第11回:まだ先があったアイサイト劇場第2幕!
やっぱり人の目の仕組みが最強なのか? の巻
2013.10.10
小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ
「ぶつからない」システム普及の立役者
不肖オザワ、またまた一本取られちゃいましたよ、スバルさんに。ってか自動車メーカーのハイテク技術バトルに……かな?
というのもある意味スバルが先鞭(せんべん)をつけたともいえる今のハイテク安全システム。特に「アイサイト」がCMで披露した衝突被害軽減機能の衝撃はハンパじゃなかったわけで、今の「ぶつからない?」ブームを紛れもなくけん引。しかし、失礼なハナシ、不肖オザワはこの先アイサイトは埋没しちゃうんじゃないの? と危惧していたのだ。というのもあれから続々似たようなモノが出たから。それももっと安く。あるいはもっと大がかりなモノで。
思い返せばスバルが「ぶつからない……」のCMで世の中をひっくり返したのが2010年の「レガシィ」のマイナーチェンジ。確か「トヨタ・ハリアー」のプリクラッシュセーフティーシステムがまだ40万円ぐらいの頃に、アイサイトは思い切ってセンサーをはぎ取ったステレオカメラのみの「アイサイトver.2」をわずか10万円+税でオプション装着。こいつが30km/h程度の追突をほぼ防ぐほか、「これ、半自動運転じゃん!」ってレベルの追従式クルーズコントロール機能や、AT誤発進抑制制御、運転中のふらつき警報まで付いていたからユーザーはびっくり。
「追突を1回防いだと思ったら10万円なんて安いモノ!」と、これまで「安全」に金を払う意識のなかったユーザーに、ある種のコスト感覚パラダイムシフトを起こさせ、レガシィのアイサイト装着率はいきなり8割の大台を突破! ついでに販売店に「レガシィ下さい」ではなく「アイサイト下さい!!」というおトボケなお客さまを来させるまでになった(実話)。
他社も当然この動きを無視するわけにいかず、三菱は実質9万5000円で「e-Assist」を出すわ、トヨタが新型「クラウン」に、プリクラッシュセーフティーを10万5000円で設定するわ。小さなクルマの方を見ても、フォルクスワーゲンがスタート価格149万円の「フォルクスワーゲンup!」に「シティエマージェンシーブレーキ」を標準装備。ついにはダイハツが「ムーヴ」にわずか5万円で「スマートアシスト」を設定し、スズキも4万2000円で同様の「レーダーブレーキサポート」を出すまでになった。
一応、スバルは独自のステレオカメラならではの優位性を保っていたが、他社のカメラ+ミリ波レーダーも近い性能を発揮していたし、さらに「ぶつからない」機能一本に絞った赤外線レーザーシステムが激安で登場したことで、その優位性はたもてなくなるのかも? と思っていたのだ。
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ずっと見ているのはアイサイトだけ!
ところが、先日発表された「2014年登場の新型車(厳密には、2014年に登場予定の新型車のコンセプトカー)に付く」といわれる次世代型アイサイトにビックリ。これが聞けば聞くほどすごいんだわ。
進化は一読しただけだと大したことない。基本構成はステレオカメラで変わらず、見られるアングルが左右40%、前後スパンで40%増えただけ。それからカメラのカラー化により、ストップランプ点灯なども判別できるようになった。
でもね、これが実は結構すごい。
俺も知ったばかりだが、アイサイトにはすでに他より圧倒的に優れている点があって、それは高速から低速までスキなくぶつからない性能を発揮すること。今年9月に発表された北米IIHS(米国道路安全保険協会)による衝突回避ブレーキ評価でも実証されていることなのだが、低速のみで効くリーズナブルなものは言わずもがな、「遠くはレーダー、近くにきたらカメラや赤外線も」とセンサーを追加する二段重ねモノより、「つながり性」で優れているというのだ。
他社のミリ波レーダー+カメラだと、近くのものは画像とレーダーの組み合わせでそれが人なのか動物なのかモノなのか判別できるが、遠くの対象物になると基本レーダーのみなので、距離は正確に測れるが、相手を判別するのは結局ソイツが近くに来てからになる。
これに対してアイサイトは、スバル技術本部・岩瀬 勉さんの「ウチはかなり遠くからすべてをずっと見ています」という言葉通り、2つのカメラで連続的に対象を見ている。さらにあらためて知ったが、アイサイトの強みは左右のカメラ間隔を約35cmと、この手のシステムとしては限界まで広く取っているところにもある。三角測量の原理を考えれば分かるが、その方が距離をより正確に測れるからだ。それこそ人間の目よりもはるかに正確に。
アイサイトは物が遠くにいる時から、それが「人なのか動物なのか自動車なのか自転車なのか」「どう動いているのか」をいろいろ推定しており、近くになればなるほどその正確さを増す仕組み。だから高速から低速まで安定して性能が発揮できるのだ。
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データの積み重ねがシステムを鍛える
で、今回の進化はそのアイサイトの優位性をさらに引き延ばすものなのだ。
というのも、カメラ視野が40%広がっただけではない。なんと画素数が4倍になったという。色も判別するようになったので、情報量はおそらく4倍かそれ以上になったはずだ。
まさしくより遠くを、より正確に見られる「目」を持ったわけで、アイサイトの持つ認識能力はより高まったことになる。
さらに情報分析の蓄積だ。実はこの手の測定装置は、情報の量や質だけでなく「それをどう判断するか」が決め手になる。例えばこの赤くて丸い物体をボールと判断するのか? 太陽と判断するのか? のような判定基準の積み重ねだ。
これは製品が世に出れば出るほど、テストを重ねれば重ねるほど蓄積されるわけで、スバルはますます有利になるし、さらに今回の高性能カメラによる豊富な情報をどう処理するかの蓄積が、またスバルの他にはない財産となる。
なんというか、抽象的で分かりにくいと思うが、新アイサイトは、もしや「人の目以上のクルマ視覚」を手にするのかもしれないのだ。
加え、新型アイサイトは進化したとはいえステレオカメラのみのデバイスなので価格上昇を抑えられ、普及促進面でも相変わらず有利。岩瀬さんも「値段はできる限り上げません」と証言している。
もちろん逆光に弱いとか、暗闇に弱いなどの弱点も残っているだろうし、他製品に対して全面的に有利とはいえない。だが、「出た当初は訴訟等も考え、クルマの前の“歩行者まで見える”とは言いきれなかった」というそうした状況下でも、今ではほぼ「見えている」と言えるそうだし、その性能はこの第3世代アイサイトで間違いなく上がる。なにしろ画素数が増え、色まで見えるんだから。
そのうち「この人はピンクのスカートだから女性だ」とか、「この人は筋肉隆々のスポーツ選手だ」なんて判断までできるかもしれない。そうでなくとも高性能ステレオカメラは、使う気になればドライブレコーダーとしても使えるはず。「現状は情報処理に手間がかかりすぎてそこまで手が回らない」(岩瀬氏談)そうだが、自動ブレーキやクルコン以外のさらなる発展性の可能性を秘めている。
ってなわけで来年出る新型アイサイト、安全オタクならずとも要注目ですよ!!
(文=小沢コージ/写真=小沢コージ、webCG)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』