第17回:やっぱり気になる電費と加速
2013.03.29 リーフタクシーの営業日誌第17回:やっぱり気になる電費と加速
運を呼ぶタクシー?
「19台? 都内に19台? それじゃ、僕ら、すごくラッキーじゃないですか」
必死の形相で追いかけてきた若いサラリーマン(第16回参照)は、電気自動車のタクシーが都内に19台しかないという事実を知ったとたん、自分たちの運の良さ(=気のせい)を痛感したらしく、6億円は俺のものみたいな気になって「豊洲の駅前で宝くじ買うぞ」と本気で話し合っていた。
余談だが、この手の客、すごく多い。前日もそうだった。
九段下のグランドパレスホテルから乗せた3人の女性客は「東京ソラマチまで」と目的地を告げ、乗り合わせた黒いタクシーが妙な格好だと話が始まり、「えッ、電気自動車なの? 東京に19台しかないの? え〜ッ、6万台のうちの19台?」と驚き、こう続けたのだった。
「スカイツリーに登れなくたって東京ソラマチで十分。電気自動車のタクシーに乗れただけで東京にきたかいがあるってもんよ」
確かに、偶然に電気自動車のタクシーに乗り合わせる確率はべらぼうに低いけれど、スカイツリーと比較するほどのもんじゃないし、ましてや6億円を当てたも同然みたいにありがたがられるとこっちが照れるが、それでも、乗り合わせた乗客の皆さんは「ラッキー」と感じるらしい。
さて、二人の若いサラリーマンである。「で、どうなんですか、リーフって?」
リーフのことがずっと気になっていたんですよと話した若い二人は、乗り心地は? 死角は大きい? どんな種類のタイヤを履いているの、とか、後部座席の座り心地が悪いような感じがするのは気のせい?(気のせいじゃない)とか、女性客の反応は? とか、その質問の意図はなに? と逆に問いたくなるようなものを含め、数々の質問をタクシー運転手(=矢貫隆)に投げ続けるのだが、やっぱり一番気になるのは次の質問だったようだ。
「電費は?」
「加速は?」
「80キロ? フル充電で80キロしか走らないの? 冬は40キロ? そりゃぁ厳しい」
タクシー運転手から走行可能距離の現実を聞かされた若いサラリーマンは、他の多くの乗客がそうであったのと同様、「えッ、たった80キロなの」の反応を示し、ちょっとがっかりしたふうではあったけれど、運転手の、「でも」に続いてでた、加速はね、すごいんですよ、の言葉で一気に気をとりなおす。
電気自動車はパワーがすごい
リーフタクシーはすでに銀座と築地の混雑を抜け、勝ちどき橋も渡り切り、晴海三丁目の信号を左に曲がっていた。
ここから豊洲のあたりまでの晴海通りは道幅が広いわりには交通量が少なくて、リーフのアクセルをグッと踏み込むには好都合。あらやだお母さん(第15回参照)と彼女の娘にサービスしたのと同じように、この日、二度目のサービスタイムである。
アクセルを一気に踏み込む。リーフが加速した。そこでエコモードからドライブモードに切り替えると、リーフはさらなる急加速、シートに背中が押しつけられるような感覚を伴ってシャ〜ッと進んでいく。
「うわ〜ッ、うちのおやじが買った3リッター車より加速がいい」
ひとりはこう言った。そしてもうひとりは、ただ、すげ〜ッと叫んでいた。「すんげ〜ッ、リーフ、すげ〜ッよ、運転手さん、すげ〜ッ」
いや、俺は、すげ〜ッくない。すげ〜ッのはリーフの加速だ、とは言わず、こういう運転をすると、ますますバッテリーの減りが早くなってしまうんですよ、と、運転手は静かな口調で事実関係を告げたのだった。
それから数時間後、リーフタクシーの運転手は、リーフタクシーに意外な反応を示す中年男性を乗せることになる。若い二人のサラリーマンがそうであったように、電気自動車と聞くと、たいていの人は「ビュ〜ン」と走れないと思い込んでいる。だからリーフの急加速にびっくり仰天するわけだけれど、この日の夕方、バッテリー残量がわずかとなっての帰庫の途中で乗せた中年の男だけは違っていた。
「運転手さん、どう? 電気自動車……」
乗客の問いかけに言葉で答える代わりに、アクセルをグッと踏み込んで急加速をしてみせた。すると、中年の男性客は、こう言うのである。
「やっぱりすごいな電気自動車は」
やっぱり、とは?
「俺も電気自動車に乗ってるんですよ。フォークリフト」
「ガソリン車のフォークリフトは荷物が重いとアクセルを踏み込んでやらないとツメが上がらない。でも、電気のフォークリフトは簡単に上げる。パワーがすごい」
(文=矢貫隆/写真=荒川正幸)

矢貫 隆
1951年生まれ。長距離トラック運転手、タクシードライバーなど、多数の職業を経て、ノンフィクションライターに。現在『CAR GRAPHIC』誌で「矢貫 隆のニッポンジドウシャ奇譚」を連載中。『自殺―生き残りの証言』(文春文庫)、『刑場に消ゆ』(文藝春秋)、『タクシー運転手が教える秘密の京都』(文藝春秋)など、著書多数。
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