第449回:ロングドライブで分かった「マツダCX-5ディーゼル」の本質 これは前代未聞の“肉食系エコカー”だっ!!
2012.03.30 小沢コージの勢いまかせ!第449回:ロングドライブで分かった「マツダCX-5ディーゼル」の本質これは前代未聞の“肉食系エコカー”だっ!!
カタチは違えど、どちらもエコカー
やはりクルマは、走ってナンボ……久々に、走ったからこそ分かることがあるって痛感してしまいましたよ。そ、最近話題の新生エコカー、クリーンディーゼル版の「マツダCX-5」だ。
というのも、不肖・小沢はラッキーなことに、先日このクルマと「トヨタ・プリウスα」とで、東京〜福岡間約1000kmを走破できた。
確かに、クリーンディーゼルエンジンを積んだSUVとハイブリッドのミニバンじゃ、見た目もクラスも異なっている。ユーザー層も、結構違っているような気もする。
ところが、いま自動車に関する世間の最大の関心事は、「エコ」=「燃費」。そういう意味で、この2台はライバル同士。その比較には、意義があるのだ〜っ!
2.2リッターの新作クリーンディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」を搭載した「マツダCX-5 XD(クロスディー)」は、258万円の低価格から買えるお手軽なモデルにして、燃費は最もいいグレードで10・15モードがリッター20km。JC08モードが18.6km!
かたや「トヨタ・プリウスα」は、スタート価格が同じ250万円前後で、10・15モードの燃費は、リッター31.0km。JC08モードだと26.2km。ディーゼルとガソリンの違いもあるが、どちらも環境性能はクラストップレベルだし、「ディーゼルはハイブリッドに比べて、高速道路での燃費に強い」とよく言われることを考えると、意外にいい勝負をする可能性もある。ってなわけで、実際に比べてみたわけ。いざ、勝負だ勝負〜!!
……って、途中経過をハショっていきなり結論言っちゃうと、東京から福岡まで1000kmチョイ、主に高速を使って100km/h前後で走ったところ、実燃費は「プリウスα S(5人乗り)」のFF車がリッター20.3kmで、「CX-5 XD」の4WD車がリッター17.8kmと、プリウスαの圧勝! 数字の上では、一応ハイブリッドカーの優位性が実証できた。
とはいえ、回生ブレーキを全く使わないCX-5の17km台後半という値もすごいし、燃料の価格差まで考えると、また結果は違ってくる。
このテストをした時点ではレギュラーガソリン1リッターは141.4円で、軽油が122.2円。結果、走行1km当たりのコストを考えると、プリウスαが7.0円で、CX-5が6.9円と微妙に逆転する!
コスト的には、CX-5の勝ち。エコロジーでは一歩譲ったが、エコノミーなのだった。
ディーゼル車の方が疲れない?
