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シボレー・コルベット クーペ(FR/7MT)

世界を獲れ! 2013.10.16 試乗記 渡辺 敏史 60年の歴史を誇る、アメリカンスポーツカーの代表選手「シボレー・コルベット」がフルモデルチェンジ。7代目となる新型「C7」の「進化」と「継承」に触れた。

世界最古参の銘柄

「コスモポリタン」という言葉、日本人にとってちょっと古くさく感じられるのは、女性の社会的自立などが強く打ち出された80年代に多く聞かされた経緯があるからだろう。その意は、国籍や人種に左右されず、世界をフラットな視野で捉える、平たくいえば「国際人」みたいなところだと思う。

今年60歳、人にたとえれば還暦となる「シボレー・コルベット」は、同じ名前で生き続けてきた、世界で最もご長寿なスポーツカーだ。通算で7代に及ぶ歴史が途切れたのはただ一度、3代目の「C3」型と4代目の「C4」型のはざまとなる1983年。が、それは厳密にみればということで、実質的にはすべてのモデルがひとつの時間軸でつながっている。
そんなコルベットが自ら国際人への道をまい進したのは、15年近く前に登場した「C5」からである。FIA GT選手権のレギュレーションでのレース参戦はこのクルマの世界規模での認知を徐々に高め、そして「C6」においてはルマン24時間レースでの常勝組として名をはせることにより、世界に冠たるパフォーマンスカーの一翼を担うこととなった。結果は正直にヨーロッパでの販売に反映され、デビューから50年を経てC6は、かつてなくアメリカ国外で売れたコルベットというポジションに立つことになる。

名のみならず実をみて、アメリカ製スポーツカーの代表格として認知されたからには、新しい「C7」型コルベットの目的は間違いなく「ど真ん中」にあるはずだ。すなわち、「世界を獲(と)れ」ということである。世界最古参であるがゆえの縛りは僕らの想像をはるかに絶するものだろう。それでなくても今なお需要の2/3を支えるアメリカには強固なコルベットマニアがゴマンといて、それぞれに一家言を抱いている。そのはざまで果たしてコルベットはどのように変わるのか。自分にとっては今年最大級の期待を胸に試乗へと臨んだ。

と、散々煽(あお)っておいてなんなのだが、額面でみる限り、C7コルベットは全然変わっていなかった。フレームシャシーに組み合わされるのは、コンポジット材を使った横置きリーフスプリングのサスペンション、ノーズに抱えるエンジンはスモールブロックOHV。トランスアクスルはC5以降の伝統だが、他は「C1」つまり初代からのソリューションである。
“サーキット上等”のみならず、最速を目指すならエンジンやフレームはさておき、いくらなんでも今度ばかりはコイルオーバーのサスを使ってくるんじゃないか。裏切られたその臆測を開発チーフのタッジ・ジェクター氏にぶつけてみると、「そんなのまったく検討してないよ。物理的に今のシステムを上回らないんだから」と軽く一蹴されたのは、あきれを通り越して痛快ですらあった。

試乗会場となったホテルの前に並ぶ、色とりどりの「C7コルベット」。日本仕様で選べるのは5色だが、北米仕様では10色ものボディーカラーが用意されている。
試乗会場となったホテルの前に並ぶ、色とりどりの「C7コルベット」。日本仕様で選べるのは5色だが、北米仕様では10色ものボディーカラーが用意されている。
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ラウンド形状のリアウィンドウと丸型4灯のテールランプの廃止により、リアビューはこれまでのモデルとは様変わり。
ラウンド形状のリアウィンドウと丸型4灯のテールランプの廃止により、リアビューはこれまでのモデルとは様変わり。
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懐かしの「コルベット スティングレイ」という名称の復活も「C7」のトピックだったが、日本ではこれまで通り、「コルベット」の名で販売される。
懐かしの「コルベット スティングレイ」という名称の復活も「C7」のトピックだったが、日本ではこれまで通り、「コルベット」の名で販売される。
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「コルベット」伝統の「クロスフラッグ」のエンブレム。デザインは時代によって大きく異なるが、チェッカーフラッグとシボレーの「ボウタイ」をモチーフにしている点は、今も昔も変わらない。
「コルベット」伝統の「クロスフラッグ」のエンブレム。デザインは時代によって大きく異なるが、チェッカーフラッグとシボレーの「ボウタイ」をモチーフにしている点は、今も昔も変わらない。
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「C7コルベット」のインテリア。本国仕様に用意される5色の内装色のうち、日本では4色から選ぶことができる。
「C7コルベット」のインテリア。本国仕様に用意される5色の内装色のうち、日本では4色から選ぶことができる。 拡大
シボレー コルベット の中古車

