ポルシェ・ボクスター(MR/7AT)/ボクスターS(MR/6MT)【海外試乗記】
自信を増した末弟 2012.04.11 試乗記 ポルシェ・ボクスター(MR/7AT)/ボクスターS(MR/6MT)2012年夏頃の日本導入が予定される新型「ボクスター」に、ひと足先にフランスで試乗した。3代目は、どんな進化を遂げたのか?
外装は完全オリジナル
事前に発表されたオフィシャル写真を見た時から予想していたが、実物は想像以上に立派になったなあ、というのが、フランスはサントロペにて初対面を果たした新型「ボクスター」の第一印象である。ボディーサイズはほとんど変わっていない。しかしホイールベースが60mm伸ばされ、フロントトレッドが40mm拡大されたことで、骨格はがぜんたくましさを増している。
その上、「918スパイダー」がモチーフのヘッドランプや前後フェンダーの鋭いエッジ、存在感を増したサイドのエアインテークに、左右テールランプ間を渡されたリアスポイラーなど、新しいデザイン要素もこれまで以上にフィーチャーされた。実際、外装に「911」との共通パーツはゼロである。独自のキャラクターを、ますます強めているのだ。
一方その中身は、今まで通り新型911と多くの部分を共有しており、同様の大きな進化を果たしている。例えば軽量化。ボディーは全体の約47%がアルミ化されて、静的ねじれ剛性を40%も向上させながら、最大25〜35kgの軽量化を実現している。これには実に12kgも軽量化されたソフトトップの開閉機構も貢献しているはずである。
パワートレインもさらに高効率化された。「ボクスター」のエンジンは先代の2.9リッターから2.7リッターへとダウンサイジング。直噴化によりパワーは逆に10psアップの265psに達している。一方の「ボクスターS」は3.4リッター直噴のままで、5ps増しの340psとされた。トランスミッションは7段PDKと6段MT。新型911に使われた7段MTは重量増を嫌って使われていない。いずれもアイドリングストップ機構は標準装備となる。
直線ですら気持ちいい
まず乗り込んだのはPDK仕様だ。外観と同様、大幅なクオリティー向上を果たしたインテリアに感心しつつ、早速トップを開けてクルマをスタートさせる。
すると、その走りが何ともまあ洗練されているのだ。クルマ全体が軽く感じられる上に、乗り味はとにかくフラット。サスペンションはよく動いて入力をいなしているが、車体の姿勢はまったく乱れない。新型「911カレラ」とフィーリングは似ているが、重量物がさらに車体の中心寄りに集められているミドシップのボクスターは、さらにしっとりと落ち着いた印象をもたらす。真っすぐ走らせるだけで、こんなに気持ちの良いクルマが他にどれだけある? と思わされるほどだ。
もちろん安楽なだけではない。フロントトレッド拡大の効果か、ステアリングを切り込んだ時のノーズの入りはますますダイレクトに。そしてその後も、ミドシップならではの前後バランスの良さを実感させながら、まさに4輪で曲がっていく。
際立った安定感に、素晴らしい一体感。しゃかりきに攻めなくても、スポーツカーを走らせるよろこびを濃厚に味わうことができるのである。
2.7リッター直噴ユニットも、下から上までスッキリと回り切って爽快だ。いかにもフリクションの少なそうな、まるで電気モーターのような回転フィールが心地良い。無味乾燥という意味ではない。パワーはそこそこだが、トップエンドに近づくにつれていきいきしてくるレスポンスやサウンドは、内燃機関ならではの快感だ。
エンジンもシャシーも余裕
続いて乗り換えたボクスターSの3.4リッター直噴ユニットも、基本的なキャラクターにはそう大きな変化はない。しかし、さすがに力強さは段違いで、全域で分厚いトルクを感じられる。こちらはPDKだけでなくMT仕様にも乗ったが、多少シフトをさぼっても難なく走れる余裕が、ボクスターSにはある。
サスペンションやブレーキが強化されたせいか、同じオプションの20インチタイヤを履いた仕様でも、乗り心地はボクスターより硬めとなる。その分、コーナリング限界もさらに高く、公道ではタイヤを鳴らすことすら難しい。先代後期型では、さすがにシャシーのキャパシティーがギリギリかなという感じもしていたが、さすがにそのあたりは解消されている。
オープン時の風の巻き込みはやや大きくなっているという。フロントウィンドウが寝かされたこと、ホイールベースの延長でシートとウインドディフレクターまでの距離が若干伸びたせいだ。しかしながらクリニックの結果、問題ないということになったのだとか。あるいは、人によっては気になるところかもしれない。
一方、クローズ時の快適性は格段に向上している。静粛性は文句のつけようがないほど。もともとロードノイズが小さくなっているから、音がこもるようなこともない。このあたりも見事である。
とにかく新型ボクスター、完成度の高さは圧倒的だ。ちょっと立派になり過ぎたかな? という思いも頭をよぎらないではないが、らしさが失われたわけではなく、単に成長しただけ、自信を増しただけである。きっと誰もが大満足となるだろう。その進化ぶり、もしかしたら911以上に驚かされたと言っていいかもしれない。
(文=島下泰久/写真=ポルシェ・ジャパン)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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