シトロエンDS3カブリオ スポーツシック(FF/6MT)
こだわりのセミオープン 2013.10.06 試乗記 シトロエンのプレミアムコンパクト「DS3」に、セミオープンの「DS3カブリオ」が登場。ボディーの随所に散りばめられた、ダブルシェブロンの魅力とアイデンティティーに触れた。いいとこ取りのボディー形状
東名高速道路を走りながら、頭上のスイッチを押して、ソフトトップを開け閉めする。
言葉で表しただけでは「ふーん」のひとことでスルーされてしまいそうだが、実はこのフレーズが当てはまるクルマはそれほど多くない。一般的にオープンカーと呼ばれるフルオープンのクルマの屋根は、停車中か、動いていても低速でないと開閉できないからだ。
シトロエンDS3カブリオのルーフが高速道路でも気兼ねなく操作できるのは、写真で分かるように、サイドパネルはそのままで、ルーフとリアウィンドウだけが開く、いわゆるセミオープンだから。おかげでソフトトップの開閉は120km/hまで可能。つまり日本の法定速度内なら、いつでも開け閉めできる。
クルマ好きの多くは、フルオープンに憧れる。でも僕はその気持ちを理解しつつ、セミオープンでもいいと思うひとりだ。フルオープンのクルマは1台しか持ったことがないけれど、キャンバストップや開閉式ガラスルーフなど、セミオープンと呼べる車種は、現在の愛車を含めて3台所有経験がある。
取材でフルオープンのクルマに乗ったあと、自分のセミオープンに乗り換えても、大きく開放感が劣るとは思えない。前を向いて運転している限り、ドアフレームやリアウィンドウの有無はあまり気にならないからだ。
それよりも異常気象がめっきり増えた昨今は、高速道路でもサッと開け閉めできる適応能力がありがたいし、たたんだトップをしまう大きな空間が不要なので室内空間が犠牲にならず、ボディーの補強がほとんど必要ないので重量増による走りへの悪影響がないなど、美点も多いのである。たしかに注目度はイマイチだが、僕は人から注目されるためにクルマに乗るわけじゃないので、現状でかまわない。
でもシトロエンがセミオープンを選んだ理由は、これ以外にもあった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
随所に感じるアイデンティティー
理由のひとつはデザインだ。「シトロエンDS3」のスタイリングは、シャークフィンを連想させるとがったBピラーと、そこからフワッと浮遊した色違いのフローティングルーフが特徴。フルオープンにすると、これらが消滅してしまう。アイデンティティーを残すためのセミオープンなのだった。
アイデンティティーといえばもうひとつ、ヘリテージ性もある。第2次世界大戦後のシトロエンでフルオープンの量産車は、僕の記憶では「DS」のコンバーチブルと「メアリ」ぐらい。一方セミオープンは「2CV」「ディアーヌ」「ヴィザ カブリオレ」「C3プルリエル」と4台もある。シトロエンのオープンはこちらが正装といえるかもしれない。
もちろんボディーの基本骨格はハッチバックと共通。でも開放感は予想以上に得られる。ソフトトップの前端をかなり前に追い込んでいるので、身長170cmの僕がドライビングポジションを取った状態で、ごく自然に空が拝めるのだ。DS3のウインドスクリーンの傾斜がそれほど強くなかったことに、いまとなっては感謝である。
トップはスイッチを一押しすると上面だけ開き、もう一押しでリアウィンドウもたたまれる。閉める時は逆だが、全閉の少し前で一度止まり、スイッチをもう一度押しなおさないと動かない安全重視の設計だ。全開の状態で後方視界が限られるのは、似たような構造の「フィアット500C」に近いけれど、あとに述べる理由で、全開にもしたくなる。
後席の作りもハッチバックと同じ。このクラスのオープンモデルでは唯一の5シーターである。荷室は開口部こそ狭いものの、中は230リッターとけっこう広い。それ以上に目を引くのは、トランクリッドが上にスライドするように開くこと。おまけに両脇のリアコンビランプは光の輪が浮かび上がるように点灯する。シトロエンらしい驚きは健在だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
失ったものはなにもない
日本仕様は「スポーツシック」のモノグレードで、同じ名前のハッチバックと共通の1.6リッター直列4気筒ターボと3ペダル6段MTを積む。
さすがセミオープン、1210kgの車両重量はハッチバックより20kgしか重くない。おかげで加速は俊敏なまま。しかも排気音が心地いい。これもハッチバックと同じはずだから、「音の良さに気付く」と言うべきか。だからリアウィンドウまで開け放って、その快音をダイレクトに味わいたくなってしまう。
風の巻き込みは、前席にいる限りは開け方によらず同レベルで、高速道路でも後方から空気が流れてくることを意識する程度。気になる人はウインドスクリーン上のディフレクターをポップアップすれば、流入はほぼシャットアウトされる。
DS3のハンドリングはシトロエンという名前から連想する癖の強さとは無縁で、今日のコンパクトカーとして模範的なマナーを備えている。カブリオも同じだ。ボディー剛性が低下した気配はなく、ステアリングは自然な反応を示し、サスペンションはロールを抑えつつしっとり接地して、優しさの上に立った楽しさを味わわせる。
一方の乗り心地は、ハッチバックを上回ってさえいると感じた。同じシトロエンの「C3」と並んで、 このクラスではもっとも快適な一台に数えられるだろう。
実はDS3カブリオ、ハッチバックからの重量増のうち、ルーフ関連は約半分で、残りは荷室まわりの補強と、床下に装着したバランスウェイトによるものだ。そこまでしてハッチバックと同じ走りを目指した結果が、素晴らしい乗り心地を生んだのかもしれない。快適性にこだわるシトロエンの伝統は、このクルマにも受け継がれていた。
それを含めてDS3カブリオ、フルオープンのクルマのように、何かを諦める必要はない。ホットハッチに匹敵する走りの楽しさと、シトロエンの名に恥じない快適性と、オープンエアの気持ち良さと、ハッチバックに匹敵する実用性が、コンパクトなボディーに凝縮している。しかもシトロエンらしい粋(いき)が、各所に散りばめてある。ハイドロへのこだわりと同じ匂いを、セミオープンというスタイルから感じるのだ。
(文=森口将之/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
シトロエンDS3カブリオ スポーツシック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3965×1715×1460mm
ホイールベース:2455mm
車重:1210kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:6MT
最高出力:156ps(115kW)/6000rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1400-3500rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88V/(後)205/45R17 88V(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:13.6km/リッター(JC08モード)
価格:311万円/テスト車=311万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
クルマの乗り味の“味”って何だ?
2026.1.20あの多田哲哉のクルマQ&A「乗り味」という言葉があるように、クルマの運転感覚は“味”で表現されることがある。では、車両開発者はその味をどう解釈して、どんなプロセスで理想を実現しているのか? 元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
プジョー208 GTハイブリッド(FF/6AT)【試乗記】
2026.1.20試乗記「プジョー208」にマイルドハイブリッド車の「GTハイブリッド」が登場。仕組みとしては先に上陸を果たしたステランティス グループの各車と同じだが、小さなボディーに合わせてパワーが絞られているのが興味深いところだ。果たしてその乗り味は? -
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。






























