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BMW i3スイート レンジエクステンダー装備車(RR)

コンセプトに乗るということ 2017.05.03 試乗記 鈴木 真人 マイナーチェンジにより、400kmにせまる一充電走行可能距離を実現したBMWの電気自動車「i3」。レンジ・エクステンダーを搭載した最上級グレード「スイート」の試乗を通し、類例のないその魅力をあらためて確かめた。

大容量バッテリーで航続距離を伸長

最近では試乗するクルマの多くが、何らかの形で電気モーターを利用している。ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)、電気自動車(EV)を合わせると、内燃機関だけのクルマより多いのではないか。すっかりモーターの感覚には慣れたのだが、2014年に初めてBMW i3に乗った時はまったく異なる運転感覚に衝撃を受けた。アクセル操作だけで加減速を行うワンペダル運転は、EVの中でも特異なものだった。

FCVの「トヨタ・ミライ」にしても、「プリウス」とあまり感覚が変わらない。新世代車であっても従来のクルマから自然に乗り換えられることが大切だと、トヨタは考えているようだ。BMWは逆の発想をする。i3を内燃機関のクルマとは異質な乗り物に仕立てようとした。新しいコンセプトが盛り込まれれば、自動車の姿は変わっていくという主張である。

よく知られているように、EVの最大の弱点は航続可能距離である。エネルギー密度の高いガソリンに比べると、電池はかさばるし重い。i3はレンジ・エクステンダー装着車を用意することで、弱点を克服しようとした。納得できる手法だが、根本的な対策は電池とモーターの性能向上であるはずだ。マイナーチェンジでは、大容量バッテリーの搭載で航続距離を大幅に伸ばしたという。従来モデルより70%アップの390km(JC08モード)という数字は驚異的だ。レンジ・エクステンダー装着車なら、東京から大阪まで走れる500km超に伸びる。

実力を試すために、東京から箱根までを往復することにした。3年前の試乗と同じルートである。今回もレンジ・エクステンダー装着車が用意されていた。ボディーカラーはプロトピック・ブルー。これまでは「i8」でしか選べなかった色である。東名高速道路から小田原厚木道路を経て箱根のターンパイクを目指す。

次世代モビリティーを提案するBMWのサブブランド「BMW i」の最初のモデルとして登場した「i3」。2013年にお披露目された。
次世代モビリティーを提案するBMWのサブブランド「BMW i」の最初のモデルとして登場した「i3」。2013年にお披露目された。拡大
2016年9月のマイナーチェンジではラインナップも見直され、インテリアの仕様が異なる「スイート」「アトリエ」「ロッジ」の3グレード構成となった。
2016年9月のマイナーチェンジではラインナップも見直され、インテリアの仕様が異なる「スイート」「アトリエ」「ロッジ」の3グレード構成となった。拡大
「i3」はCHAdeMO方式の急速充電器に対応しており、約45分で80%までバッテリーを充電することができる。
「i3」はCHAdeMO方式の急速充電器に対応しており、約45分で80%までバッテリーを充電することができる。拡大
「i3」は2016年9月にマイナーチェンジ。従来モデルを70%上回る、390km(JC08モード)という一充電走行可能距離を実現した。
「i3」は2016年9月にマイナーチェンジ。従来モデルを70%上回る、390km(JC08モード)という一充電走行可能距離を実現した。拡大
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ACCとの相性がいいモータードライブ

ステアリングホイールの向こう側に設置されているディスプレイに、電池とガソリンそれぞれの航続可能距離が表示される。EV走行可能距離は、190kmとなっていた。390kmという数字とはずいぶん違うのだが、この表示は直前の運転の仕方によって大きく変わることを前回学んだ。その時は、最初の表示が95kmだったから、ちょうど2倍である。

やはり運転感覚は破格だ。「日産ノートe-POWER」もワンペダル的な設定になっているが、人間にとって受け入れやすい方向を目指している。i3はまず理想の走り方を決めた上で、人間がそれに適応することを期待しているという印象だ。だから、癖が強い。ドライバーは新しい運転法に慣れるほかはないのだ。

なじんでくれば、ワンペダル運転は楽である。ブレーキを使う必要がなければ、ペダルを踏みかえなくてもいいわけだ。前車との距離を測りつつ、右足の力を増減するだけでシンプルな動作によるコントロールが可能になる。前が少し詰まった時も、ペダルから足を離せば自動的に適切な車間距離に戻るのだ。

渋滞ではワンペダル運転の恩恵がもっと感じられる。通常のAT車であればブレーキのみでスピードをコントロールするから同じに思えるが、流れが速くなるとアクセルに頼らなければならない。i3はもともとアクセルだけで操作できるので、フレキシブルに対応できるのだ。

