ボルボV40 開発者インタビュー
スウェーデンのオリジンを打ち出した 2013.05.16 試乗記 ボルボ・カー・グループプロダクトストラテジー&ビークルマネジメント
ビークルライン ディレクター
ホーカン・エイブラハムソンさん
デビュー2カ月で約4000台が日本国内で販売された新型「ボルボV40」。大健闘ともいえる人気の秘密はどこにあるのか、開発者のホーカン・エイブラハムソン氏に話を聞いた。
背景には人を思いやるスウェーデンの風土が
ホーカン・エイブラハムソンさんは、「ボルボV40/V40クロスカントリー」を含むボルボのCセグメント全般の開発のまとめ役を務めている。Cセグメントとは、わかりやすく言えば「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や「アルファ・ロメオ ジュリエッタ」などが属するセグメント。ホーカンさんは、各国の主力商品がしのぎを削る激戦区で戦う男だ。
と、初対面にもかかわらずファーストネームでお呼びしてしまったけれど、そうしたくなるほど温かい人柄の方である。ふんわりやさしくて、知的で、ボルボというブランドに洋服を着せたらこうなるだろうと思わせる方だった。
本題のボルボV40クロスカントリーにふれる前に、1978年から35年にわたってボルボで働くホーカンさんに、ボルボについて前々から疑問に思っていたことを尋ねてみた。
――1990年代の前半まで、日本のクルマの教科書には「ボルボは手袋をはめたまま操作できるように、ドアノブやスイッチ類を大ぶりに作ってある」とありました。でも、いまのボルボはどのパーツもスタイリッシュで繊細なデザインになっています。もう、手袋をしたままでは操作できない。ボルボは変わったのでしょうか?
答えはYesであり、Noでもあります。人間を中心に考えることや安全性を重んじることは変わっていません。人を思いやるスウェーデンの風土が背景にあるので、変わりようがないともいえます。
一方で、スタイリングやドライビングダイナミクスは変わりました。ひとことで言えば、エキサイティングでアグレッシブな方向に変わっています。
――ホーカンさんは、ボルボが変わり始めたのはいつだと思われますか?
こう尋ねると、ホーカンさんは沈思黙考。ご自身の35年のキャリアを丁寧に振り返っているようにお見受けした。真摯(しんし)な方なのだ。
モデル名で言えば「850シリーズ」からでしょうか。年代で言えば、1990年代に入る頃だと記憶しています。
――変わったのはなぜでしょうか?
愚問だとはわかっていたけれど、聞かずにはいられない。
それは、グローバルな競争に勝つためです。
ボルボで最もアグレッシブなモデル
ここから、本題であるボルボV40シリーズの話題に入る。
――グローバルな競争に勝つため、というお話がありましたが、ボルボV40/V40クロスカントリーは、熾烈(しれつ)な戦いが繰り広げられるCセグメントに送り込むモデルです。競争に勝つために、どんなことに取り組んだのでしょうか。
実はV40/V40クロスカントリーを開発中に、「S60/V60」がデビューしました。驚いたのは、S60/V60のダイナミックパフォーマンスが格段に向上していたことです。
私は、V40シリーズはボルボのラインナップで最もアグレッシブなモデルでなければいけないと考えていました。だからS60/V60を見て、V40シリーズの性格がよりアグレッシブな方向になるように設計を変更したのです。具体的にはフロントとリアのサスペンション、そしてステアリングコラムなどをやり直しました。
評価の高いボルボV40シリーズの運動性能が生まれた背景には、こんなプロセスがあったのだ。
――とはいえ、メルセデス・ベンツのAクラスも高い運動性能を打ち出していますし、おそらく新しいフォルクスワーゲン・ゴルフも仕上がりはいいはずです。そんな中にあって、ボルボV40シリーズの強みは何でしょう?
ドイツ車のコピー製品を作っても仕方がありません。もちろん運動性能や品質といった面で、ドイツ製品のスタンダードに達している必要はあります。けれども、そこから先はスウェーデンのオリジンを打ち出すことが大切だと考えています。
――オリジンとは、具体的にはどういうことでしょうか。
大昔から取り組んできた安全技術、それから北欧デザインですね。
安全装備に関しては、上級モデルに備わるものはすべてV40シリーズにも搭載しています。
デザインについて述べれば、V40シリーズのエクステリアはボルボとしてはかなり強い表情にしています。Cセグメントでアグレッシブに戦うためです。一方インテリアは、クリーンでピュア。少しアンダーステートメントでありながらぬくもりのある、北欧デザインのよさを味わっていただけるはずです。
乗る人の使い方に応じたバリエーションを用意
ホーカンさんが、うれしそうに笑う。デビュー2カ月で約4000台と、日本におけるボルボV40シリーズの売り上げが好調であるという話題になったのだ。
同時期のメルセデス・ベンツAクラスは約5000台だから、販売ネットワークの規模を考えればV40は大健闘だといえる。
世界的に見ても、V40の日本での売れ行きは際だつ。2013年1月~3月の日本における販売台数は3387台で、同時期のイギリスが3095台、スウェーデンが1562台なのだ。まず日本で人気に火が付いた、クイーンやチープトリックみたいなモデルだ。
――新しいV40が日本で売れている理由を、どのように分析なさいますか?
この質問に対して、ホーカンさんは3つの答えをあげた。
まず、燃費が日本のみなさんを納得させる水準に達したことでしょう。
JC08モードを見ると、1.6リッターの4気筒ターボが16.2km/リッター、2リッターの5気筒ターボが12.4km/リッターと、パフォーマンスから見てまずまずの数値となっている。
2番目に、エクステリアデザインが日本のみなさんを「おっ!」と思わせたのだろうと思います。
異論なし。世界的に見ても、V40シリーズは最もカッコいいCセグ車だ。
3番目は、ディテールの技術、例えば3種類のテーマごとに色を変える液晶パネルなどが受け入れられたのだと思います。
異論あり(と、声には出しませんでしたが)。そこはあんまり刺さっていないように思う。それよりも、269万円からという価格設定を理由にあげたい。ただ安いと言いたいわけではなく、バリューフォーマネーなのだ。
――価格と中身の関係が、フェアだという印象を受けます。いいモノには相応の対価を支払おうという、ある種の目の肥えた層に受けたと感じていますが、いかがでしょう?
V40シリーズは、すべて「ダイナミック」というサスペンションのセッティングになっています。だから「T4」や「T4 SE」でも、次のコーナーに向かっていくような走り方を楽しむことができます。213psの「T5 R-DEIGN」はもっとパワーが欲しい人に向けたモデル。そして週末に馬に乗りに行くようなライフスタイルの方にはV40クロスカントリーを用意しています。
ベースは共通でありながら、乗る人がどういう使い方をするかに応じてバリエーションがあり、しっかりすみ分けができています。これも、好調の理由かもしれません。
確かに、自分が何を欲しいのか、しっかり認識している方がV40シリーズを購入したと考えると腑(ふ)に落ちる。ホーカンさんと話をしながら、賢い人が作った賢いクルマを、賢い消費者が選択している構図が頭に浮かんだのだった。
(インタビューとまとめ=サトータケシ/写真=荒川正幸)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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