ジャガーSタイプ・シリーズ【海外試乗記】
ジャガーは何か、それを見つけた「S」 2002.06.25 試乗記 ジャガーSタイプ・シリーズ ……525.0から960.0万円 ジャガーがフォードグループ傘下に入って、はじめての協同作業となったSタイプ。1960年代のスポーティサルーンの名をとったモデルは、しかしリンカーンLSとの部品共有化の弊害が指摘されてきた。そこで、4年ぶりとなるビッグチェンジを受けたニューSは……。オーストラリアからの報告。
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「S」も「X」に劣らず大切
「そう、私はそんなに難しいことはともかくとして、ビアリッツで最初の発表会をやったときに比べて、今回のSタイプは本当によくなったと思っています。それは世界中のプレスが認めてくれてます。やり甲斐が出てきたわね」。名商品広報部長、コリン・クックさんが、対政府関係の企業広報に移った後、その大切な地位を引き継いだセシル・サイモンさんは、そううれしそうに語った。フランス人のセシルはまだ若い女性である。負けず嫌いと明るさ、そして数カ国語をあやつることから抜擢されたのだろう。
2002年3月にスペインで、新しいSタイプの4.2にだけ試乗したときも、彼女は必死になって「新型Sはいい」と周囲に話していたが、それは広報的立場と言うより、本心からそう思っていたようだった。だから、オーストラリア、サンシャイン・コーストで開催された、オセアニアや日本などを対象とした右ハンドル版の全Sタイプの試乗会にまで、わざわざジャガーを代表してやってきた。そして周囲の反応にとても喜んできた。
海外部門担当ディレクター、ステファン・ペリンさんも、やはりスペインに引き続いて、彼らにとっての地の果てまで来ていた。
「Sタイプは大事なんです。Xタイプはそれなりに頑張ってますが、ジャガーのイメージをもっともっとスポーティでスタイリッシュなブランドにしたい。そういう意味で、今回はとてもいいモデルに進化したと自信を持っています。やはりフォードとの共同の仕事に慣れたからですね。最初は随分お互い遠回りした挙げ句に、間違った道に行ってしまったこともありますが、今はジャガーはジャガーなりに、自分の価値を大切にしつつ、自由にクルマを考えることができました。新しいSがこんなに高く評価されているのが好例でしょう」。
そう、フェイズ2ともいうべきジャガーSタイプの新型は、本当によくなっている。というより、「Sタイプ・ジャガーというのは、こういうクルマであるべきだった」ということを示してくれた。
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完全なジャガーワールド
グリルのなかにエンブレムが入り、多少目つきが鋭くなったのを除けば、新型Sタイプは一見旧型と区別しにくい。しかし中身は、モデルチェンジといっていいほど変わっている。これは旧型がかなり「リンカーンLS」に近かったために、つまりフォードグループ内でのプラットフォーム共有の最初の試みだったゆえに犠牲を被っていた部分を、ジャガー流に改善したからである。
ニューSシリーズのラインナップは、従来の「3.0V6」と「4.0V8」の2種から、ベーシックグレードとして「2.5V6」(204ps/525.0万円)が追加され、「3.0V6」(243ps/620.0万円)「3.0スポート」(243ps/670.0万円)、そして4リッターが4.2リッターに拡大された「4.2V8」(304ps/745.0万円)、そのスーパーチャージャー付き「R」(406ps!!/960.0万円)の5種類。3種類のパワープラントに組み合わされるトランスミッションとして、すべてに新開発のZF製6段(!)ATが採用された。
サスペンションは前後ともサブフレームやアーム類まで徹底的に見直されて、ハンドリング、乗り心地の改善が図られ、アンチスピンデバイス「DSC」や、簡易アクティブ・サスたる「CATS」にも手が入れられた。
実際に乗り込むと、室内からして旧Sとは違って、完全な“ジャガーワールド”である。生産性のためにやむなくリンカーンと共用していたセンターコンソールをジャガー伝統のものに換えたからで、「XJ」や「X」と同じテーマでまとめられている。
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6ATは七難を隠す
各モデルとも、気持ちよく走る。「2.5V6」はXタイプのそれを縦置きしたもので、204psとXの198psよりややパワフルだが、ボディは1680kgと、4WDのXより大人ひとり分ほど重い。にもかかわらず個人的に日本で使うには充分だと思ったのは、やはり6段ATのおかげである。優れた多段ATは非力をカバーするという好例だ。
バランス的に合っているのは3リッター。243psあり、ATのギアリングは、ファイナルを含めて2.5と同じだから、かなり活発に走る。
4.2に拡大されたNAのV8(304ps)もすごく良かった。中低速は充分なだけでなく、とても静かで洗練されている。それでいて高回転領域に入ると、これぞジャガーという咆吼とともに素晴らしいパワーを示す。
無論、現存ジャガー中最強の406psを出すスーパーチャージャー版「R」は、さらに強烈なパワーを持つし、餅網グリルを持った外観から想像されるほどチューニングカーのように荒っぽくないが、私自身はNAの4.2のスイートネスの方がジャガーらしいと思った。
乗り心地も大きく改善された。オーストラリアの道路はあちこち荒れているが、かつてのSタイプの悪弊だった下まわりがドタバタした印象はまったくない。かといって伝統のしなやかさとは違い、もっとしっかり、しっとりとした現代的な乗り心地である。XJよりはずっと確実なフィールを示すステアリングもたのもしい。
「ジャガーはマイナーチェンジ後に限る」。Xタイプの初期モデルに乗る身としては、そう憎まれ口を叩きたくもなるが、「ともかく略奪結婚後4年目にして、ようやく自分がいかに生きるべきかをわかったようだね」とセシルに言ったら、「きつい言葉だけど、そのとおりね」という返事が返ってきた。
(文=webCG大川悠/写真=ジャガージャパン/2002年6月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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