スポーツカーとして正しく進化

もちろん、それぞれの設計や材質はC7用に完全に改められている。メインフレームはC6世代において「Z06」と「ZR1」という高性能モデルにしかおごられなかったオールアルミ製となり、それだけでも45kgの軽量化と57%のねじり剛性の向上を実現。材料置換でいえばボンネットやルーフにはカーボンを使用し、他の外板もコンポジット材の素材や整形を見直すなど、パネル類でも17kgの軽量化を達成した。

搭載されるエンジンは伝統のスモールブロック「LT1」。直噴化されたそれは6.2リッターのキャパシティーで、466ps/64.2kgmを発生する(パフォーマンスエキゾースト装着車)。VVTの採用によるトルクの増大は顕著で、低回転域では前型に対して6.9kgmのプラス、1000-4700rpmでのトルク特性はC6のZ06が搭載する7リッターの「LS7」ユニットと同等をマークするという。
一方で燃費改善のために気筒休止技術を投入、低負荷時には最大161km/hの速度域まで両バンクの2気筒ずつの燃料噴射をカットし、巡航燃費をきっちり削り取っている。結果、米環境保護局(EPA)基準計測での高速巡航燃費は最大で7.8リッター/100km(約12.8km/リッター、ECOモード使用時)と、ライバルをリードする値が導かれた。

スロットル開度や変速制御、サスペンションのダンピングレートなどを統括設定するドライブモードセレクターには新たに「ECO」や「TRACK」といったメニューが加わり、そのモードに応じて液晶メーターの情報がグラフィカルに最適化されるなど、C7コルベットはエレクトロニクスの活用にも積極的だ。それらの操作系を含めた内装の造作物の質感もこれまでとは比較にならないほど精緻を極めている。シートに至っては、ターゲットをポルシェとレカロに据えたというイチモツが標準で鎮座、オプションでは4点式のハーネスを通せるバケットタイプも用意され……と、この辺りには日本人がコルベットに抱く叙情的なイメージは微塵(みじん)もない。

実際、標準シートの着座感はスポーツカーとして理想的なものだった。骨格は縦横の遊びもなく体をピタッと収めきる形状で、薄いアンコの沈み込みはポルシェよりむしろ硬めなほどだ。座面も低く設定されているが、まる1日の試乗でも底づき感を覚えることはなかった。相当入念に設計し、検証を繰り返したことが伺える。

日本仕様の車重はまだ明らかにされていないが、北米仕様はクーペで1499kgと、1.5トン以下に抑えられている。
日本仕様の車重はまだ明らかにされていないが、北米仕様はクーペで1499kgと、1.5トン以下に抑えられている。
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新型「コルベット」が搭載する6.2リッターV8 OHVの「LT1」エンジン。LT1とは「C3」「C4」世代のエンジンにも使われていた名称なので、熱心なファンの中には、懐かしく感じる人もいるだろう。
新型「コルベット」が搭載する6.2リッターV8 OHVの「LT1」エンジン。LT1とは「C3」「C4」世代のエンジンにも使われていた名称なので、熱心なファンの中には、懐かしく感じる人もいるだろう。
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トランスミッションには6段ATに加え、新開発の7段MTが設定される。操作系ではサイドブレーキが電動化されたのもトピックだ。その左横にあるのがドライブモードセレクターのダイヤルで、「WEATHER」「ECO」「TOUR」「SPORT」「TRACK」の5つのモードが用意されている。
トランスミッションには6段ATに加え、新開発の7段MTが設定される。操作系ではサイドブレーキが電動化されたのもトピックだ。その左横にあるのがドライブモードセレクターのダイヤルで、「WEATHER」「ECO」「TOUR」「SPORT」「TRACK」の5つのモードが用意されている。
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レカロ社の製品をターゲットに開発したというシート。日本仕様には電動調整機能やシートヒーターなどが標準で装備される予定。
レカロ社の製品をターゲットに開発したというシート。日本仕様には電動調整機能やシートヒーターなどが標準で装備される予定。
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動力性能は第一級

