第316回:自動車ブランドの腕時計がにぎやかムード
2013.10.04 マッキナ あらモーダ!最初はアクセサリーの“おかず”だった
サムソン電子の腕時計型端末「ギャラクシーギア」は、ヨーロッパでも話題になっている。イタリアでの価格は、299ユーロ(約3万9000円)である。
近年スマートフォンの普及で、腕時計を持たないイタリア人が増えた。いっぽうで彼らは、欧州屈指の通話&メッセージ好きである。だから、ウェアラブル端末にブームの火がつくか否か、ボクは興味津々で見守っているところだ。
時計といえば、自動車ブランドのリストウオッチがある。ボクの経験では1990年代初めまで、その多くはディーラーの片隅のショーケースに他の自動車アクセサリーと一緒に並べられ、いわば「おかず」的に販売されていた。ブランドのロゴは入っていたものの、品物の大半はABS樹脂ボディーにダイレクトにムーブメントをはめこんだ、スウォッチに限りなく近いものだった。ディーラーに仲のいいセールスがいたりすると、「これ、差し上げます」などと進呈されてしまう程度の扱いだった。
そういえば、フランス地方都市のフェラーリディーラーで、跳ね馬マークの入ったスウォッチ風時計を頂戴したことがあった。その販売店で独自に作ったものだった。実物はその後誰かにあげてしまったが、メーカーの商標コントロールが厳密になる以前の、のどかな時代の話である。
そうしたお土産ムードを脱したのは、個人的には1993年に初代「ルノー・トゥインゴ」が発売されたときに同時発売されたファッション時計だったと思う。時計のボディーこそ依然スウォッチ風だったが、実車のイメージやカラーに似せたポップな色使いで、独立した商品として十分存在感があった。当時東京に住んでいたボクは、パリに行った知人に買ってきてもらったものだ。
その後自動車ブランドのリストウオッチがおもちゃ風から完全に卒業したのは、1990年代後半にドイツ系高級車ブランドが、相次いで「コレクション」と銘打ったファッション&アクセサリーを展開するようになり、腕時計も1アイテムとして加えられたためだった。
ボクが知る編集者は、「本当にプレミアムカーにふさわしい生活をしている人が、あの程度のリストウオッチで満足するはずがない」と辛口の評価を下す。しかし、熱心なファンには十分に訴求力があり、いつかそのブランドを手に入れたいと憧れるカスタマー予備軍にとっても、良い励みになるとボクは思う。
フランクフルトショーでも
自動車ブランドの新作リストウオッチは、9月に行われたフランクフルトショーでもみられた。日産はブースの一角にスマートウオッチ「NISSAN NISMO CONCEPT WATCH」を展示した。これはNISMO(ニスモ)のヨーロッパが発表したもので、スマートフォンのアプリでbluetoothを介してニスモ車とコネクトする。平均速度、燃費など走行データや、レーストラックにおけるパフォーマンスが表示できるほか、ドライバーの心拍数などバイオメトリックデータもモニターする。さらにメンテナンス情報のメッセージも受信可能だ。バッテリーは通常使用で7日間持続する。
自動車ブランドによるハイテク系時計といえば、トヨタが2005年に「クラウン」のドアロック開閉やエンジン始動ができる腕時計「キーインテグレーテッドウオッチ」を発売したのを覚えているが、8年でここまで進化するとは、やはりエレキの世界の進歩は早い。
もうひとつは、フォードのデザイン部門によるステンレスケースのオートマチック時計である。ムーブメントはスウォッチグループであるスイスETA社の自動巻き「クロノグラフ・キャリバー7750」が用いられており、ドイツで限定100本が組み立てられる。価格は1790ユーロ(約23万8000円)で、特設サイトから申し込み受付中だ。
フォードの上席デザイン・ディレクターであるマーティン・スミスによれば、「この時計は、フォードがクラフトマンシップと、ディテールに常に神経を払っていることの証明だ」と説明する。同時に、このリストウオッチは、先日、連載(第314回)に書いたヴィニャーレライン設定にあたり、エクスクルーシブ感覚を高めるための一演出である、とボクはみた。
社員へのプレゼントあり、超高級品あり
面白いところでは、中国の新進自動車ブランド「クオロス」も、3月のジュネーブショーで、車の世界初公開と同時にリストウオッチを展示した。こちらは、ミュンヘンの時計ブランド「ZEPPELIN(ツェッペリン)」の協力を得て製作された。
2タイプあるデザインは、いずれもマグナ・シュタイヤー社出身で、現在クオロスのチーフ・エクステリア・デザイナーを務めるフィリップ・エバールによるものだ。
「この時計はクオロスのように、機能を反映している。真面目で実用的。無駄な装飾がない。クラシックで高品質なクロノグラフのデザインは永続的で、まさにクオロスのものだ」と解説している。
なお、最初の50本は役員やデザイナーたちのために作られ、第1号はフォルクスワーゲン・ノースアメリカからスカウトされたフォルカー・シュタインバッシャー副会長にプレゼントされたという。
しかしながら、今年発表されたなかで最もエクスクルーシブな自動車ブランド関連の時計といえば、春の時計見本市バーゼル・ワールドでスイスの高級時計メーカー「HUBLOT(ウブロ)」が発表した「MP-05 La Ferrari」であろう。うわさのハイブリッドモデル「ラ・フェラーリ」の誕生を記念したもので、50本の限定生産だ。
637点ものパーツで構成されたそれは、見る者にエンジンのカムをイメージさせる。時・分・秒はシリンダーの回転によって表示される。
パワーリザーブは50日間を実現している。また、時計を巻くための、ドリルを模した専用のツールも付属している。ただし、そうしたいきな遊びを楽しむためのプライスは、30万スイスフラン(約3250万円)である。
ブランドなしで勝負せよ!
ところでそのフェラーリのマーチャンダイジング部門「フェラーリストア」は今年、最新コレクションに「Ferrari Pr1ma(フェラーリ・プリマ)」を投入した。担当者の話によると、最上のMade in Italyのクオリティーで勝負するため、あえて跳ね馬マークを表面から外したという。今年5月に誕生したばかりのコレクションなので、どういう結果をもたらすかはまだわからないが、勇気ある試みである。
それにちなんで、ひとつ注文をつけさせてもらおう。かくも多彩な広がりを見せる自動車ブランド時計だが、多くはケースやダイヤルに記されたブランド名やロゴを隠したら、どこのものか言い当てるのが難しい。
それらがなくても、どのブランドのものかすぐにわかる作品が出現すれば、それはデザイン的に本物だろう。
ちなみに想像力豊かなボクが、前述のラ・フェラーリの時計の時刻表示を見て思い出したのは、かつて「シトロエンCX」や「BX」などに付いていたボビン式メーターである。シトロエンが、あれを時計で再現してくれれば良かったのに。ああ、夢は広がるばかりである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=SAMSUNG、NISMO、Ford、Ferrari、Akio Lorenzo OYA)
※お知らせ
2013年11月18日(月)渋谷・日伊学院にて大矢アキオの文化講座「イタリアの伝統工房・イタリアのプロダクト」が開催されます。 詳しくはこちらをご覧ください。
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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