第185回:「BMW i3」はそこまで来ている
BMWイノベーション・デイに参加して
2013.05.29
エディターから一言
「初のプレミアム・エレクトリックビークル」とうたわれる「BMW i3」の正式デビューが近づいている。このプロジェクトの狙いを、同モデルが生産される独ライプチヒ工場を見学しながら解説しよう。
使用電力のすべてを風力発電で賄う
BMWが定期的に開催している技術プレゼンテーション「イノベーション・デイ」の今回の主役は「i3」。そう、2013年中に正式に展開が始まる予定のBMW iの基幹モデルである。サスティナブルな新しいモビリティーを提供するとうたうBMW iではあるが、それは単に電気自動車(EV)を販売するということではない。生産から使用、廃棄に至るあらゆる段階におけるプロセスを見直すことによって、トータルで見てサスティナビリティーを実現しようという野心的なプロジェクトなのだ。
象徴的なのが、今回のイノベーションデイの舞台となったライプチヒ工場である。BMW iの生産拠点となるここは、車両の生産に必要な電力をすべて、敷地内に設置された発生電力2.5MW(メガワット)×4基の風力発電装置にて賄う。隣接する「1シリーズ」などの生産工場には外部からの電気が通っており、風のない日が続くなどした場合には、それを流用することもあるが、通年でならして見た場合には100%を風力で賄うことになる。ただし、基本的に電力は余る計算で、その分は工場の他の場所で使われ、外部に供給することはない。
これにはBMW iモデルが、生産に必要なエネルギーが少なくて済むことも貢献している。何しろBMW車の平均と比べて、エネルギー消費量は約50%、水の消費量は70%も削減できるというから大きい。さらに、これに使用時、そして廃棄時に必要なエネルギーを加えたプロダクトライフサイクル中のCO2発生量を見た場合、2008年式「118d」を100%とすると、「i3コンセプト」はわずか66%、走行用の電力供給すべてを再生可能エネルギーで賄えた場合には実に50%で済むという。とてつもなく大きな数字だ。
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決め手はCFRP製ボディー
生産エネルギー低減の秘訣(ひけつ)は、“ライフドライブコンセプト”に基づいた、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)を大規模に使ったまったく新しいボディー構造である。アルミ製シャシーのドライブモジュールに、CFRP製のライフモジュールを組み合わせたこの構造は、ボディー周辺のパーツ数を従来の3分の1に低減する。
しかもCFRPの生産は100%水力発電にて行われ、大規模な鋼板プレスも、防錆(ぼうせい)処理も研磨も塗装も不要となれば、話も納得といえる。アルミ製のドライブモジュールに関しては溶接もない。代わるのは接着である。
しかも、アルミ素材の多くはそもそもリサイクル品。サーモプラスチック製外板パネルの25%、インテリア素材の25%も同様だ。使用後まで視野に入れると、BMW iでは重量比で95%の素材をリサイクル可能にしなければならないのだという。ただしバッテリーについては風力発電のストレージなどにて、リサイクルではなく二次利用を行う。
ちなみにプレス機械がなく、塗装も行われないライプチヒ工場は、労働環境もすこぶる良い。単純な話、騒音は従来の工場より15%小さく、においなどが気になることもない。もちろんCFRPパーツの生産設備はあるが、高圧で打ち付けるわけでもないだけに、至って静かなものだ。
さらにここでは、照明の代わりに自然光を広く取り入れることによっても、エネルギー消費の低減と環境改善を実現している。明るく、静かで、においのない工場内は、およそ自動車の生産工場とは思えない雰囲気であった。
そしてあらためて説明するまでもなく、i3はEVである。取り巻く状況は変遷しているが、BMW iとしては、充電インフラの改善も進んでいることから、やはりメガシティーにおいては、最終的にはEV以外の選択肢はあり得ないと考えている。
EVといえば話題になるのは航続距離と充電時間だが、日本でも行われた「MINI E」などを使っての社会実験では、160kmの航続距離があれば多くの人が満足できるはずであり、また40km走って2時間という充電時間は十分にリーズナブルだというのが、BMWの見たてだ。ただし、そうはいっても不安になる、物足りなく感じるのが人の性(さが)。また実際に、遠出したい時などには困る。
そんな時のためにi3のユーザーには、まず航続距離を300kmまで延ばすレンジエクステンダーがオプションで用意される。さらには、他のBMWを一時的に利用できるなどのサービスも提供される予定だ。これが実現すれば、確かに1台所有でもEVで、i3で十分という人は少なくないだろう。
すでに準備は整っている
CFRPボディーということで気になる安全性、そして修理についても詳細な解説が行われた。そのライフモジュールは極めて堅牢(けんろう)で、前面衝突テストに使った車両を、そのまま後方衝突テストにも使えるという。つまり、ゆがみが全体に伝播(でんぱ)しないということであり、これはすなわち高い安全性につながる。
バッテリーについても、後方からの衝突の場合にはその高圧部分はすべて放電するように設計されているという。乗員あるいは救助の人たちが、感電する危険はないということだ。
CFRP製のライフモジュールは、リペアはそれほど難儀ではない。破損部分をカットして新しいパーツを組み付ける作業は、スチールモノコックボディーの鈑金(ばんきん)よりはるかに簡単だ。そもそもCFRPは外部には露出しておらず、外板パネルに覆われている。しかもそれは傷のつきにくいサーモプラスチック製だけに、普段使いでの小さな傷などはかえって少なくなりそう。総じてi3は、従来の車種より保守・維持費用が20%ほど安く抑えられるというから意外である。
駆け足で紹介してきたがBMW i、すでに準備は整っているという感じだ。ちなみにBMW iでは、この日本に大きな期待を寄せている。この国は世界のどこよりも充電インフラが充実しており、またEVに慣れ親しんでいるからだ。実際、経済ニュース的には話題の急速充電コネクターについても、日本ではCHAdeMO対応を行うとアナウンスされている。
しかし、同時にこの国では、すでにEVに対するある種の不信感みたいなものが醸成されているのも事実だ。十分だという航続距離は、本当に十分なのか。航続可能距離や近隣の充電スポットの表示といったEVを快適に使うために欠かせないIT機能を、どれだけ実現できるのか。あるいはライフサイクルで見たコストはどうか。そしてここ日本でも、電気で走ることが本当に環境に優しいこととなるのか。中型セダン並みというから、おそらくは500万円以上もするだろうEVを売っていくためには、少なくともこれらをクリアにしていく必要があるだろう。
しかし、もちろん彼らだってそのぐらいは織り込み済みのはずだ。展開が間近に迫ったBMW i、まずはお手並み拝見である。
(文=島下泰久/写真=BMW)
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島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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