フォード・エスケープV6 3000XLT AWD(4AT)【試乗記】
『手慣れた豆料理』 2001.01.31 試乗記 フォード・エスケープV6 3000XLT AWD(4AT) ……247.0万円 タイヤが悪いのか、クルマが悪いのか。北米で頻発したSUVの転倒事故を深刻に受けとめながらも、フォードのエンジニアは、「足場が悪く、凹凸の激しい路面での走破性を増すために車高を上げたクロカンを、グリップの高いオンロードで、それもGTカーみたいに走らせるたあ、おめえさん……」。べらんめえ、とは言わなかったと思うが、どこか釈然としないものを感じたのではないか。 一方、ワイルドさに憧れてヨンクを購入してはみたものの、トラックベースの、前後リジッドの足まわりからくる乗り心地に満足できなかったユーザーも多かったのだろう。商売上手な三河の自動車メーカー、トヨタは、1998年に早くも乗用車ベースにクロカン風ボディを与えたレクサスRS300ことトヨタ・ハリアーを市場に出し、みごと人気車種に押し上げた。それを見て、メルセデスベンツがMクラス、BMWがXシリーズで後を追うことになるのだが、では、「エクスペディション」「エクスプローラー」と、従来型ながら、それぞれのカテゴリーでナンバーワンモデルを擁するフォードは……。骨と皮
その答のひとつが、2000年1月のデトロイトショーでデビューした、マツダとの共同開発モデル「エスケープ」である。マツダブランドでは、ボディパネルが異なる、つまり違った外観のクルマ「トリビュート」として発表された。
ブルーオーバルSUV群の末弟エスケープは、4輪独立懸架のブランニュー・シャシーを与えられた。ボディサイズは全長×全幅×全高=4400×1825×1720mmと、エクスプローラーから見るとグッと小さい。とはいえ、トヨタRAV4、ホンダCR-Vなどよりはひとまわり大きく、ハリアーと比較すると、175mm短く10mm太く55mm背が高い。
「オフローダーに関しちゃ黙っていないよ」というメーカーのクルマらしく、「ユニボディ」と呼ばれる、頑丈なラダーフレームをモノコックに内包した車体構造を採る。「タフなSUVに欠かせない高い剛性と、SUVスポーツカーと呼べるほどの高いステアリングレスポンスを両立した」(プレス資料)そうである。
パワーソースは、3リッターV6(203ps、27.0kgm)と2リッター直4(129ps、18.7kgm)の2種類が用意される。
かなめの4WDシステムは、リアのデファレンシャル前に「RBC(ロータリー・ブレード・カプリング)」と呼ばれる差動装置を配する。筒状の容器にシリコンオイルを満たし、多数のロータリーブレードを入れたいわゆる多板クラッチ式。通常はほぼ前輪駆動だが、フロントタイヤがスリップしてリアとの回転差が生じると、RBCのブレードが圧着され、後輪にトルクが伝達される。粘断性を利用したビスカスカプリングよりコンパクトで強力、かつ「4×4スイッチ」(ロックボタン)を押せば、最大限にクラッチが押しつけられて前後輪がロックされる。つまり、フルタイムの50:50となるわけだ。
ローンチ前、北海道からネバダ、アリゾナ、オーストラリア奥地の砂漠、そしてカナダはマニトバ州トンプソンで零下40度Cの苛酷なテストに耐えたエスケープ。柄は(アメリカンサイズでは)小さいが、なかなか骨のあるクルマなのである。あ、骨と皮はくっついちゃってますけど。
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宣伝と実利
日本での販売が開始された9日後、2000年12月15日、フォード・エスケープのプレス向け試乗会が、山梨県は上九一色村で行われた。
ドアを開けてドライバーズシートに座ると、「アメリカンだ」と感じた。ザックリと織られた生地を使ったシートは、あたりが柔らかく、クッション感が高い。エクスプローラーもこんな感じだったよなぁ、と思い出す。無闇にお尻が沈まないのがいい。インストゥルメントパネルはトリビュートと同じだが、ナセル内のホワイトメーターが「フォードブランド」を主張する。
クリーブランド製3リッターV6は、ザラついたフィールのエンジンで、特に静かでもスムーズでもないが、リポーターは、SUVにラグジュアリーカーの静粛性を求めるわけではないので、気にならない。回りはじめから十分なトルクを供する、気が置けないエンジンだ。ただ、走り出しに4ATがちょっと滑る感があるのが欠点。
乗り心地は全体におおらかで、トリビュートよりスローなステアリング、柔らかめの足まわりがよく合っている。エンジニアの人は、「トリビュートとは、ダンパーが異なり、ストラットのアッパーマウントをソフトにしています。しかし数値的な違いは大きくありません。味つけ程度でしょうか」と説明されたが、いかにも「手慣れた豆料理」といった感じ。久しぶりに会った同級生から弟さんを紹介されたような気安さがある。
直4モデルのドライブフィールはトリビュートと選ぶところがないから、せっかくエスケープを買うのならV6をオススメします。
エスケープのキャンペーン用フレーズは、「NO BOUNDARIES / FORD OUTFITTERS」。あらゆる境界をなくすフォードのギア、ってか。辞書を引かないとわからないような本国のキャッチフレーズをそのまま使うのは、「本場のSUV」ということをアピールしたいからだろう。実際、試乗会で用意された胸突八丁のオフロードコースを難なくこなした。
だから、「限界を感じさせないクルマなんだ」と、オーナーになったアナタがジマンするのは、もちろんかまいません。ただ、あまり「アメリカン」を強調しない方がいいかもしれない。なぜなら、右ハンドルのエスケープは、すべて山口県は防府にあるマツダの工場でつくられるからだ。
さすがはグローバルカンパニー。宣伝は宣伝。実利は実利である。
(webCGアオキ/写真=高橋信宏)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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