それと肝心なのが、走りの味わいだ。これは“ロングツーリング”だから実感できたことだけれど、約2日間かけて1000km、それぞれのクルマを交互に走らせた結果、CX-5の方が圧倒的にラクチンで、しかも楽しく感じられたのだ。
今回の試乗会に参加した人全てが同意していたんだけれど、個人的には、プリウスαに乗ったときの疲労度を「10」とすると、CX-5は「7〜8」……いや「6〜7」ぐらいかな(笑)。
理由は大きくふたつある。まずはコントロール性。短距離を走っただけでは分かりにくいが、例えば東京から御殿場、御殿場から浜松、浜松から大阪の先という具合に、一度に100〜200kmのまとまった距離を走り続けると見えてくることがある。
俺たちは燃費のテストをしていることもあって、90〜100km/hの決まった速度で巡航するわけだけれど、ハイブリッドカーであるプリウスαの場合、一定の速度をキープするのが難しい。アクセルペダルの動きに対し、エンジンは素直に連動してくれず、エンジンとモーターの出力配分をどうするか、コンピューターがいちいち判断している。しかも、燃費を意識した最近のクルマらしく、エンジンブレーキが効きにくい。結果、登り坂では遅く、下り坂で速くなる。
かたやCX-5のディーゼルエンジンは、アクセルペダルの動きに対して“確実に回る”。スピードメーターを常に意識してはいなくても、交通の流れを目で見ながら自然とアクセルをオンオフしていくだけで、一定速度をキープしやすい。
それとハンドリングだ。ハイブリッドのプリウス系はご存じの人も多いと思うが、ゼロトーイン、つまり転がり抵抗を徹底的に減らすために、タイヤはまっすぐ前を向いている。
ところがこれだと、ステアリングを切った時に、レスポンスが遅れ気味に感じられたりする。グリップ低めのエコタイヤを装着すると、その傾向はより強くなり……それがまた「エコカーはつまらない」と言われる一因になったりするのだが、CX-5にはそれがない。走りの良さをうたうだけあって、ハンドリングもなかなかいいのだ。
俺さまが主役のCX-5
さらに本質的には運転の根源的ダイレクトさであり、“誰が主役なのか”という問題なのかもしれない。
まずはプリウスだが、コイツで長距離ボーッと走ってると自分とクルマの間に、妙な“黒子”がいることに徐々に気付く。アクセルを踏んでもエンジン音はすぐに上がらず、突如後でブウーンと回り出したり、時には「カチカチ」スイッチングしている音もする。
実際、そこには優秀なアシスタントたるコンピューターがいて、遊星ギアを使って絶妙に制御している。で、この間に黒子のいる感じがプリウスの面白さであり、独特の間合いなのだが、これが長距離だとわずらわしく感じられる時があるのだ。
まさに運転しながら伝言ゲームをしているようなモノ。これから速度アップしたいんですが→はい了解しました。エンジンかモーターと相談します→で、今回はモーター主導にしました! ってな具合。
ところがCX-5だとそんなことはない。基本アクセルとエンジンは直結だから、速度アップしたいんですが→もうしてますよ! ぐらいの感覚。しかもクリーンディーゼルはトルク極太だから、低回転からまさに回った通りにスピードが出る。なんというかペダルの動きに素直にスピードが追従する。まさに“俺さまが主役”で、オオゲサに言えば、アクセルひとつで、路上を支配しているようなキブンになれる。で、おそらくこれが新世代ディーゼル、良くできた直噴ディーゼルターボの快楽の本質だと思うのだ。
実は運転というのは、いろんな判断の集合体。前にクルマがいるのかいないのか、ソイツがスポーツカーなのかトラックなのか、乗ってるのが男性なのか女性なのか、今日は雨なのか雪なのか……そのほかいろんな情報を得ながらレスポンスしている。つまりリアクションの塊だ。
ところがディーゼル車だとそういう要素に左右される部分が確実に減る。それはエンジンのトルク特性が素晴らしいからである。多少の起伏やデコボコなどモノともせずに、アクセルを動かしたままに進む。ついでにCX-5に関していうと、ハンドリングも優秀で、思ったように曲がって止まる。結局こういう性能が長距離ドライブのイージーさだったり、気持ち良さにつながるのだ。
運転の快楽性の本質とは、人馬一体感もそうだが、“誰が主役か”ということも大きい。その点、プリウスは確かに効率はいいけど、今ひとつ自分が主役にはなれない草食系である。まわりに気を使い、黒子に気を使う草食系のエコカーなのである。
ところがこのクリーンディーゼルのCX-5は確実に肉食だ。今までの自動車と同様、ドライバーのアクセル操作やステアリング操作に忠実で、それでいてエコ。つまり、今までにない“肉食系エコカー”なのだ。「自動車=自ら動くクルマ」である限り、自分が主役であることこそが楽しさそのもので、それがディーゼル車の良さの本質なのである。
……ってなワケで、多少哲学的にはなりましたが(?)、今回はそういう結論に至ったのですよハイ(笑)。
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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