アバルト595Cツーリズモ(FF/5AT)【試乗記】
猛毒なんて言わないで 2013.04.30 試乗記 アバルト595Cツーリズモ(FF/5AT)……364万円
得意の小排気量チューニングにより、日本でもカルト的な人気を誇ったイタリアの名門「アバルト」。その最新モデルである「595Cツーリズモ」のインプレッションから、今日のアバルトの姿を探った。
今も高いブランドイメージ
新世代の「フィアット500」が発売された2007年、アバルトもまた復活を遂げた。1950年代から60年代にかけて小排気量車のチューニングを得意としていたファクトリーがアバルトだったが、近年ではフィアット車の高性能バージョンに名を冠するにとどまっていた。新たにブランドとして再生し、レースを行うとともに市販車を販売するようになったのである。
熱いハートを秘めるコンパクトカーという成り立ちは日本人受けしたようで、70年代の「アウトビアンキA112アバルト」などは長い間カルト的人気だった。2012年のパリサロンで発表された「アバルト695 エディツィオーネ マセラティ」は、世界で499台の限定生産の中で日本への割り当てが100台に及ぶ。今もブランドイメージは高いままなのだ。
「アバルト595」は、695と同じくフィアット500をベースにしている。スーパーの安売りのようなキリの悪い数字は、1957年デビューの2代目500をチューンしたかつてのモデルに由来している。479ccだったノーマルから拡大された排気量から、誇らしげに命名されていていたのだ。発売されたのは1963年だから、ちょうど50年前だ。あの頃の500ベースのアバルトは、放熱のためにリアのエンジンフードを開けたままにしておくのが常道だったが、もちろん今それをまねする意味はない。
パワーはノーマルのほぼ2倍
現代の595の排気量が数字そのままであるはずもなく、エンジンはターボ付きの1.4リッター直4だ。最高出力は160psで、ノーマルの「500ツインエア」が85psだからほぼ2倍である。595には「コンペティツィオーネ」と「ツーリズモ」があり、パフォーマンスを重視しているのがコンペティツィオーネだ。試乗したのは「595Cツーリズモ」で、より快適性を高めた仕様のオープンモデルということになる。
アバルトといえばサソリということで、前後左右どちらから見てもエンブレムが目に入る。「500C」や「595」のロゴもいちいちシャレていて、往時の雰囲気を伝える。運転席に座っても、ステアリングホイールの真ん中にサソリが鎮座しているから常に意識せざるを得ない。試乗車のレザーシートはブラックとブラウンのツートンで、アダルトでエロティックなムードが漂う。シートバックは高く、かなりの体格でも窮屈には感じないはずだ。座面の高さ調整機構はあるが、たいして低くはならない。
エンジンを始動させ、ダッシュボードの中心に位置するシフトボタンの中から「1」を押してスタートする。アルミニウム製のスポーツペダルは、ちょっとセンター寄りだ。アクセルひと踏みで、ツインエアとはまったく違う素性であることがわかる。一瞬のためらいのような間がなく、スムーズな発進だ。時間としてはごくわずかな差だと思うが、感覚的には大きな違いがある。
ダッシュボードの上には、小さな円形のメーターがぴょこんと飛び出している。ターボの過給圧を表示するために加えられているのだ。街乗りでゆったり走っている間は、ほとんど動きはない。高速道路の料金所ダッシュで、初めてこのメーターが存在感を示す。針が12時の位置を過ぎると、強烈な加速が始まるのだ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ピーキーだったのは昔の話
山道では、この針が右へ左へ行ったり来たりする。常に右側に保つようにできればいいのだろうけれど、なかなかそうもいかない。ただ、ターボエンジンとはいっても低回転から十分なトルクがあり、多少のミスなら失速して苦労するようなことはなかった。アバルトというと、ついピーキーなエンジンじゃないかと想像してしまうが、それは昔の話。小排気量のエンジンをカリカリにチューンしていた時代は高回転を保つことが必須だったが、現代のアバルトはドライバーに寛容だ。
このメーターの真ん中に、「SPORT」という文字が見える。ダッシュボードのスイッチを押すとこれが赤く点灯し、モードが変わったことを知らせる。最大トルクが21.0kgmから23.5kgmに増大し、パワステの設定も変わる。そして、シフトもクイックになるのだ。
595に与えられるトランスミッションは、5段のシングルクラッチセミATのみである。シフトにはどうしてもタイムラグがあり、この感覚が好きになれないという人も多い。しかし、この595に関しては、あまり気にならなかった。正直なところ、ツインエアを速く走らせるには慣れが必要だ。特に急な登り坂をスムーズに走るには、ちょっとしたコツがいる。595は、ATモードにしていてもギクシャクする場面はなかったのだ。ステアリングホイールに備わるパドルを使えば、さらにスポーティーに走れる。身もふたもない話だが、少々の問題はパワーとトルクが解決してくれる。