試乗車は最上級グレードの「スイート」で、アクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)が標準装備されている。試してみると、かなりアグレッシブな味付けだ。というより、エンジン車に比べて反応が速いというべきだろうか。モーターのほうが電気的な制御との相性がいいようだ。料金所ダッシュでは少しもたつく印象だったが、後続車がついてこなかったところを見ると、適切な設定なのだろう。

走行可能距離の延長はバッテリーの性能向上によるもので、エネルギー密度を高めることで蓄電量を21.8kWhから33kWhにアップさせている。
走行可能距離の延長はバッテリーの性能向上によるもので、エネルギー密度を高めることで蓄電量を21.8kWhから33kWhにアップさせている。拡大
ステアリングコラムに備えられたシフトセレクター。イグニッションのオン/オフ……というか、車両の起動およびシャットダウンも、ここで操作する。
ステアリングコラムに備えられたシフトセレクター。イグニッションのオン/オフ……というか、車両の起動およびシャットダウンも、ここで操作する。拡大
今回のテスト車は最上級グレードの「スイート」。レザー仕様のインテリアが特徴となっている。
今回のテスト車は最上級グレードの「スイート」。レザー仕様のインテリアが特徴となっている。拡大
リアシートは5:5の分割可倒式。乗降性に配慮して、観音開き式のドアが採用されている。
リアシートは5:5の分割可倒式。乗降性に配慮して、観音開き式のドアが採用されている。拡大

緊急避難的な「ECO PRO+」モード

渋滞の中でもACCを使ってみた。追従機能は優秀である。しかし、あまり大きなメリットは感じなかった。ワンペダルのコントロール性が優れているので、ACCの優位性が見えにくいのだ。ACCだとどうしてもスタートに遅れが生じるので、自分のタイミングでワンペダル運転をするほうがしっくりくる。試乗した日は天気が悪く、土砂降りになるとACCは使えなくなってしまった。

i3はドライブモードを選べるようになっている。ずっと「ECO PRO」モードで走っていたのだが、「ECO PRO+」モードに切り替えたら航続可能距離が伸びることに気づいた。ECO PROモードで125kmの表示だったのが、ECO PRO+モードにすると142kmになったのだ。モニターを見ると、ECO PROは「最適効率走行」、ECO PRO+は「エアコンなし&時速制限90km/hでの最大航続距離」という説明が表示される。ECO PRO+モードは緊急避難的な意味合いなのだろう。

ターンパイク入り口では、EVでの航続可能距離は52kmになっていた。モードを「COMFORT」に切り替えてワインディングロードに挑む。中高速コーナーで構成されるコースでも、ほぼノーブレーキで快適に走ることができた。アクセルとブレーキのコンビネーションでメリハリをつけるのとは異質だが、ワンペダルでスピードをコントロールするのも別の楽しさがある。15kmを走り終えて大観山に到着すると、EV航続可能距離は12kmになっていた。40km分を消費したことになる。

タイトなコーナーの続くコースに入ると、ワンペダルの安楽さがさらにありがたくなる。いちいちブレーキを踏まなければならないというのは、実は面倒なことなのではないか。気持ちよくコーナーを抜けていくと、背後から何かが近づいてきた。というのは勘違いで、リアに搭載されている発電用の2気筒エンジンが始動しただけだった。相変わらず芝刈り機的な音である。後で後席に座ってみると、耳障りな音質が高級感をスポイルしていると感じた。改善したほうがいいと思うのだが、ドイツ的にはあまり重要なポイントではないのだろうか。

ストップ&ゴー機能付きのアクティブ・クルーズ・コントロール。「アトリエ」を除く2グレードに標準で装備される。
ストップ&ゴー機能付きのアクティブ・クルーズ・コントロール。「アトリエ」を除く2グレードに標準で装備される。拡大
ドライブモードコンピューターを利用すると、電装品の利用状況などで走行可能距離がどう変化するかを確認できる。
ドライブモードコンピューターを利用すると、電装品の利用状況などで走行可能距離がどう変化するかを確認できる。拡大
センターコンソールにはインフォテインメントシステムのコントローラーや走行モードの切り替えスイッチ、パーキングブレーキの操作ボタンなどが配されている。
センターコンソールにはインフォテインメントシステムのコントローラーや走行モードの切り替えスイッチ、パーキングブレーキの操作ボタンなどが配されている。拡大
バッテリー容量のアップで一充電走行可能距離が伸びたのに伴い、レンジ・エクステンダー装備車は511kmの距離を、無充電、無給油で走行可能となった。
バッテリー容量のアップで一充電走行可能距離が伸びたのに伴い、レンジ・エクステンダー装備車は511kmの距離を、無充電、無給油で走行可能となった。拡大

回生ブレーキで電力を補給

アップダウンを繰り返す道でも、デリケートなアクセルワークを心がけて回生ブレーキでうまく電力を補給すれば、電池残量を10km前後に保つことができる。エンジンは始動しない。長い下りで一気に充電しようと考えたが、無理だということがわかった。アクセルペダルを離してしまうと、クルマが完全に止まってしまうのだ。かなり急な下り勾配でも、急ブレーキがかかる。HVでよく使うテクニックは、i3では通用しない。

