第182回:日本市場は大きなチャレンジです
ロールス・ロイスの対日戦略を聞く
2013.05.15
エディターから一言
回復の兆しが表れた日本経済。新型2ドアクーペ「レイス」を投入したロールス・ロイスは、日本のマーケットをどのように見ているのか? 同社のアジアパシフィック担当リージョナルディレクター、ポール・ハリス氏に聞いた。
若い世代からの関心に期待
2013年3月のジュネーブショーがワールドプレミアとなった「レイス」。“史上最もパワフルなロールス・ロイス”とうたわれ、632psを発生する6.6リッターV型12気筒ツインターボを搭載。わずか4.6秒で、2360kgのボディーを100km/hまで加速させる。そもそもレイスとは、どんなクルマなのか?
――ロールス・ロイスは、レイスという名前を2度、使っていますね。1938年に出た、“小型のファントムIII”とでもいうべき初代。そして70年代には、「シルバーシャドウ」のストレッチ版として。今回のレイスは、もちろん、初代のスピリットを受け継いでいると思いますが……。
その通りです。私も、“38年に出たレイスの21世紀版”ということができるのではないかと考えています。初代のレイスは、「パワー」「スタイル」「ドラマ」、この3点において、ほかのどのクルマをも凌(しの)いでいました。新しいレイスも、同じコンセプトを踏襲しています。
――かつてのレイスは、“ヤング・サルーン”と呼ばれたこともありました。ニューレイスも、“相対的に”若者向けですね。
たしかに、デザインからして、若者を意識しているところがあります。日本市場では、実際に自分で運転する「ドライビングカー」と受け取られることでしょう。4人が乗れて、ロールス・ロイスのラインナップ中、最もパワフルなクルマ。そういった観点からも、若い人たちを引きつけると思います。
「ファントム」は、新世代ロールス・ロイスのベンチマークを築いたクルマ。「ゴースト」は、スタイリッシュかつコンテンポラリー。そして日常使いもできるということで、若い人たちからも注目を集めました。今度のレイスは、ゴースト以上に若い世代の目を引くのでは、と期待しています。
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環境性能にも気を配る
12気筒エンジンに8段ATを組み合わせるロールス・ロイス レイス。欧州基準での燃費は、7.4km/リッターとされる。“超”高級車を手がけるメーカーとして、ロールス・ロイスが考える環境対策とは?
――レイスは、3000万円を超えるクルマです。具体的には、何歳くらいの方が購入すると予想しますか?
そうですね。具体的な情報を出すのは難しいですが、ロールス・ロイス全体の購入者平均年齢は、昨今、かなり若くなりました。“若い”をどのように定義するかという問題はありますが、日本市場で私たちが「若い」という場合は、40~50代を意味します。ほかのマーケットでは、20代を指すこともありますが、日本ではそういったケースは見られません。
――そうした“若い人”たちの価値観は変化していて、高級車といえども、いわゆる環境性能は避けて通れなくなっていると思います。どのように対応していますか?
たしかに、こういったクルマにはいくつかの問題が残るかもしれません。ただ、ロールス・ロイスの昨年の販売台数は、グローバルで見ても3500台を少し超えるくらい。大海の中の一滴に過ぎません。そのことを、まずご理解いただきたいのです。
CO2の排出量に関してセグメントの中で比較すると、類似する他車よりかなり少ないと思います。16カ月前には、日本に電気自動車の「ロールス・ロイス102EX(ファントムEE)」を持って来てテストしました。将来的には……、近い将来ではなく、中期的なスパンですが、ドライブトレインの変更もありえます。
一方で、製造工程における“環境性能”は、非常に優れています。われわれのグッドウッド工場は、このセグメントで最も環境に配慮されており、排出される物質の量も大変低く抑えられています。
モデルライフを通して、CO2の排出量をはじめとする環境に関しては、常に注意を払っています。個々のクルマに関しては、ドライブトレインの変更を含め、今後、段階的に減らしていくことになると思います。
日本市場の90%以上がビスポーク仕様
アベノミクス効果で、上り調子の経済が期待される日本市場。絶好のタイミングでレイスを投入したロールス・ロイスは、日本のマーケットをどのように見ているのか?
――アジアパシフィック地域において、ロールス・ロイスのナンバーワンマーケットは中国です。一方、数字に表れない、日本市場の特徴は何でしょう?
ロールス・ロイスのグローバル全体のナンバーワン市場、それはアメリカです。もちろん、中国でのニーズも高まっています。人口が非常に多いので、伸び率も高い。大きなポテンシャルを持っていることは間違いありません。
日本の市場には、「富裕層の数がアジアで最も多い」という特徴があります。日中を比較した場合、クルマの好みも異なります。例えば中国の場合、「黒いクルマにしたい」という希望が多く、またベージュより赤の方が人気がある。お客さまの嗜好(しこう)という点では、わりとわかりやすいのです。
日本では、もっとお客さまの好みが分かれていて、私どもにとって、大きなチャレンジになっています。それぞれの方が独自でユニークなモノを求め、差別化したいと思っている。ビスポーク仕様を選ぶ方が90%を超える。非常にいい市場ですね。
実際に私の所に来て、「こんなインテリアカラーにしたい」「自分の会社の色に合うものを」「妻が『こういう色が欲しい』と言っているんだけどね」と、お伝えいただける。うれしいことです。日本は、人口の密集度が高く、購入層が都市部に偏っているので、ご意見を聞きやすいという側面があるのかもしれませんが。
――レイスの販売において、「ベントレー・コンチネンタルGT」はライバルとなりますか? おそらく「まったく気にしていない」とおっしゃると思いますが……。
そうですね、ロールス・ロイスは超高級車セグメントなので、そもそも違います。レイスは、4人乗り。パワフルでドラマチック。本当のファストバックスタイル。ほかのクルマとは、全く違う要素を持っています。後席のヘッドクリアランス? 実際に座っていただける機会が訪れればわかるはずですが、いま考えられているクルマより、ずっと余裕があると思いますよ。
(インタビューとまとめ=青木禎之/写真=DA、ロールス・ロイス)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。