第194回:ジープで悪路を走破せよ!
「Jeep Experience ルビコン2013」参戦記
2013.07.22
エディターから一言
オフロード車の代名詞、「ジープ・ラングラー」。母国アメリカには、その開発にも使われる“最高の悪路”があるという。
実際に走ってみたら、どうだった……? オフロード初心者の、webCGスタッフによる報告。
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助言はひとつ「ジープにまかせろ!」
突然ですが、「岩山の登山道」をイメージしてみてください。
辺り一面、石がごろごろ。登っていくほど地面はデコボコ。いつしか、道そのものが岩の階段になっていく。あなたは、日に焼かれた岩肌に手をつきながら、汗をかきかき上を目指す――
そんな道をクルマで行こうというのが、今回リポートするジープの走破系ツーリング「ルビコン トレイル」だ。
ルビコン トレイルというのは、アメリカ・カリフォルニア州北部にある、山岳路の名前である。サンフランシスコから北東へ約300km、観光名所として知られるタホ湖の西側に、約22マイル(35km)にわたって伸びている。
とはいえ、観光道路のイメージとは程遠い。“レベル10”と呼ばれる最高難度のオフロードは、普通の感覚で見るならば、そもそも車道と思えない。それを熱烈なジープファンが1953年に走破して、以来60年、オフロード・ジャンキーにとっての“聖地”として親しまれてきた。オフ車界のビッグネームであるジープもまた、40年間にわたって、このルビコン トレイルを車両開発の舞台としている。いわば、スーパースポーツカーにとってのニュルブルクリンク(サーキット)と同じ「頂点の道」なのである。
さて、今回のイベントそのものは、プレス向けの試乗会だ。さぞかしみなさん、腕に覚えがあるのだろう……と思いきや、さにあらず。オーストラリア、中国、韓国、シンガポール、そして日本から集まった参加者の多くは、自分も含め、明らかにオフロード走行の経験に乏しい。AT限定(免許)の人もチラホラ交じっていたりする。それがいきなりレベル10? 使うクルマは量産モデル? 「そのギャップを埋めるのが、ジープのすごさ」というわけだろうが……さて、どうなることやら……。
期待と不安を胸に、タホ湖畔のあるタホマの街から西へ約5マイル。いよいよルビコン トレイルの入り口にさしかかる。
週末とあって、われわれのほかにも、多くのチャレンジャーが集まっている。“王道”のジープにはさまって、旧型「トヨタ・ランドクルーザー」や「スズキ・ジムニー(サムライ)」といった日本車も見られれば、ロールケージを張り巡らせた小型のオフロードバギーも数多い。……ってことは、やっぱり横転したりするんじゃないの!?
そんな胸騒ぎをよそに、総勢19台のわれらがジープ隊は、どんどんルビコン トレイルに入っていく。「習うより慣れろ」ということだろうか。
トライするにあたってのアドバイスといえば、前日にレセプションで言われた一言だけ。
「You don't drive Jeep. You leave Jeep.」(=ジープにまかせろ)
「でも、その“まかせどころ”がわからないんだな……」不安が思わず声に出る。
クルマは、強い
今回“チャレンジ”に使うクルマは、「ジープ・ラングラー アンリミテッド ルビコン 10thアニバーサリーエディション」。名前も長いが胴も長い、4ドア版のジープ・ラングラーである。お店で買える量産車ではあるけれど、“ルビコン”の名を冠するとおり、一段とオフロード走行を意識した特別仕様になっている。
シートに収まる日本からの参加者は、筆者とモータージャーナリストの九島辰也さん、それに黒岩真治さん(フィアット クライスラー ジャパン)の計3人。唯一の経験者である九島さんを第1ドライバーに、日本隊は、隊列の後半を行く。
オフロード走行といっても、そこは幅2~3m程度の、いわゆるガレ場。パリダカや世界ラリー選手権(WRC)のように、アクセル全開でドリフトをキメながら駆け抜けるわけじゃない。時速で言うなら、5~6km/h程度。フラットダートでは10km/h強までスピードアップするものの、そんなところは極わずか。終始、歩くような速度で、ゆっくりと進んでいく。
「だったら歩いたほうがいいんじゃないの?」と思うのは、早計である。レジャーの観点からは甲乙を付けられないが、移動にかかる労力や物資の運搬能力を考えれば、道具としてのクルマは強い。
車内の一同は、絶え間なくグワングワンと、まるでロデオマシンにでも乗ったかのように揺すられている。けれど、実際の乗り心地は意外に快適。車速が低いせいもあり、車酔いすることはない。
悪路で“楽しい人”になる!?
