ホンダ・フィット/フィットハイブリッド 開発者インタビュー
変革に自信あり! 2013.07.23 試乗記 本田技術研究所 四輪R&Dセンターデザイン室
グローバル・クリエイティブ・ダイレクター
南 俊叙(みなみ としのぶ)さん
これまでとは大きく異なるデザインをまとう新型「ホンダ・フィット」。そのカタチが意味するところは何か? 生みの親に話を聞いた。
カッコいいのは、あたりまえ
プロトタイプの情報が出回り始めた、次期型「ホンダ・フィット」のスタイリングが賛否を呼んでいる。筆者は「カタマリ感と新しさがあっていい」と思うけれど、「やり過ぎ」という意見も耳にする。
このフィットは、ホンダの新しいデザイン体制が送り出す第1弾。ホンダのデザインはどのように変わり、どこに向かうのか? プロトタイプの試乗会が行われた北海道旭川市の同社のテストコースにて、デザイン部門を統括するグローバル・クリエイティブ・ダイレクターの南 俊叙氏にうかがった。
――今までとはデザインを決定する過程が変わったと伺いました。具体的にどのように変わったのかを教えてください。
それまでは、評価会というものでデザインを決定していました。けれども、たくさんの人の意見を採り入れると“丸い石”のようなデザインになってしまうんですね。たくさんの人の中には、デザインを評価する能力に欠ける人が含まれていたことも問題です。そこで、私とインテリア担当の朝日(嘉徳)がデザインを決めて、伊東孝紳社長と野中俊彦常務執行役員(本田技術研究所副社長)がOKを出せば決定、というシステムに変更しました。要は、デザイン部門と経営者が直接話をしやすい環境に変えた、ということです。
南さんがクリエイティブ・ダイレクターに就任したのは1年10カ月前。当初は国内で販売するモデルに限定した権限であったけれど、就任から1年後、海外展開するモデルも含めて全モデルの決定権を委ねられた。
――1年10カ月前のことを思い出してください。伊東社長からは、どういう仕事をしてほしいと言われたのでしょうか?
伊東さんからは、「カッコいいクルマを作ってほしい」と言われました。でも、そんなのデザイナーの仕事としてあたりまえじゃないですか。だから僕は、「ホンダの世界観を表現したいので、それを教えてほしい」と答えたんです。すると伊東さんは、「スポーティーで、かつ技術的にイノベーティブ。エキサイティングなクルマを作るのがホンダだ」と言ったんです。そこで、わかりました、やらせていただきますと答えました。
クルマ好きに伝わるデザインを
こうして、「EXCITING H DESIGN」というこれからのホンダのデザインを表現するフレーズが生まれた。デザインの決定権を与えられた南さんは、どのような方法で「EXCITING」を表現するのだろうか。
――デザインの責任者として、南さんはここ最近のホンダ車のデザインをどのようにお考えですか。
イタリア車、例えばアルファ・ロメオは見ていると引き込まれるような魅力があります。けれども最近のホンダ車にはそれがない。特にインテリアがひどくて、乗る気がしない。
――つまり、ご自身としてはかなり危機感がおありだということですね。
ヨーロッパのモーターショーを見に行くたびに、大きな危機感を覚えました。だからすべてを変えていくつもりです。変える、というよりやり直すというほうが正確かもしれません。とにかくクルマ好きの人が見て、「あぁ、クルマ好きがデザインしているんだな」と思えるようなデザインにします。そのためには、腕のある若い人の給与体系を変えたり、さまざまな国籍のデザイナーと仕事をするようにしたり、いろいろやるべきことがあります。
そして南さんは、ホンダ車のデザインの方向性を、3つのコンセプトで語ってくれた。ハイテック(先進性)、ハイテンション(骨格、構成)、ハイタッチ(面質、高い質感)がホンダのデザインの3本柱になるとのことだ。
――次期型フィットでは、フロントマスクが特徴的です。この“顔”が意味するところを教えてください。
「技術によるイノベーションで未来を見せたい」という思いを意匠として表現したものです。「Solid Wing Face」と名付けました。
お話を聞きながら、インタビューを行った中庭に止められたフィットの顔を眺める。おそらく、アウディにおける「シングルフレームグリル」のような位置づけなのだろうと理解した。
妥協しないで作る
ここまでお読みいただくとわかるように、南さんの仕事は実際にスタイリングの絵を描くことではなく、将来的なビジョンを考え、コンセプトを練り、デザイナーが働きやすい環境を作ることのようだ。日産における中村史郎さんのような立場である。
――デザイン組織を変えるにあたって、自動車メーカーに限らず参考にしたり手本にした組織はあったのでしょうか?
ほかは参考にしていませんね。たとえば欧米の自動車メーカーはトップダウンで決めますが、ホンダの文化は現場の力にあります。たとえ相手が上司であっても、現場で意見をぶつけて自由闊達な議論をすることで、想像を超えるモノが生まれる。そうしたホンダの企業風土に合ったやり方で行くつもりです。
――デザインのやり方を変えるにあたっては、昔はあったけれど失われてしまったホンダのよさを取り戻す、ということも含まれるのでしょうか?
それもあります。大きな企業になって、ホンダの得意なところが忘れられつつあるかもしれない。僕は、デザイン部門の中で偉そうなことを言うつもりはないんです。自由に、純粋にデザインの議論ができる組織にしたいということです。まずは商品ありき。コストとか手間とかいろいろありますが、いいものを妥協しないで作る、という姿勢が重要だと思っています。
開発責任者の小西 真LPLから感じたのと同じように、南さんからも「ホンダを変えたい」という思いが伝わってくる。
――南さんに限らず、フィットに携わる方からは変革の意思が伝わってきます。それはなぜだと思われますか?
うーん……、リーマンショックで、いい意味で吹っ切れたところがあるかもしれませんね。がくんと売り上げが落ちてこのままじゃつぶれるかもしれないという危機感を持った時、クルマの好きな人に喜んでもらえる、イノベーティブなクルマを作ろうと感じたのかもしれません。
1990年入社の南さんは、46歳。この若さでこれだけの権限が与えられるというのは、日本の自動車メーカーとしては珍しいのではないか。
――最後の質問です。ホンダの未来のデザインを決める重要な役割を担われるわけですが、なぜご自分が選ばれたと思われますか?
なんででしょうね……。たぶん、“壊せる人間”だと思われたんじゃないですか。壊して、捨て去らなければいけないタイミングなんだと思います。それをやる自信はあります。プレッシャーもありますけれど、「おれを選んだ会社が悪い」と思っています。(笑)
南さんのお話をうかがって、次期型フィットのデザインが物議を醸している理由がよくわかった。“壊せる人間”が手掛けたのだから、賛否両論が渦巻いて当然なのだ。
(インタビューとまとめ=サトータケシ/写真=本田技研工業)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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