メルセデス・ベンツE63 AMG S 4MATIC(4WD/7AT)
踏める! 曲がる! 2013.07.24 試乗記 「Eクラス」のマイナーチェンジとともに登場した最強モデル「E63 AMG S 4MATIC」。585psのパワーをフルタイム4WDで操る、新しいAMGの走りを試す。進むAMGの大家族化
少なくとも、私のようなアマチュアドライバーにとっては、これは間違いなく、史上もっとも“踏める”AMGである。しかも、過去のどのAMGと比較しても、ケタちがいの安心感である。
誤解を恐れずに言うと、AMGは「Eクラス」や「Cクラス」にV8を積んだ時点で、アンバランス上等、オーバーパワー&オーバートルクの怪物になってしまっていた。Eクラスでいうなら、先々代の「W210」に「E55」が登場した時点で、ある一線を越えた……と個人的には思う。スロットルの踏みかたを少しでも間違えば……のタイトロープというか。まあ、この種の特殊スポーツモデルはそういう暴れ馬っぷりも魅力ではあるけれど、アマチュアがアクセルを踏みぬいてカタルシスを得られるクルマではなくなった。
ご承知のように、つい最近までのAMGはすべて後輪駆動だった。ベースとなるメルセデス乗用車の大半が後輪駆動だったし、いっぽうで前輪駆動の「Aクラス」や「Bクラス」には、かたくなにAMGが用意されなかったからだ。ところが、ここにきてメルセデスは新型EクラスのAMGに初めて4WD(4MATIC)を用意。またFF系にも4WDを新開発して、Aクラスや「CLAクラス」のAMGを出した。
そうした宗旨替えのおかげで、新しいEクラスのAMGは一気にラインナップ数が増えた。基本となるエンジンは従来どおりの5.5リッターV8ツインターボだが、駆動方式はこれまでのFRに加えて4WDを追加。さらにエンジンも、かつてのパフォーマンスパッケージ相当の557ps型が標準仕様となったうえに、そこからさらに過給圧アップで585psまでねじり上げた「S」が登場したのだ。
というわけで、2種類(557psと585ps)のエンジンチューンと2種類の駆動方式(FRと4WD)、そして2種類のボディー(セダンとワゴン)の組み合わせで、EクラスのAMGは合計8機種……ではなく、ワゴンのAMGにFRは用意されず、都合6機種がそろうことになった。ただ、ここで私が思うのは「なぜワゴンにFRがないのか?」というよりも「セダンのみとはいえ、585psにいたっても、まだFRを設定しちゃうAMGって!?」ということの方である。
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豪華で快適で、もちろん速い
今回の試乗車は、そういう新しいAMGの「E63」でも、もっとも新機軸の多い「S」の「4MATIC」である。本体価格は1780万円と超高額だが、自分たちで“世界最速セダン”をうたう走行性能はもちろん、ツルシ状態で豪華装備とハイテク装備テンコ盛り。新型Eクラス自慢の自動運転系セーフティーシステムはもちろん全部乗せで、インテリアはダッシュボードまでフルレザーで随所にカーボンパネル、インパネのアナログ時計はスイスの名門IWCブランド、さらに前席の“dync”というボタンを押すと横Gに応じてサイドサポートをアクティブ制御する「ドライビングダイナミックシート」まで標準である。
ちなみに、このドライビングダイナミックシートの制御は、クルマにかかるGだけでなく舵角(だかく)もパラメーターに入っているのか、ほとんど横Gのかからない交差点の徐行右左折だけでも、外側サポートクッションが“ウニウニ……”とうごめく。まるでイスのなかに生き物がいるようで、慣れないとハッキリいって気持ち悪い(失礼!)のだが、その違和感にあらがって使い続けていると、いつしかクセになってしまう(客観的に考えると、実際のホールド機能はそんなに優秀とは思わないけど)。
それにしても、昨今のAMGは驚異的に乗り心地がいい。可変ダンパーをコンフォートモードにしているかぎり、偏平タイヤ特有のコツコツ感が気になる以外は、普通のEクラスよりゆったりと快適で、ステアリング反応も穏やかなくらいである。
多少の路面の不整も関係なく、ドライ路面ならESPの存在などつゆほども感じさせず、ズドーンとワープする強力なトラクションは4WDならでは……である。現代のターボとはいっても、さすがにここまでのハイチューンになると自然吸気なみのレスポンスとはいかず、スロットルオンから一瞬の間をおいてから、まるでハンマーで殴られたように蹴り出される。
4WDシステムはAMG専用。イニシャルで4本のタイヤすべてにきちんと駆動配分する真正フルタイム式なのはメルセデスの伝統だが、駆動配分はノーマルより後輪優勢(33:67、通常のEクラス用は45:55)。回頭性重視のセッティングのようだ。
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4WDとESPが楽しさのキモ
横滑り防止装置のESPは3モード切り替えになっていて、ノーマルとオフの間に“AMGハンドリングスポーツモード”というのがある。意を決して挑む山坂道では迷わずこれを選ぶ。「AMGスピードシフトMCT」(遊星ギアの7Gトロニックをベースに、クラッチ機構を湿式多板クラッチにしたタイプ)のモードも“M”に……こうするとギアボックスは完全な2ペダルMTになる。
こうして山道に乗り入れたAMGは、まるでスバルの「インプレッサWRX STI」である。とにかく踏める! そして曲がる!
