MINIクーパーS ペースマン ALL4(4WD/6AT)
感性で選ぶクルマ 2013.05.16 試乗記 今や7種類ものボディータイプをそろえる大所帯の「MINI」ファミリーから、今回は最新モデルの「ペースマン」に試乗。クーペ×SUVという、一族きっての個性派の魅力を探った。名前は「MINI」でも大家族
なんとまあ、MINIの増殖ぶりには開いた口がふさがらない。
ほんの10年ちょっと前、まず3ドアハッチバックで始まった「往年の名曲カバー作戦」だが、4座カブリオレ、モデルチェンジを挟んで変則4ドアの「クラブマン」、2座の「クーペ」と「ロードスター」、本格5ドアの「クロスオーバー」、そして今度は「ペースマン(Paceman)」ときた。
基本のプラットフォームさえあれば、どんな展開も可能なのが現代のクルマ界とはいえ、こんなに矢継ぎ早では、商品企画担当者、ほとんど不眠不休に違いない。乗ってみると、互いに似ているのに、けっこう車種ごとに手触りも異なるから、技術部門も不眠不休なのだろう。
今回ここでテストしたのは、新しいペースマンのうち「クーパーS ALL4」。その名の通りフルタイム4WD、つまりクロスオーバーから始まったパワートレインの持ち主だ。というか、クロスオーバーのボディーを3ドアハッチバック風に仕立て直し、全高を4cm下げたほか、乗車定員を4人に限定(クロスオーバーも基本は4人だが、オプションで5人乗り仕様もある)した、ちょっとぜいたくなハコ型クーペ。価格帯も少しだけ高く、クロスオーバーの267.2万円(「ONE」のMT)~386万円(「クーパーS ALL4」のAT)に対し、ペースマンはベーシックなONEがなく312.2万円(クーパー)~396万円(クーパーS ALL4)に設定されている。
もともとゴチャゴチャいろいろなものが並ぶMINIのインテリアだが、クロスオーバーにも増して「これでもMINIか」と目を疑うほど質感が高く、多種多様なオプションもそろっているのがペースマン。大きさこそ違うものの、存在の空気感としては「レンジローバー イヴォーク」(の3ドア)を思わせるところも多い。何でもこなせるメカニズムを持ちながら、実質的にはどこまでも前席最優先のパーソナルカーというわけだ。
それ自体たっぷり大きく、クッションも分厚い後席の座り心地は上々だが、ドライバーが楽な運転姿勢を取った後ろでは膝がつっかえ気味だし、そもそも前席をドッコイショと倒しての乗り降りは楽ではないというより屈辱的だ。この種のボディーの常としてドアも大きく、アウターハンドル部で前後長130cmを超えるだけでなく、大きく開けるとサイドシルから117cmも張り出すから、余裕のない駐車場では使いにくい。そんなことを気にせずにすむ富裕層が、テールゲートから無造作に遊び道具など放り込んで、週末を楽しみに行くというイメージが似合う。
![]() |
![]() |
![]() |
オススメは17インチのAT仕様
動力系はMINIクーパーS(4気筒1.6リッターターボの184ps)だから、すでに知られている走りっぷりそのまま。1600~5000rpmという非常に広い回転域で一貫してNAの2.5リッター級に匹敵する24.5kgm(ごく短時間のオーバーブースト時には26.5kgm)もの最大トルクをひねり出すから、6段ATのDレンジ以外は使いようがない。わざわざマニュアル操作しても、ちょっとばかり主人公気分になれるだけで、かえって結果が悪かったりする(速さも燃費も)。だから、MINI全車種せっかく6段MTを用意してくれていても、どおおおお~してもクラッチペダルを踏みたいというMT原理主義者以外には薦める気になれない。
足まわりのセッティングは、なかなか芸が細かい。SUV的な味付けのクロスオーバーに対し、ペースマンはアーバンアドベンチャーというわけか、荒れた舗装面での乗り心地がわずかながら柔らかい。でも、もっと乗用車テイストのハッチバックやクラブマンと比較するとたくましさが濃い。強化されたスプリングとダンパーで有無を言わさずタイヤ(今回のテスト車はピレリP-ZEROの225/40R19 99W)を路面に押しつけるというか、凹凸を踏みつぶす感じだ。
それと同時に、このサイズと重量(1440~1460kg)に対してオーバーサイズ気味なのか、ガツンと下品な突き上げはこないものの、なんとなくバネの先っちょで重量物が躍っているのがわかる。おしゃれなクーペとして快適に乗り回すなら、こんなオプションの19インチより、ハイトが高い標準装備の205/55R17が適しているかもしれない。その方が、急激なステアリング操作に対してもある程度グニャッと変形して、粘るようにグリップする可能性はある。225/40R19は、急に切り込むと一瞬ズザッとフロントが逃げそうな気がするのだ。
![]() |
![]() |
![]() |
次はピックアップ? それともリムジン?
………いや、このようなハードウエア評価は、実はMINIには当てはまらないのかもしれない。正味の話、MINIすべてが機械としての自動車というより、コスチュームとして選ばれているようだからだ。高出力エンジンや4WDであることも、それが発揮する性能や機能より、衣服の柄みたいな要素なのだろう。
そんな目で眺めると、MINIの商品展開も理解しやすい。コスチュームであるからには、いつまでも不変では許されない。消費者が息つく間もないほど次から次へと新商品を出し続けるのが商売の極意。待ち受けるファンとしても、これだ! と感性に響いたら速攻で買って乗り回し、後ではやってきたころには、さも飽きたような顔で次のニューモードに乗り換えるのが正道。だとすると、あとMINIに残された姿といえばピックアップ(トラック)か、ストレッチリムジンぐらいしかなさそうだ。
さもなければ、世界1000台限定の「inspired GOODWOOD」(599万円)あたりで、俗塵(ぞくじん)を離れた大人の境地を探るしかないだろう。
(文=熊倉重春/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
MINIクーパーS ペースマン ALL4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4125×1785×1530mm
ホイールベース:2595mm
車重:1460kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:184ps(135kW)/5500rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1600-5000rpm
タイヤ:(前)225/40R19/(後)225/40R19(ピレリPゼロ)
燃費:12.3km/リッター(JC08モード)
価格:396万円/テスト車=493万2000円
オプション装備:マルチファンクションステアリング(3万5000円)/ランフラットタイヤ(1万8000円)/7.5J×19ホイール<Yスポークスタイル ライト・アンスラサイト>+225/40R19タイヤ(27万円)/クロームライン・インテリア(2万2000円)/クロームライン・エクステリア(2万8000円)/ブラックリフレクターヘッドライト(2万5000円)/ヘッドライナー・アンスラサイト(2万8000円)/インテリアサーフェイス<ピアノ・ブラック>(2万2000円)/コクピットサーフェイス<ピアノ・ブラック>(2万6000円)/スポーツボタン(3万円)/ナビゲーションパッケージ(14万5000円)/レザーラウンジシート(26万8000円)/メタリックペイント<ブリリアント・コッパー>(5万5000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:3083km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:475.0km
使用燃料:44.9リッター
参考燃費:10.6km/リッター(満タン法)

熊倉 重春
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。