第190回:コンチネンタル「TechShow 2013」を取材
クルマの自動運転技術はここまで進化している!
2013.06.19
エディターから一言
近未来のテクノロジーを体験
いま僕は怪しげな「フォルクスワーゲン・パサート」の後席に乗せられている。直線を進んでいくと、突然、歩行者(実際は歩行者に見立てた人形)がクルマの前を横切る。次の瞬間、クルマはフルブレーキで止まり、事なきを得た。まあ、ここまでは最近よく体験する「自動緊急ブレーキ」とほぼ同じ。スタート地点にクルマを戻しながら、運転席のスタッフが言う。「次はもう少しスピードを上げてみましょう」。そのあと、信じられないようなことが……。
北ドイツの都市ハノーバー(ハノーファー)。その北部に「コンチドローム」と呼ばれるテストコースがある。名前から想像がつくように、ここはコンチネンタル社の自前のプルービンググラウンド。最大傾斜58度のバンクを持つオーバルコースをはじめ、スキッドパッドやハンドリング路といったさまざまなコースが用意され、タイヤ開発などに使われている。愛車に「コンチスポーツコンタクト5」を装着してるから……というわけではないが、一度は訪れてみたい場所だった。
しかし、今回の訪問はタイヤのテストが目的ではない。「TechShow 2013」と呼ばれる技術プレゼンテーションを取材するためだ。コンチネンタルといえば、世界第4位のタイヤメーカーであり、ヨーロッパの新車装着率ナンバーワンを誇る信頼のブランド。ヨーロッパ車のオーナーにはおなじみだが、同社の売り上げに占めるタイヤの割合は3割ほどで、実はパワートレイン、シャシー、セーフティー、インテリアなどの自動車パーツの比率がタイヤを上回っている。
そんな自動車部品サプライヤーのコンチネンタルが、近未来のテクノロジーを披露するイベントがTechShow 2013である。
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ハイライトは自動運転技術
“怪しげなパサート”は、コンチネンタルが開発した自動運転のテスト車両だ。交通事故を減らし、スムーズなクルマの流れをつくるには自動運転が不可欠と考えるコンチネンタルは、その関連技術の開発に積極的だ。
このパサートには、フロントガラスのステレオカメラをはじめ、レーダーや小型カメラなどがいくつも装着されている。これらを使って常に周囲の状況をモニターしているのだ。センタークラスターのモニターを見ると、車両のまわりが緑と青で色分けされている。緑の部分は、自動運転システムが走行可能と認識した部分だ。
早速スタッフがクルマをスタートさせた。大きな通りに出たところでドライバーがステアリングホイールから手を離すと、道路のカーブにあわせてステアリングホイールが勝手に動き、あらかじめ設定されたスピードでズンズンと進んでいく。もちろん、ドライバーがステアリングを操作すればいつでも手動運転に戻ることができる。なるほどね……。その自然な動きに感心はしたものの、最新のクルーズコントロール技術などを見てきた僕は、“感激”するにはいたらなかった。しかし、同乗試乗が進むにつれて、認識は変わっていく。
フロントガラス越しに、工事で道路を規制するサインが見える。手前にある30km/hの標識にしたがい自動的に減速したパサートが、サインのあいだに突っ込んでいく。えっ、速すぎないか? きっと自分がステアリングを握っていたら、もう少しスピードを落とすよなぁ……というペースだ。しかも、ドライバーはステアリングから手を離したままだ。サインにぶつかるかも……という不安をよそに、無難にあいだをすり抜けていくパサート。なかなかの腕前だ。
驚きのダブルレーンチェンジ!?
でも、この程度で驚いてはいけなかった。冒頭の話の続き。実はこのテストも自動運転のプログラムのひとつで、緊急ブレーキの瞬間はドライバーは手も足も出していない。次はさらにスピードを上げてのトライだ。目標に向けて再び走りだすパサート。スピードが乗ってきたところで、運転席のスタッフが両手を挙げて、自動運転をアピールする。そして、予定どおり人形が飛び出すと、キャビンに警告音が鳴り響いた。急ブレーキに備えて身構える僕……。
ところが、次の瞬間、僕を襲ったのは強烈な減速Gではなかった。ステアリングホイールが素早く左に、そして次に右に動いて、人形を巧みに避けたのである。いわゆる“ダブルレーンチェンジ”だ。その華麗なハンドルさばきに度肝を抜かれた。
もちろん、これはテストコースという特殊な状況下での話。まわりをクルマや人が行き交うリアルな道路状況に持ち込んだところで、いますぐに安全性が確保できるとは限らない。それでも、今後研究を重ねれば、将来大いに役に立つ技術に発展すること間違いなし!
コンチネンタルは、法環境が整うことを前提に、2016年以降に30km/h以下のストップ&ゴーをサポートする部分的な自動運転が、また、2020年以降には30km/h以上の高速での自動運転が可能になると見ている。さらに、2025年には完全な自動運転が可能になり、ドライバーが道路状況を気にすることなく、高速道路を130km/hの速度で移動できるようしたいと考えている。それでも、ドライバーが自由に運転できる余地は残されており、自動運転のメリットとファン・トゥ・ドライブが両立できると知り、ひと安心。
TechShow 2013では、今後ますます期待が高まるパワートレインの電動化技術や通信技術を利用したクルマの情報化、環境保護の取り組み、そして、タイヤ技術などが紹介されている。進化が止まらない自動車技術に、興奮しっぱなしの一日だった。
(文=生方 聡/写真=コンチネンタル)
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生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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