ホンダ・フィットハイブリッド Sパッケージ(FF/7AT)
飛ばせるハイブリッド 2013.11.18 試乗記 好調なセールスが伝えられる、新型「ホンダ・フィットハイブリッド」。その走りは、どれほどのものなのか? スポーティーグレード「Sパッケージ」で試した。3代目の挑戦
「売り家と唐様で書く3代目」と昔からいわれるように、3代目の商売は難しい。初代が創造し、2代目が発展させた商売を継承しながら変革することが求められるけれど、ヒット商品を変えることには当然リスクが伴うし、何よりもそのための勇気が要るからだ。そういう点では、これまでとはガラッと変わった新しい「フィット」を送り出したホンダの挑戦的姿勢をまずたたえたい。セールスについても新型フィットは発売から1カ月で6万2000台を受注(月販計画台数は1万5000台)するという素晴らしいスタートダッシュを見せている。しかもそのうち7割がハイブリッドモデルだという。ベストセラーの座を争うトヨタ勢とのハイブリッド対決に注目、と思っていたら、果たして発売翌月の10月のセールスでは早速2万3281台を記録、「プリウス」と「アクア」を抑え、2年半ぶりにトップの座を奪還したという。
ホンダがスポーツハイブリッドi-DCD(インテリジェント・デュアルクラッチ・ドライブ)と称する新しいハイブリッドシステムは、1.5リッター4気筒 DOHC アトキンソンサイクルエンジンに、7段DCT(デュアルクラッチ・トランスミッション)とモーターを組み合わせ、発進・減速時にはエンジンが止まった“EVモード”走行ができるようになったのが最大の特徴である。「ハイブリッド Sパッケージ」は4モデルがラインナップされているハイブリッドシリーズで最もスポーティーなグレードという位置づけで、ステンレス製ペダルや大型リアスポイラー、16インチアルミホイールなどに加え、このハイブリッド車ではこのSパッケージのみにシフトパドルが備わる。その分車重もシリーズ中で一番重く1160kg(オプション装備含む)、当然JC08モードでの燃費は下がり、31.4km/リッターとなる。
新型フィットハイブリッドのいわゆるシステム最大出力は137ps、ちなみにアクアは100psとされているからその余裕は明らかだ。ただし、従来型から倍増した22kW(29.5ps)を生み出すモーターを備えるフィットに対して、アクアは45kW(61ps)とほぼ2倍であり、よりモーターの仕事量が大きいというキャラクターの違いが浮き彫りになっている。ひとことで言ってフィットは「ハイブリッドだから仕方ないね」、という燃費優先ゆえの我慢を感じさせず、キビキビと走る。モーター走行の割合は小さいが、DCTを採用しているだけにエンジン回転とともにリニアに車速が増していく感覚は普通のガソリン車とほとんど変わらない。“ハイブリッド臭”がしないパワートレインといえるだろう。
おきて破りのインテリアスペース
もともとコンパクトハッチというより、自慢のセンタータンクレイアウトを生かした“ミニ・ミニバン”的なキャラクターを持って生まれたフィットは、これまでも使い勝手や機能性では断トツだったが、全長が55mm、ホイールベースは30mm延長された新型はさらに広大なインテリアスペースを持っており、「広さではフィット」という評価は揺るぎない。いっぽうで全幅は従来と変わらず、全長も4m以下に収まっているので依然十分にコンパクトといっていい。
モノフォルムが強調されたボディーはカッチリとした剛性感が頼もしい。サスペンションストロークは相変わらず短めで、ピシリと引き締まったスポーティーな乗り心地は、高速道路ではフラットで安定感があって好ましいが、タウンスピードではちょっとゴツゴツしているように感じる場合もある。ラフな乗り心地につながる振動やハーシュネスはきちんと処理されているものの、近場の買い物ばかりに使うお母さんたちの反応が心配でもある。
極めて軽い電動パワーステアリングはやや人工的なフィーリングだが、初代フィットの段ボール紙をこすり合わせているようなステアリングフィールを考えれば見違えるように改善されており、ブレーキのタッチもまずまずコントローラブルといっていい。
ダッシュボード周りはすっきりとはしているが、ゲーム機のような、細かいメーターのグラフィックが見にくいと思うのは私だけだろうか。個人的な好き嫌いを別にしても、スマートフォンのようなタッチパネル式コントロールはやはり使いにくいと思う。走行中に必要なポイントだけに正しく触れるのが意外に難しく、関係ない場所にも指が触れてエアコンの設定温度が大きく変わっていたり、ということがあった。しかもアンサーバックがない点もイライラさせられる。
36.4km/リッターは看板用
賢明なる読者の皆さんには釈迦(しゃか)に説法のようなものだろうが、メーカーがTVCFやカタログで喧伝(けんでん)するモード燃費を額面通りに受け取ってはいけない。新型ホンダ・フィットでいえば、あの36.4km/リッターという数字は装備が簡素で(衝突軽減ブレーキやサイドエアバッグなどの「あんしんパッケージ」も設定されない)、燃料タンク容量も小さい標準仕様ハイブリッドのものであり、そんな“燃費スペシャル”を買う人がほとんどいないことは売る方も織り込み済み。敵(アクア)がやっているから対抗上仕方がない、という論法も分からなくはないが、とてもお客さま目線とはいえないだろう。だったら、ライバルに勝つためだけの特殊なグレードです、と明言すべきである。少なくともホンダには、そういう姑息(こそく)な風潮から超然として距離を置いてほしかった。
実際にハイブリッド Sパッケージでおよそ500kmを走った平均燃費は17.3km/リッター(車載コンピューターの数値は17.8km/リッター)だった。8割がたが流れの速い高速道路でハイブリッドのメリットを生かせず、また燃費を気にする運転をしなかったという事情はあるが、それでもこの数字は正直言ってちょっと期待外れだった。「ハイブリッド Fパッケージ」では、のんびり100km/hぐらいで高速巡航して約25km/リッターを記録したこともあるけれど、せいぜいこのレベルだ。燃費競争が激しくなって、各車のモード燃費が向上した今、実燃費とのかい離はますます大きくなっている。アメリカだったら訴訟沙汰になってもおかしくないぐらいの違いを、この先どうするか考えなければいけない時期だろう。
(文=高平高輝/写真=峰 昌宏)
テスト車のデータ
ホンダ・フィットハイブリッド Sパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3955×1695×1525mm
ホイールベース:2530mm
車重:1160kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:110ps(81kW)/6000rpm
最大トルク:13.7kgm(134Nm)/5000rpm
モーター最高出力:29.5ps(22kW)/1313-2000rpm
モーター最大トルク:16.3kgm(160Nm)/0-1313rpm
システム最高出力:137ps(101kW)
システム最大トルク:17.3kgm(170Nm)
タイヤ:(前)185/55R16/(後)185/55R16(ブリヂストン・トランザER370)
燃費:31.4km/リッター
価格:193万円/テスト車=221万円
オプション装備:Hondaインターナビ+リンクアップフリー(22万円)/あんしんパッケージ(6万円)
テスト車の走行距離:2399km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:483.1km
使用燃料:28.0リッター
参考燃費:17.3km/リッター(満タン法)/17.8km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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