第298回:イタリア式コイン洗車場で発散せよ!
2013.05.31 マッキナ あらモーダ!洗車専任のおじさん
イタリアの春は普段から日本より遅く、5月まで待たなければならないが、今年はさらに天候がパッとせず雨続きである。そうしたなか「どうせやっても同じだぜ」と思うと、気持ちがなえるのが洗車だ。しかし、自分のクルマをきれいにすると、「おっ、まだまだ乗れるじゃないか」と思えてくる。
「スーパーマーケットに満腹で行くと、無駄な食品を買う気がなくなる」というのは昔からよく言われている節約法だが、自動車屋さんのショールームに行く前に、自分のクルマをひととおり磨いておくと、衝動買いを防げる。
今週は、イタリア式洗車場の話である。
ボクがイタリアにやってきた17年前、この地で洗車というと、まだガソリンスタンド併設の洗車機が主流だった。多くの場合、洗車機の横に専任のおじさんが一人座っている。洗車してほしい旨申し出ると、おじさんは面倒くさそうに立ち上がり、まずタイヤとホイールに水をかけてひととおり洗ってから洗車機を動かし始める。代金はスタンドではなく、おじさんに払う。料金表がないところも多く、旅先などではビクビク聞いたものだ。
コイン洗車場は水浴び禁止!
代わって10年前くらいから、ようやくイタリアにも登場してきたのがコイン洗車場である。日本と違うのは、コインを直接機械に入れないことだ。場内に1、2台しかない両替機にコインを入れ、ジェットーネといわれるメダルと交換する。そのジェットーネを、洗車機や掃除機などに投入する仕組みだ。
なんでこんな二度手間をさせるのか? といえば、コインを盗むために機械を壊されるのを防ぐためである。加えて、管理人は防犯設備の付いた両替機からだけコインを回収すればよい。
料金は多くのコイン洗車場で、水洗い→洗剤洗い→すすぎをした場合、各50セントなので、合計1.5ユーロ(約195円)である。ただし洗車場によって、「洗剤」が先端からにじみ出すブラシ式と、高圧で噴射されるものと2通りある。汚れが落ちやすいのは、やはり自分でゴシゴシできる前者である。
それはともかく、場所によっては、水が出る時間が妙に短くて、管理人不在と知りながらも思わず「きったねェ商売をするな!!」と、叫んでしまうことがある。洗剤をすすぎきれないと、もっと悲しい気持ちになる。あくまでも体感値だが、イタリアのコイン洗車場の水が出る時間は、フランスやドイツに比べて短い。
それでも笑えるのは、時折「水浴び禁止」などという貼り紙があることだ。たしかに暑いときは、自分も浴びたくなる。
いっぽうで、同じコイン洗車場のなかにある自動洗車機は、一般的に15ユーロ(約1950円)から30ユーロ(約3900円)台と高い。直後に雨でも降ったら、泣いても泣ききれない。だからボクは、クルマを査定に出す前の日以外は使わなかった。
そうしたところ5年ほど前、わが街に3ユーロ(約390円)で使えるセルフ洗車機が、あるコイン洗車場内に登場した。値段は前述のウォーターガンによる通常コースの倍だ。だが、イタリアを走っていて避けることができないガラスにこびりつく虫の死骸がよく落ちるので、ボクは常連客となった。
ところが先日行ってみるとそのコイン洗車場が、いきなり5ユーロ(約650円)に値上げされているではないか。「いきなり6割以上の値上げとは、ひどいぞ」と怒りながら脇を見ると、レーザーウォッシュと名付けられた、より“高級”なノンブラシ洗車が4ユーロ(520円)に据え置かれている。実際使ってみると、今までの洗車機より、さらにきれいになる。
洗車場の管理者が、この矛盾にしばらく気づかないとよいのだが、とひそかに願っている今日このごろだ。
フロアマット掃除で「このヤロッ!」
洗車場といえばもうひとつ。ボクにとって洗車は、給油の次に面倒な自動車維持作業であるが、唯一楽しいことがある。フロアマットの掃除だ。
マット専用のクリーニング機もあるものの、脇に備えられた網状の金具(イタリア語でバッティタッペッティ/battitappeti)にたたきつけるのが一般的だ。
このとき日頃から恨みを抱いている人物や社会現象を思い出して、たたきつけると気持ちが晴れ晴れする。ボクが人前で終始にこやかなのは、このバッティタッペッティによる発散があるからといっても過言ではない。
「このヤロッ!」「このヤロッ!」という、かけ声を繰り返しながらやると、さらに力が入ることが判明した。
ただし、これから季節がよくなると、隣接するファストフード店の屋外テーブルにお客が座るようになり、格闘するボクをけげんな顔で見るようになるのが困る。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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