ジープ・コンパス リミテッド(4WD/6AT)
確かな存在意義がある 2013.10.23 試乗記 SUVの老舗が出したシティークルーザーとして話題を呼んだ「ジープ・コンパス」に、2.4リッターの4WD車が登場。その乗り味を試した。荒野よりも都会が似合う
ジープはランドローバーと並ぶ、SUV専門ブランドの代表である。しかしこれまで両車がたどってきた歩みは、微妙に異なっている。
1994年発表の「トヨタRAV4」あたりが契機になって、エンジン横置きのパワートレインを用いたSUVが普及しはじめたときの対応もそうだ。保守的といわれる英国のランドローバーがわずか3年後に「フリーランダー」で答えを出したのに対し、自由の国アメリカのジープが同様の成り立ちを持つ「コンパス」を発表したのは2006年だった。
先月ひさしぶりにアメリカに行ってあらためて感じたことだが、かの地ではエンジンの搭載方向や駆動方式にこだわる人は多くない。セダンの多くは横置きパワートレインの前輪駆動だし、トーイング性能が問われるSUVも横置き化が進んでいる。
そんな中でジープは長年にわたり、「オフロードのニュルブルクリンク」と呼ばれるルビコントレイルの走破を課しており、走破の証しとして「トレイルレイテッド」バッジを与えてきた。でもそこに固執していては時代の波に乗れないと考えたのか、コンパスはジープ史上初めて、トレイルレイテッドバッジを持たないモデルとなった。
その後ジープを擁するクライスラーは「チャプター11」(連邦破産法第11章)を受け入れるという試練に直面したものの、救いの手を差し伸べたフィアットの意向もあってコンパスは歩みを続けることになり、2011年に顔つきを「グランドチェロキー」風に一新するなどのマイナーチェンジを行うと、翌年2リッター・FFというスペックで日本上陸を果たした。
発売直後に乗ったそのクルマは、シティークルーザーというインポーターの言葉とは裏腹に、前輪駆動ながらジープらしさを随所に残した、好ましき一台だったと記憶している。でもその後、コンパスを街で見かける機会は少ない。ほぼ同時に上陸した、ほぼ同じ車格を持つあのクルマとは対照的だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ブランドアピールは上出来
あのクルマとは「ランドローバー・レンジローバー イヴォーク」のことだ。昨年のFF車の試乗記でも、コンパスはランドローバーでいえばイヴォークに相当する車種と書いているが、新しさではイヴォークの圧勝だった。それでいて日本仕様は全車4WDとして、ランドローバー一族としての流儀も守っていた。
イヴォークの価格は500万円近くからと、コンパスより約200万円も高いクルマだったのに、それさえ納得する人が多かったのだろう、日本でも大ヒットとなった。
ではコンパスはどうすべきか。ジープらしさを強調したほうがいいと僕は思っていた。だから今回試乗した4WDが5月に追加されたのは合点がいく。直列4気筒エンジンは2.4リッターに拡大されたけれど、同クラスの国産SUVの4WD車もこの排気量を持つ例が多いから納得できる。
日本に導入される4WD車のグレードは、装備の充実した「リミテッド」。FF車のグレードは4WDの追加とともにワンランク下の「スポーツ」にスイッチして、価格も298万円から265万円へと大幅に下げている。ついでに言うと、トランスミッションもこれまでのCVTから、4WDと同じトルコン式6段ATになった。
今回の試乗車に話を戻すと、外観は伝統の7スロットグリルの中のメッシュがクロムメッキ化され、ホイール/タイヤが17インチから18インチにアップしたのが目立つ程度。しかし室内はそれ以上の違いがあった。インパネのセンターや助手席側にシルバーのプレートが追加されて、見栄えが良くなったのだ。
しかもATセレクターレバーのベースには、ジープ顔が刻まれている。そういえばヘッドランプのバルブの頂点にも、同じアイコンが付いていた。こういう小技にグッとくるものなのだ。ついでに言えば、太くて高めのサイドシル、丸いメーターとルーバー、大柄でふっかりした本革シートからもジープを感じる。ブランドアピールのうまさはアメリカ車でトップだと思う。
乗ればまぎれもなく「ジープ」
車両重量はFFよりちょうど100kg重い1550kg。対するエンジンは最高出力が14psアップの170ps、最大トルクが3.0kgmアップの22.4kgmと、排気量から考えれば控えめだ。でも3人乗車に撮影機材という、相応の荷重が掛かった車体を、不満なく加速させた。
最近のトレンドであるターボエンジンやデュアルクラッチ・トランスミッションのような小気味よさは得られないし、驚くほど静かでもないけれど、スムーズに回るし、回すにつれて力が出てくる性格はなんだかホッとする。ジープのことだから、悪路での御しやすさも考えて自然吸気とトルコンのコンビを選んだのかもしれない。
乗り心地は低速ではややゴツゴツするけれど、大きな入力は豊かなストロークでじんわり吸収する。ボディーやシャシーは相変わらず強靱(きょうじん)そのもの。このブランドらしい骨太感がしっかり伝わってくる。
直進性はアメリカ車の例に漏れず優秀。全般的におっとりしていて、限界に達するとまずノーズが外に膨らんでいくハンドリングは、ワインディングロードを楽しむような性格ではないけれど、逆にオフロードでは安全だと感じるだろう。オフといえば、少しだけ走ったフカフカの砂地では、前後車軸を直結するロックモードが役立った。
2.4リッターの4WDになっても、コンパスの持ち味はほとんど変わらなかった。スペックを見ただけでは同クラスの国産SUVに似ていると感じるかもしれないが、乗ればまぎれもないジープである。おおらかさと骨太感が同居した、カントリーミュージックが似合いそうな雰囲気は、日本車はもちろん、ランドローバーでも絶対に得られない。
そもそもSUVに乗るという行為は、スポーツカーと並んで、非日常を味わう瞬間と言えるのではないだろうか。それがセダンやワゴンと同じような走りじゃつまらない。SUVは機能だけでなく、気分も大事。コンパスの最大の存在意義はそこにあると思っている。
(文=森口将之/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
ジープ・コンパス リミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4475×1810×1665mm
ホイールベース:2635mm
車重:1550kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段AT
最高出力:170ps(125kW)/6000rpm
最大トルク:22.4kgm(220Nm)/4500rpm
タイヤ:(前)215/55R18 95H/(後)215/55R18 95H(コンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト2)
燃費:10.7km/リッター(JC08モード)
価格:325万円/テスト車=325万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:3513km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:359.0km
使用燃料:39.2リッター
参考燃費:9.2km/リッター(満タン法)/11.3リッター/100km(約8.8km/リッター、車載燃費計計測値)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
NEW
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。
