スロットルを遠慮なく踏みこんでも、コーナリングラインは盤石に安定しきったままだ。サスペンションをコンフォートモードにしたままタイトなつづら折れに乗り入れると、さすがに動き出しが鈍くて“どっこいしょ”感が強いが、ダンパーをスポーツ、そしてスポーツプラス……と締めていくと、体感的にはクルマがどんどん小さく軽くなっていく。そして、スポーツプラスまで締めると、めでたくドイツ製インプレッサWRXの登場である(ただし、それでも乗り心地はWRXよりはるかに快適である)。
それにしても、この“曲がり”はすごい。クルマが完全に曲がりきるちょい手前から遠慮なくアクセルを踏むだけで、ノーズをインに食い込ませつつ、なおかつテールを膨らませた美しい姿勢で加速する。まるでよくできた軽量FRのごとし。私程度の技量で、585ps、81.5kgm(こうやって文字にすると、とんでもない数字とあらためて驚くが)をここまで自在に操れるとは!!
4WDの偉大さにあらためて感銘を受けつつ、「オレもなかなかやるじゃんか!」とチョーシこいた私は、ESPをオフにしてみた。そしたら、途端に曲がらなくなった。私の見えないところでけなげに働いていたESPの助けがなくなったフロントタイヤは、荷重とトルクに負けて、ジワジワとはらみ出して、私は冷や汗タラリ……。まあ、上級ドライバーなら、ここでさらに荷重移動とスロットル操作にメリハリをつけてコントロールしちゃうんだろうが、私の場合はこれ以上のペースはとても耐えられない。ここにおよんで、AMGハンドリングスポーツモードの見事さを痛感。新しいAMGの楽しさのキモは、4MATICとともに、この優秀なESPにもあったのだ。
やはり、このパワーは尋常ではない。これだけ優秀な4WDをもってしても、タイヤの性能が追いつかない。というか、そもそも物理の限界である。
ただ、お尻からいきなり……ではなく、フロントから危険な兆候を教えてくれる4WDはありがたい。585ps/81.5kgmをナメるのはご法度だが、私が「いっちょ、やったるか!?」と思えたV8のAMGはこれが初めてである。ただ、その寛大さに悪ノリしすぎることだけは、くれぐれもご注意を。特に免許証喪失の危険性はこれまで以上に高まっているので。
(文=佐野弘宗/写真=河野敦樹)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE63 AMG S 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4900×1873×1466mm
ホイールベース(欧州参考値):2874mm
車重(欧州参考値):1940kg
駆動方式:4WD
エンジン:5.5リッターV8 DOHC 32バルブツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:585ps(430kW)/5500rpm
最大トルク:81.5kgm(800Nm)/1750-5000rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 96Y/(後)285/30ZR19 98Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5P)
燃費:10.3リッター/100km(約9.7km/リッター、NEDC複合モード)
価格:1780万円/テスト車=1845万円
オプション装備:Bang&Olufsen BeoSound AMGサウンドシステム(60万円)/360°カメラシステム(5万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:3114km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(5)/山岳路(1)
テスト距離:490.4km
使用燃料:93.2リッター
参考燃費:5.3km/リッター(満タン法)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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