試乗車は標準仕様のほかに、「Z51パフォーマンスパッケージ」が装着されたものが用意されていた。コルベットではおなじみのオプションも、C7用のそれはかつてなく緻密に走りを高めるチューニングが施されており、サスペンションやタイヤサイズの最適化のみならず、専用ブレーキシステムやエキゾースト、クーリング付き電子制御LSDやグラウンドエフェクトパーツなどを包括的に組み合わせている。このパッケージが装着された状態でのパフォーマンスは、0-60mph(約96km/h)が3.8秒、0-1/4マイル(約402m)が12秒フラット、60mphからの制動距離が32.6m……と一線級のスポーツカーとして文句はない数字が並ぶ。下世話にもノルドシュライフェのタイムをジェクター氏に尋ねてみたところ、正式に計測はしていないとのことだったが、ラグナ・セカで『モータートレンド』誌が計測したタイムは「ポルシェ911カレラ4S」より1秒速く、「フェラーリF12ベルリネッタ」より0.2秒遅いというものだったそうだ。ちなみに日本仕様における展開は標準型・Z51パフォーマンスパッケージ付きの双方が選べ、かつMTとATの選択も可能になる予定だという。

座わった瞬間からしての肌触りの違いは、そのまま走りにも反映されている。グレードを問わず、C7の乗り味ははっきりと硬く引き締まったものだ。乗り心地そのものは極速域で粗さが顔を出すものの、速度がある程度高まれば足まわりはしなやかに動き始める。が、決して鷹揚(おうよう)というわけではなく、大きなギャップに対するクルマの反応はソリッドで、動きの収束も素早い。が、それが不満につながらない理由は、操作系のすべてがその調子で締められているからだ。ステアリングにせよブレーキにせよ、すべてのゲインはスパッと素早く立ち上がる。その先のリニアなコントロール性はC6世代でも持ち得ていたが、C7ではとにかく応答が早く、動きに濁りがなくなったことが、モノの進化の強烈さを彩っている。

同じスモールブロックOHVを用いながら、エンジンのシャープネスも一層高まった印象だ。吹け上がりは明らかに軽く、回していくほどに芯を食ったような感覚はC6のZ06にも比肩する。ただしC7ではマネジメントがきっちり行き届いているぶん、アクセルを大きくと踏み込むことで得られた、「あふれる風呂のお湯のようなパワーのダダ漏れ感」は薄まった。回していくほどにきっちりと紡がれる466psは圧巻というよりも、理知的な官能性をみせてくれる。クルーズ時の気筒休止はメーター内のモニターでも確認できるが、音や振動の変化もごく小さく、気をつけていなければわからない程度。システムは想像以上に頻繁に介入しているが、そこからアクセルを踏み込んだ際のレスポンスにも違和感はない。

こちらは「Z51パフォーマンスパッケージ」の装着車。同パッケージでは、専用チューニングの足まわりや電子制御LSDが標準で装備されるほか、7段MT仕様ではギア比も変えられている。


    こちらは「Z51パフォーマンスパッケージ」の装着車。同パッケージでは、専用チューニングの足まわりや電子制御LSDが標準で装備されるほか、7段MT仕様ではギア比も変えられている。
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「Z51パフォーマンスパッケージ」装着車の足元。標準車より一回り大きな、前=245/35R19、後ろ=285/30R20というサイズのタイヤを履くほか、フロントブレーキには標準車より25mm大きな345mmのローターを装着している。
「Z51パフォーマンスパッケージ」装着車の足元。標準車より一回り大きな、前=245/35R19、後ろ=285/30R20というサイズのタイヤを履くほか、フロントブレーキには標準車より25mm大きな345mmのローターを装着している。
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マフラーはセンター4本出し。オプションの「ハイパフォーマンスエキゾースト」を装備すると、最高出力が460psから466psに、最大トルクが63.6kgmから64.2kgmへとアップする。
マフラーはセンター4本出し。オプションの「ハイパフォーマンスエキゾースト」を装備すると、最高出力が460psから466psに、最大トルクが63.6kgmから64.2kgmへとアップする。
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魂を受け継いでいる

