MINIジョンクーパーワークス ペースマン(4WD/6MT)【海外試乗記】
手だれにささぐMINI 2013.04.03 試乗記 MINIジョンクーパーワークス ペースマン(4WD/6MT)……453万円
MINI7番目の兄弟「ペースマン」にも「ジョンクーパーワークス」仕様が登場。一見“難解”なモデルだが、その目指すところは? ドイツ・フランクフルトから南へ走り、答えを得た。
クセダマが自動車の歴史を彩る
MINIにとって7番目のボディーバリエーションとなる「ペースマン」。ブランド内では「スポーツ・アクティビティ・クーペ(SAC)」と呼ばれている……そうだ。
よう意味がわからん。
そうお思いの御仁は多いかと思う。というか僕自身、このクルマを適切に説明しろといわれても言葉が見当たらない。
が、一方で個人的にはなんだか引かれてしまうのも確かだ。ユーティリティーのためにしつらえたクロスオーバーのトップをわざわざスラッシュカットして狭くした、「レンジローバー イヴォーク」のようなデザインに先進性と放蕩(ほうとう)感を覚えるのは、昔からセダンベースの2ドアクーペに萌(も)えてしまう自分の嗜好(しこう)からなのだろう。
「MINIクーペ」や「MINIロードスター」もそうだが、決して数が見込めないモデルをバンバン投げ込んでくる辺りは成功したブランドの余裕ということか。ただし、そういうクセダマたちが、自動車の歴史を彩ってきたこともまた確かなわけである。
そんなペースマンは日本でも去る3月2日=MINIの日にデビューしたわけだが、間髪を入れずその「ジョンクーパーワークス(JCW)」仕様の導入も発表されている。先日、ひと足先にフランクフルト〜ミュンヘンの500km近くを一気に走ってくる機会があったが、とかく尖(とが)った印象を抱くJCW銘柄の違った一面がしっかり垣間見えるツーリングとなった。
「JCWペースマン」のスペックは、先に発売されている「JCWクロスオーバー」のそれとほとんど変わらない。1.6リッター直噴ターボは218psをマーク、通常は1900rpmから発せられる28.6kgm(280Nm)の最大トルクは、全開等の高負荷時はスクランブル制御で一時的に30.6kgm(300Nm)まで高められる。0-100km/hで6.9秒という瞬発力も変わらないが、最高速はAT仕様で226km/hと、クロスオーバーより1km/h速いのは空力特性の変化によるところか。
全高はクロスオーバー比で25mm低く、ドアが2枚しかないという外観はともあれ、機能面で大きく違うことといえば、クロスオーバーはオプションで5人乗りの仕様も選べるが、ペースマンは4人乗り一本となっていることだ。
“ゴーカートフィール”を助けるALL4システム
そりゃあこのカタチだからして、実用性にそこまで拘(こだわ)るユーザーもいないだろう。そう思いながら連れだった同業の西川淳さんに運転を任せ、後席に乗り込んでみると、これが望外に居心地は悪くない。乗り降りは普通の2ドアハッチバック車に潜り込むような感覚で行えるし、座ってしまえば一番気になりそうな頭上空間も180cmの大男をギリギリカバーできている。
クオーターウィンドウは天地に狭い長方形でさすがに解放感には乏しい。まるで塀の隙間からシャバをのぞいているような気持ちになるが、ラウンジ的なトリムの意匠も手伝って、よく眠れそうだなと思うほどにリラックスできるのには驚かされた。
が、それは全てのペースマンに用意される意外性だ。なによりJCWが想像を覆してくれたのは、乗り心地の良さにある。
後席からもよく見える特大のセンターメーターは200km/hを超える速度を指しながら老朽化の進むアウトバーンを突き進むが、Cセグメントにも満たない車格をして、多少のアンジュレーションや舗装の荒れにスタビリティーは動じない。その上でピッチングやローリングも適切に抑えられており、後軸に近いところにいる乗員の不用な突き上げや揺すりも小さくとどめられる。
なにせ自分の身長ではヘッドクリアランスがスレスレということもあり、ピッチングにはことさら気を配っていたが、しまいには油断しきってしまい、薄暗い後席で本気で寝落ちしてしまったほど乗り心地は丸く優しいものだった。
そのライドフィールはいざ自分がステアリングを握る番になると、目まぐるしく変わる路面状況にも自信を持って臨めるという安心感の源となる。
例年になく雪が多い冬季のドイツということもあって、試乗車は法規で定められたウインタータイヤ(ピレリのソットゼロ)を履いていたが、ドライのアウトバーンではタイヤ側のリミットである210km/hまでしっかりとインフォメーションを残し、200psオーバーのパワーをきっちり路面に伝えていく。
シンプルなシステムながら路面状況に応じて前後おのおのに最大100%近い駆動力を伝えるALL4システムは、特に低温時のハーフウエットなど、心もとない環境でアクセルを踏み続けている時に確実に後軸側へとパワーをつないでくれていることがわかる。
ゴーカートフィールが託された操舵(そうだ)のゲインはごく初期からバシッと立ち上がるぶん、ステアリングを保持する手のひらには若干の気遣いもあるが、クルマの動きそのものはナーバスなところはみじんもない。ボディー形状もあってやや大きめな風切り音などが整理されれば、その転がりようにはCセグメントに比肩する大物感があるといってもいいだろう。
ツアラーとしての資質が光る
長距離を短時間で走り切るという条件があったからこそ際立ったのは、クロスオーバーのJCWでも感じられたこの特別な架装に込められた別の意味だ。
普通のMINIの車台をベースとしたJCWバージョンは、とかくミズスマシのようなアジリティーと共にコーナーをひったくるようなスポーツ性が際立っている。が、クロスオーバー系の車台をベースにしたJCWが描いているのは、スポーツ性を若干弱めたぶん、ツアラーとしても十分通用する上質なライドフィールである。特に足まわりのダイナミックレンジは、同門のBMWの銘柄と比較しても際立っているのではないかと感じさせるほどだ。
とはいえ、JCWペースマンをファミリーカーとして使う向きもそうはいないだろう。多くの人は6万円安く設定されたJCWクロスオーバーのユーティリティーに傾くことは目に見えている。もっと言えばJCWというブランド自体、デイリーカーとして求めるには性能的にトゥーマッチでもあるし、価格的ハードルも高い。
だからこそ、ペースマンのしかもJCWという設定を、他人とは違うというマインドを満たす対象として捉える人がいてもおかしくはない。逆にいえばそういう人が、十分ファーストカーとして使えるポテンシャルをJCWペースマンは有してもいるわけだ。ふらちな気持ちで買ったとしても損はさせないクルマ。つまりそれは、約30万台という年間販売台数を誇るMINIのマーケットが、世界でも日本でも余興では片付けられないほど巨大化していることを意味してもいる。
2001年の初代デビュー当時は単なるカワイイ戦略かと思っていたのに、ここまで増殖なさるとは……という点においては、SAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)どころかAKBビジネスにも相通じるところがあるのかもしれない。
(文=渡辺敏史/写真=BMWジャパン)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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