「リトラクタブルヘッドライトはなぜなくなった?」
2013.06.14 クルマ生活Q&A その他かつてはスーパーカーなどによく使われていたリトラクタブルヘッドライトを、最近ではとんと見かけなくなりました。単に、はやり廃りで見かけないのか、それとも法規の改正などの理由により使えなくなったのでしょうか?
お答えします。見かけなくなったのには、理由があります。それが何かというと、安全基準。今日の車両は歩行者保護の観点から、事故により車両が歩行者と接触した際に、引っかけたり、衝撃を与える可能性のある突起物を極力なくすように設計されています。また、同じく安全の観点から、ヘッドライトの常時点灯が義務づけられている地域もあります。常時点灯するのであれば、リトラクタブル式にする必然性は弱まります。これらを主な理由として、リトラクタブルライトが使われることがなくなったのです。
ところで、かつてリトラクタブルライトが採用された理由をご存じでしょうか? 格納時に空気抵抗が減少するとか、ノーズを低くスタイリッシュにできるなどのほかに、北米の安全基準に合致させるためという理由がありました。わかりやすい例を挙げると、1967年に登場した、初めてリトラクタブルライトを採用した日本車である「トヨタ2000GT」。フロントグリルの左右に一対のライトがありますが、これはドライビングランプ(補助灯)で、リトラクタブル式のヘッドライトはドライビングランプの上方に飛び出してきます。なぜこうなったかというと、当時の北米の安全基準では、ドライビングランプの位置では、ヘッドライトに要求される地上高を満たすことができなかったからです。
安全基準から生まれた機構が、同じく安全基準を理由に消えていく、といったところでしょうか。

松本 英雄
自動車テクノロジーライター。1992年~97年に当時のチームいすゞ(いすゞ自動車のワークスラリーチーム)テクニカル部門のアドバイザーとして、パリ・ダカール参加用車両の開発、製作にたずさわる。著書に『カー機能障害は治る』『通のツール箱』『クルマが長持ちする7つの習慣』(二玄社)がある。