試乗はアメリカの一般道がメインということもあって、持てる力のすべてをみられる環境ではなかった。が、幾つかのコーナーを曲がってみると、C7の持てるパフォーマンスの一端がみえてきた。C6世代に比べるとノーズの入りがより鋭く感じられるのは、前輪側のゲインというよりむしろ、後輪の駆動力を積極的に旋回へと効かせているところが大きいようだ。アクセルを踏んで曲げるというFRらしい所作をより生かすようなセットアップというのだろうか。パワーがパワーだけにアクセルコントロールはシビアに行う必要があるが、多少踏みしろを誤った程度でブレークするほど後ろ足はヤワには作られていない。また、ボディーコントロールまわりの電子制御も前型より素早くリニアに応答するようになっていることも安心材料のひとつとなるだろう。

後ろを振り向くと、そこにラウンドガラスはない。ミッション&デフのクーリングダクトを設けるというレース向けの要件から、伝統のディテールは譲られた。そのエアアウトレット的な役割も担うリアセクションが円形のテールランプを失ったことは、アメリカの国内でも賛否を呼んでいるという。が、運転席から前を臨む際の、景色の映り方はまごうかたなきコルベットのそれである。中央のバルジを挟むようにフェンダーの両端をしっかりと持ち上げた三連峰は、単に前輪の位置認識だけでなく、「それ」に乗っているという気分を高めてくれる重要なディテールでもある。樹脂造形の自在性をこれでもかと強調したようにみえるエクステリアデザインは韓国人デザイナーの手によるものだが、彼自身、コンセプトカーの「マンタレイ」からC3への流れにそのアイデアの源泉を求めたそうだ。

C7のポテンシャルにはアメリカ車だから……という言い訳は一切不要。静的にも動的にも、フェラーリやらポルシェやら「日産GT-R」やらとガチでケンカができる真のコスモポリタンへと変身した。初めて触れる時は、恐らくその進化の幅の大きさに戸惑うほどだろう。それはコルベットへの想いが深ければ深いほど、大きな反動となるかもしれない。が、よくよく見れば見てくれも中身も、それはコルベット以外の何物でもないことにすぐに気づくはずだ。いくら流ちょうに振る舞おうとも、その魂はアメリカにある。なにより、60年にも及ぶ歴史はそうやすやすと絶やせるものではないわけだから。

(文=渡辺敏史/写真=ゼネラルモーターズ・ジャパン)

フロント周りでは、歯をむいたようなグリルのルーバーが特徴的。「C1」世代へのオマージュが感じられる。
フロント周りでは、歯をむいたようなグリルのルーバーが特徴的。「C1」世代へのオマージュが感じられる。
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トランスミッションとデファレンシャルを冷却するためのエアインテーク。リアウィンドウの両側に配置されている。
トランスミッションとデファレンシャルを冷却するためのエアインテーク。リアウィンドウの両側に配置されている。 拡大
広々としたラゲッジルームは「C5」や「C6」から受け継がれるコルベットの隠れた魅力。「C7」では425リッターの容量を確保している。
広々としたラゲッジルームは「C5」や「C6」から受け継がれるコルベットの隠れた魅力。「C7」では425リッターの容量を確保している。
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デザイナーいわく、「C3」世代にデザインのアイデアを求めたという「C7コルベット」。ちなみに、本文中の「マンタレイ」とは、C3のベースとなったコンセプトカーだ。
デザイナーいわく、「C3」世代にデザインのアイデアを求めたという「C7コルベット」。ちなみに、本文中の「マンタレイ」とは、C3のベースとなったコンセプトカーだ。
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テスト車のデータ

シボレー・コルベット クーペ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4493×1877×1235mm
ホイールベース:2710mm
車重:1499kg
駆動方式:FR
エンジン:6.2リッターV8 OHV 16バルブ
トランスミッション:7段MT
最高出力:466ps(343kW)/6000rpm
最大トルク:64.2kgm(630Nm)/4600rpm
タイヤ:(前)245/40ZR18/(後)285/35ZR19
燃費:シティー=7.2km/リッター、ハイウェイ=12.3km/リッター(米国EPA値)
価格:--万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は北米仕様パフォーマンスエキゾースト装着車のもの。

テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
 

シボレー・コルベットクーペ
シボレー・コルベットクーペ
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渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

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