたのは、115ps版MINIだった。
新型MINIが狙った走りのテイストは「ゴーカート・フィーリング」。ステアリングを切れば切っただけ曲がり、乗り心地も決してフワフワしない--新型MINIの開発陣は、サスペンションを持たないゴーカートのフィーリングを、そのように解釈したのだろう。
そんな思いが最も如実に伝わってきたのは、「スポーツサス+16インチシューズ」というセットオプションを装着したモデルだった。このクルマのフットワークは、まさに「ゼロ・ロール/ゼロ・ピッチ感覚」。乗り心地は決して不当に硬いわけではないが、ボディの無駄な動きが徹底して排除されている。ステアリングは格別にクイックではないのだが、何せロールをほとんど感じないため、ハンドリングのダイレクト感はすこぶる高い。
これに比べると「標準仕様」の方は多少ゆったりとした走りのテイスト。が、それでもホイールベースに対して相対的にトレッドが広いため、コーナリング時の踏ん張り感はなかなか高い。いずれにしても路面凹凸への当たりが多少硬めなのが新型MINIの乗り味だ。そのぶん、走行スピードが上がっていくと徐々にフラット感も高まる印象。このあたり、アウトバーンで鍛えられた(?)甲斐があったということになるのだろうか……。
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メリハリが足りない
ブラジルにあるクライスラーとの合弁工場で生産され、はるばる英国まで運ばれた末にボンネットフード下に収まる1.6リッターの新開発エンジンは、正直なところ“BMWユニット”と考えるといささかキャラクターが薄い印象を受けた。低回転トルクが強く、CVT車でも出足の力強さに不満がない反面、高回転にかけてのパワーの伸びはいまひとつ。
「小さなプレミアムカー」を狙う新型ミニには、もう少しメリハリの効いたパワーフィールが欲しい。
もっとも、パワー不足を感じるヒトには、スーパーチャージャーを装着した強力心臓を搭載した「Cooper S」がオススメということになろう。クーパーの115psに対し、こちらは163psと、すでにパワーまで発表されているから、デビューは秒読みだ。
BMWにとって、どうやら「MINI」とはイコール“小さいこと”ではないようだ。「これからもFR方式にこだわり、タウンカーには手を出さない」と宣言をして久しいこのメーカーにはしかし、企業全体の燃費率を向上させるために、いまやコンパクトカーの投入は必要不可欠なのである。
(文=河村康彦/写真=BMW Japan/2001年6月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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