第193回:AMGを正しく堪能する一日
本場ドイツの「AMGドライビングアカデミー」に参加して
2013.07.04
エディターから一言
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世界10カ国以上で開催されている、AMGの公式運転トレーニングプログラム「AMGドライビングアカデミー」。本場ドイツのプログラムを体験するために、筆者はホッケンハイムサーキットに向かった。
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本場の「ベーシック」コースに参加
ドライビングの基本を学ぶベーシックなコースから、アドバンスドコース、プロ、さらにはウインターレッスンなど、レーシングドライバーを中心とした一流の講師陣による幅広いカリキュラムを誇る「AMGドライビングアカデミー」。AMGオーナーはもちろん、誰でも受講料を払って参加できるイベントで、日本でもこの秋、今年2回目のアカデミーが富士スピードウェイで開催される予定である。また、本場ドイツのサーキットを使ったアカデミーに日本から参加するというツアーも企画されているという。
そのモルモット(?)というわけでもないと思うが(やっぱり、そうか?)、ホッケンハイムリンクで開催される本場のベーシックプログラムを“日本代表”として体験してきてほしい、との要請を受け、喜び勇んで単身、ドイツに乗り込んだ。
フランクフルトの空港で「C180ディーゼル」のレンタカーを借り、アウトバーンをぶっ飛ばして、1時間と少し。アカデミーが開催されるホッケンハイムから少し離れた村のホテルにチェックイン。ホテルの駐車場には、それらしきオーナーのクルマ(=AMG)がいっぱい止まっている。日本のホテルでこの景色だと、チョット怖いかも。なんて……。
初日は、夕方から座学とウエルカムディナーというメニュー。明日の大まかなカリキュラム内容を予習して、同じグループになる“クラスメイト”、そして担当講師の先生とあいさつをかわす。
ちなみに、ボクらの先生は、レーシングドライバーの……、あいにく、レース界に疎いので、向こうのグループにいるベルント・シュナイダーさんくらいしか、ボクには分からない。すみません。ポルシェで走っていて、今は移籍して「SLS AMG GT3」に乗っている、って確か言っていたから、きっと、すごい人。
参加者の大半は、やっぱりドイツ人だった。友人、夫婦といったパターンが多い。年齢層は30~50代が中心。ボクらのグループだけが英語対応チームで、ノルウェーからの親子、おしゃべりなフランス人、豪快だけど細かいギリシャ人、そしてボクの5人という小所帯だった。なぜかイタリアンワインで乾杯し、精いっぱい、打ちとけておく。先生も含めて、英語のネイティブスピーカーがいないから、まだ気はラク。
AMGらしい豪快なカリキュラム
翌日。ホテルからホッケンハイムリンクまでは各自レンタカーで移動だ。到着後、軽くお茶をしばいた後、自分がしばかれるための全体ミーティングが始まった。ピットレーンには、ズラリとAMGの最新モデルが並んでいる。まずは、柔軟体操(これがボクの毎朝の日課である気功に似ていて、思わず笑った)でカチンコチンの体をほぐす。
早速、グループに分かれて、クルマに乗り込んだ。いきなりの「C63 AMG クーペ」、である。ピットレーンを出て、向かった先は、広いパドックに特設された、濡(ぬ)れた広場。なるほど、ここで旋回とスラロームを学ぶというわけだ。
1/3周ほど濡れた路面に50km/hぐらいで進入し、まずはアンダーステアとオーバーステアを体感。さらに走行モードやESPオン/オフによる挙動の違いを体験するという趣向で、そこまではごくごく普通の安全運転講習会レベル。しかし、さすがはAMG、この先が、ちょっと違った。
アンダー/オーバーが分かって、安全装備の恩恵も十分に学んだなら、あとは走行モードを「スポーツ+」にして、ESP(エレクトロニック・スタビリティー・プログラム)なんか切っちゃって、さあさあ、思う存分走ってみなよ、という感じ。
クルマがクルマだけに当然、朝イチから大ドリフト大会になってしまったというわけで、ツマラナイはずがない。(少人数ゆえ)何度もトライするうちに、半円からのスラロームというコース全域にわたってドリフト状態で走っていけるように。
もっとも、これはボクが上手になったというよりも、C63クーペの限界域におけるコントロールのしやすさ、素直さ、懐の深さがモノをいった、というべきだ。いや、ホント、最高のオモチャかもしれませんぜ、コイツは。個人でやった場合、心配なのは、タイヤ代……。
お次は、なんと「SLS AMG GT」で、早くもメインイベントが! レーシングコースの一部を使って、レコードラインの見つけ方を学ぶ。とはいえ、SLSに乗っているもんだから、コースを学ぶという前に、クルマと仲良くなるのにドキドキハラハラ。とにかく、先生の駆るC63に必死に食らいついていけば、何とかラインがみえてくる、という趣向。何度か走ってみるうちに、ムリなく、走らせやすくて、しかも気分的に速くこなせるラインってあるもんなんだな、と、激しく実感。
真の“AMG使い”が育つか?
午前中の最後には、狭いボックスに100km/hくらいで進入し、合図でブレーキングしながら、電光表示の指示どおりに左右いずれかの方向を選ぶ、という、言ってみれば、障害物回避のトレーニング。ABSの有効性を、身をもって知った、というわけだけれども、この手のカリキュラムで毎度思うのは、止まる練習ほどつまらないものはないということだ。けれども、走ったからには止まらなきゃならないわけで、大事な練習だ。一生懸命やっておく。
先生たちの武勇伝を聞きながらの楽しいランチを終え、午後は再びC63で始まった。何をやるのかと思えば、朝イチの広場がジムカーナコースに生まれ変わっていた。もちろん、タイムアタック、である。3回練習して、2回アタック。1回目はまずタイムを残して、2回目にハードアタック! 結果は、ああ残念、入賞ならず(たかだか20秒のコースで先生の1秒落ち、じゃあねぇ)。
競争のあとは、ちょっと趣向を変えて、「E63 AMG」でエコな実験に挑戦だ。先生がちょっと速めのペースで、フルコースを引っ張ってくれる。最初の5周は「スポーツ+」で、次の5周を「エコ」モードで走ってみた。もちろんほぼ同じペースで、だ。
すると、どうだ。ラップタイムはほとんど同じだというのに、燃費が30%近くも違っている。プロいわく、速く走ることは練習次第で簡単だけれども、プロの世界では、加えて賢く燃費よく(&タイヤに優しく)走ることが求められる。そんな高等技術を、クルマが勝手にサポートしてくれるという、なるほど、ありがた~い実験だ。
そして最後のカリキュラム。待ってました! SLS GTを駆って、連続30分のフルコース走行。先導する先生ドライビングのC63が徐々にペースアップ。最後には、ついて行くのも精いっぱいで、脇の下は汗でぐっしょり。
うまくなったかどうかは、わからない。しかし、少なくともAMGでなら、見知った日本のコースをもっと安全に、もっと速く走れるだろうな、と納得のいった一日であったことは、確か。
スター講師のシュナイダーさんが「どんなレベルの人であっても、最後には本当に楽しそうな笑顔になってくれる」と言うように、高性能なAMGマシンを思う存分、走らせられるのが最大の魅力。
「このアカデミーから、本物のレーシングドライバーが生まれてくれるといいよね」。
あなたもシュナイダー先生の弟子になってみませんか?
(文=西川 淳/写真=メルセデス・ベンツ)

西川 淳
自動車ライター。永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。