山道を走り終えて高速道路に戻り、往路よりもエコ運転を心がけて慎重に走った。燃料消費を抑えることを考えながら走るのは、知的な作業でもある。無駄な加速を避けて効率よく走ったつもりだが、表示される航続可能距離は確実に減っていく。電池残量はついにゼロになり、ガソリンだけを頼りにして走行することになった。

高速道路を降りる直前に警告音が鳴った。メーターを見ると、残りは19kmの表示である。インターチェンジから目的地の駐車場までは5kmあまり。なんとかたどり着けそうだが、上り坂でガソリンを消費して2度目の警告音。残り9kmだ。ECO PROだったのをECO PRO+に切り替えると、12kmに伸びた。駐車場に到着すると、それも8kmまで減っていた。

トリップメーターの表示は、246.8kmである。給油すると、8.54リッター入った。タンク容量は9リッターだから、本当にギリギリまで使い切っていたことになる。高速道路を結構なペースで走ったし、山道を楽しんだから条件は悪かった。おとなしく走ればもう少し距離が伸びるだろう。

i3の取扱説明書には、冒頭に「BMW iが実現する持続可能な製品サイクル」という章が設けられている。開発、生産、使用、リサイクルの各場面で、環境保護の取り組みが行われていることの説明だ。リサイクル素材を多用して水力や風力などのクリーンな電力を用いる工場で生産し、クルマが寿命を終えた後もバッテリーは100%リサイクルされるという。

i3は高価なクルマである。それでいて、ガソリン車に比べれば利便性は高くない。このクルマの価値は、未来を見据えた先進的なコンセプトを体現していることだ。そのことを理解した人だけが、プライドを持って乗ることができる。

(文=鈴木真人/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

テスト車のボディーカラーには、2016年9月のマイナーチェンジで追加された、新色の「プロトニック・ブルー」が採用されていた。
テスト車のボディーカラーには、2016年9月のマイナーチェンジで追加された、新色の「プロトニック・ブルー」が採用されていた。拡大
アルミ製のシャシーにカーボンファイバー製のキャビンを乗せるという、ユニークなボディー構造も「i3」の特徴。サイドシルなどは、キャビンを構成するカーボンパネルがむき出しとなっている。
アルミ製のシャシーにカーボンファイバー製のキャビンを乗せるという、ユニークなボディー構造も「i3」の特徴。サイドシルなどは、キャビンを構成するカーボンパネルがむき出しとなっている。拡大
「スイート」では、ダッシュボードのウッドパネルをオークとユーカリの2種類から選択可能。ケナフ麻や再生可能なウールなど、環境負荷の少ない素材の採用も、「i3」の内装の特徴となっている。
「スイート」では、ダッシュボードのウッドパネルをオークとユーカリの2種類から選択可能。ケナフ麻や再生可能なウールなど、環境負荷の少ない素材の採用も、「i3」の内装の特徴となっている。拡大
運転席の正面に搭載される、5.7インチのTFTデジタルメーターパネル。今回のテストでは最終的に325kmの距離を走り、13.5リッターの燃料を消費した。
運転席の正面に搭載される、5.7インチのTFTデジタルメーターパネル。今回のテストでは最終的に325kmの距離を走り、13.5リッターの燃料を消費した。拡大
「i3」の駆動レイアウトはRR。バッテリーは床に敷きつめられる形で搭載されており、モーターなどのパワープラントはその後方に積まれる。
「i3」の駆動レイアウトはRR。バッテリーは床に敷きつめられる形で搭載されており、モーターなどのパワープラントはその後方に積まれる。拡大

テスト車のデータ

BMW i3スイート レンジ・エクステンダー装備車

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4010×1775×1550mm
ホイールベース:2570mm
車重:1300kg
駆動方式:RR
モーター:交流同期電動機
エンジン:0.65リッター直2 DOHC 8バルブ(発電用)
モーター最高出力:170ps(125kW)/5200rpm
モーター最大トルク:250Nm(25.5kgm)/100-4800rpm
エンジン最高出力:38ps(28kW)/5000rpm
エンジン最大トルク:56Nm(5.7kgm)/4500rpm
タイヤ:(前)155/70R19 84Q/(後)175/60R19 86Q(ブリヂストン・エコピアEP500)
価格:618万円/テスト車=642万9000円
オプション装備: harman/kardon HiFiスピーカーシステム(11万5000円)/BMW iコネクテッドドライブ・プレミアム(5万7000円)/メタリックペイント(7万7000円)

テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:6728km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:325.0km
使用燃料:13.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:24.1km/リッター(満タン法)
参考電力消費率:5.6km/kWh(車載計計測値)
 

BMW i3スイート レンジ・エクステンダー装備車
BMW i3スイート レンジ・エクステンダー装備車拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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