595Cにはキャンバストップが備えられているが、そもそも2代目500ではこれが標準装備だった。エンジン音が車内にこもるため、それを外に放散するための窮余の策だったのだ。遮音技術の向上した現在では理由が異なってくる。むしろマフラーから発せられるスゴみのある音を聞くためにオープンにしたくなる。もちろん開閉は電動だ。全開にすると結構な風が吹きこむが、開放感の気持ちよさには代えられない。
以前はアバルトというと“小さなボディーにサソリの猛毒”などという定型句で語られることが多かった。しかし、サソリだって時代につれて変わっていく。燃費だって、満タン法で9.5km/リッターとまずまずだった。現代のサソリは、エレガントでなければ生きていけない。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】 2026.10.16 欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。
-
フィアット500トリノ ハイブリッド(FF/6MT)【試乗記】 2026.10.13 電気自動車からエンジン搭載車へと華麗に変身! 日本では珍しい、4代目「フィアット500」のマイルドハイブリッドモデルに試乗。1リッターの自然吸気エンジンを6段MTで駆るイタリアンコンパクトは、今のクルマが忘れてしまった楽しさに満ちていた。
-
ボルボES90ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】 2026.10.12 ボルボの電気自動車(BEV)「ES90」のトップモデル「ウルトラ ツインモーター パフォーマンス」を駆り、東京から初秋の新潟へ。往復700kmを超えるロングドライブで分かった新型5ドアハッチバックモデルの実力と、BEVで気になる充電環境のリアルな今を報告する。
-
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】 2026.10.8 フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
NEW
日産キックスX e-4ORCE(前編)
2026.10.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産キックス」に試乗。デザインが新しいのはもちろんのこと、まさに下ろしたての最新のパワートレインを搭載。日産の大きな期待を背負ったコンパクトSUVである。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。 -
三菱eKクロスEV P(FWD)【試乗記】
2026.10.17試乗記三菱の軽乗用電気自動車(EV)「eKクロスEV」が、一部改良でデザインを刷新! 2022年発売の古参の一台は、台頭するライバルをどう迎え撃つのか? 最新モデルと比べても、キラリと光る魅力はあるのか? 軽EVのパイオニアが擁する一台の実力を確かめた。 -
写真で解説する「フィアット・グランデパンダ」
2026.10.16画像・写真ステランティスが「フィアットブランドの大きな柱のひとつとなる重要なモデル」と位置づける「グランデパンダ」が日本上陸。その具体的な見どころを、写真とともに解説する。 -
フィアット・グランデパンダ ハイブリッド ラプリマ(FF/6AT)【試乗記】
2026.10.16試乗記欧州を代表するコンパクトカーの一台である「フィアット・パンダ」が第4世代に進化。新たに「グランデパンダ」を名乗り、日本にやってきた。ずばり新型の見どころは車両の随所にちりばめられた初代モデルへのオマージュである。上位グレード「ラプリマ」の仕上がりをリポートする。 -
スズキの未来を徹底検証! 技術戦略説明会から“10年先のスズキの姿”を夢想する
2026.10.16デイリーコラム年間生産500万台で、Dセグメントまでカバーする巨大メーカーに!? スズキが発表した「10年先を見据えた技術戦略2026」を徹底検証。技術開発に製品開発、インドを核としたグローバル戦略などの中身を通して、「10年先のスズキの姿」を予想した。 -
賢い選択 ――キャデラック「LYRIQ」フラットプランのすゝめ――
2026.10.15投資家も太鼓判! 「キャデラック・リリック」×フラットプランという最適解<AD>クルマが変わり、時代も変われば“持ち方”だって変化する? お金のプロである投資家が、「キャデラック・リリック」の残価保証型リースを勧める理由とは? 夢の「2台持ち」をかなえる、最新電気自動車の賢い選び方を考えた。





