実際に運転してみる。ギアは「D」ときどき「1」。オフロード車に付き物の副変速機は4WDローレンジ「4L」を選択する。ジープ・ラングラーの“ルビコン仕様”は、このギア比が極端(4:1)で、動きだしから大きなトラクションが得られるようになっている。
状況に応じて、ボタン操作で前後輪をデフロック。同様に、フロントのスウェイバー(スタビライザー)をフリーにしてサスペンションの可動範囲を広げる、つまり前輪の路面追従性を一段と上げられるのは、ルビコンならではの特徴だ。
エンジンは、285hp/6400rpm、36.0kgm/4800rpm(米国値)を発生する3.6リッターV6。ちょっとした坂道や段差なら、クリープの状態でもじわじわ登っていってしまう。だからといって、行けるところは踏み込んで、段差にぶつかるたびにアクセルオフ――といった抑揚のある走り方はNG。常に少しだけトラクションを掛け続けるのが、上手に走るコツらしい。
悪路からの強烈なキックバックで、ハンドルはぶんぶん取られる。それを、時にいなし、時に戻しつつ、目の前のルート取りを考える。「あの大きな石は、腹の下に通せるか? それとも、あえて踏んだほうがいいか……」
集中力が高まってくる。これは確かにモータースポーツだ。
少し運転に慣れて、スピーカーから流れるアメリカンポップスに気が付いた。さすがアメリカ! こんな山中でもラジオが入る。ノリのいいBGMも手伝って、気持ちがますますアガってくる。
このルビコン トレイル、一方通行ではないものの、道幅はせいぜい1台分だ。だから、対向車がやってきたら、わずかな空きスペースを使ってお互い慎重にすれ違うことになる。われらがジープ隊列は総勢19台。今回は、ゆずってもらうことが多かった。
すれ違いざま、みんな何かしらあいさつをしてくれる。
「Hi!」「How are you?」「Fun?」
こちらもつられて笑顔になる。自然と大きな声が出る。
「ほら、だんだんシャコーテキな人になってくるでしょ」と、後席の九島さん。声を掛けてくれるアメリカ人のことかと思ったら、筆者自身のことだった。
「別に、ファンキーな人だけがジープに乗るんじゃないんだよ。ジープに乗ると、みんな楽しい人になっちゃうの」。
大いに合点がいって、心の中で笑ってしまった。
美しい汚れっぷり
ルビコン トレイルを登っていくと、やがて路肩のところどころに、黄色いTシャツ姿の人たちが現れる。この道に精通している「トレイルガイド」。最強のお助けマンである。
それはつまり、ここが難所ということ。いよいよレベル10ならではの道になってきたわけだ。
手招きしたり、手のひらで制したり。右に左に、ステアリングを切るよう指差したり……彼ら(女性もいます)は、クルマの状況を外から的確に判断しつつ、身ぶり手ぶりでドライバーを望ましいルートへと導いていく。
車幅ギリギリの狭小路に、岩肌むき出しの斜面。気が付けば、バンパーより高さのある石が、そこらじゅうにゴロゴロしている。こうなると、ガイドの指示に頼るのみ。
ちょっと右? 少しだけ前進。今度は左に目いっぱい切って……慎重に操縦していても、ガツン! とフロアを打ち付けたりする。斜面を伝って岩を回り込むときなど、このまま横転するんじゃないかと、目をつぶりたくなることもある。
口の中は、とっくに乾ききってる。そんな状況下でもガイドが余裕たっぷりなのは、道に精通しているのはもちろん、ジープの底力をわかってるからなんだろう。
湧き水にぬれた、大きな岩の階段にさしかかったところで、タイヤが地面をかきながら、横滑りを始める。登れない!? 前も後ろもデフロック。どうか?
「Keep going, keep going!」
ガイドの言葉を信じて、アクセルは戻さない。すると、ある程度のスライドを許したところでグリップが回復、ぐいぐいと岩を乗り越えていく。そうだ、「ジープにまかせろ」だ……。
「Good job!」ガイドさんはサムアップして褒めてくれたけれど、本当にグッジョブなのは、もくもくと役目を果たしてるジープなのである。
その後もしばらく手に汗握るトライは続いた。強い日差しの下、幾多の岩を越え、ダートを抜け、夕方になって、19台のジープは無事キャンプ場にゴールした。距離にして、約12マイル。
昼前の出発時にピカピカだった車両はどれも、ほこりまみれの泥だらけ。でも、その汚れっぷりがカッコいい。日本の道ではあまり目にすることのない、ジープの素顔だ。
そんな感想を、トレイルに同行したジープの開発者に伝えると、満足気な笑顔が返ってきた。
「でも、日本じゃみんな、ジープでこんな道を走らないんだろ? 『ジープなんて、ただの燃費の悪いクルマ』なんて思われてないかな……」
そうじゃないってこと、自分はよ~くわかりました。みなさんにも、このリポートで少しは伝わりましたか、どうか。
(文=webCG 関 顕也<text=Kenya Seki>/写真=webCG、クライスラーグループ)
→写真で体感「ルビコン トレイル」 ~ジープのアメリカ試乗会から(前編)
→写真で体感「ルビコン トレイル」 ~ジープのアメリカ試乗会から(後編)
■動画で見る「ルビコン トレイル」

近藤 俊

関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。