メルセデス・ベンツS400ハイブリッド エクスクルーシブ(FR/7AT)
エバらないSクラス 2013.12.09 試乗記 メルセデス・ベンツのフラッグシップモデルにして、世界の自動車の「帝王」たるべき「Sクラス」。新型に込められたメッセージはいかなるものか? 戦略的なエントリーモデル「S400ハイブリッド」の装備充実グレードに試乗した。このヘッドレストは……!?
アッと思わず声が出た。気持ちよくて出ちゃった。運転席の後ろの席に乗り込み、体を背もたれに預けたら、ヘッドレストが思いもかけず、ソフトで、超気持ちイイ。こんな羽毛布団みたいなものを、質実剛健をモットーとしていたはずのドイツ人、しかもドケチ、もとい倹約家で知られるシュヴァーベン地方のメルセデス・ベンツがつけてきたなんて!
「S400ハイブリッド エクスクルーシブ」に用意されている「リアシートコンフォートパッケージ」という75万円のオプションを選ぶとついてくる、その名も「ラグジュアリーヘッドレスト」という。枕だけで75万円もするのか、というとそうではもちろんなくて、リクライニングしたり、内部にベンチレーターがついてきたり、「リアエンターテインメントシステム」がもれなく装備されたりする。
後席ベルトにはエアバッグも仕込まれる。ベルトが1枚の布切れではなくて、二重になるので、和服の帯を締めるようなゴージャス感がある。
それにしても、このラグジュアリーヘッドレストはいいです。これはコロンブスの卵で、おそらく世界の高級車は今後、こぞって採用するに違いない……と私は思う。
センターアームレストはすでに倒れていた。ふと見ると、アームレストの内側には丸い穴が2つついていて、それはドリンクホルダーのようである。押すと、その丸はスーッと下がっていく。その下がり方が実にスムーズで気持ちがよい。ドリンンクホルダーの丸形のフタがそのまま下にさがって底になる。こんなものにまでダンパーがついているらしい。なんとぜいたくなギミックをシュヴァーベン地方の……と何度も書いていると怒られますが、私は本当に驚いたのである。神は細部に宿る。メルセデス・ベンツは新型Sクラスの開発テーマのひとつに、「ぜいたくの本質」を掲げている。
“Was ist Das?”(これはなんだ?)
“Das ist Drinkholder.”(ドリンクホルダーです)
“Nein! Das ist S-Classe!”(ダメだ! これはSクラスだぞ!)
というような激しくも論理的なやりとりがカップホルダー担当のエンジニアたちの間で交わされたのである。たぶん。神は細部に宿る。ちなみにここに書いてあるドイツ語はデタラメなので参考にしないでください。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ハイブリッドの違和感はゼロ
8年ぶりの新型Sクラスのプレスキットのタイトルはこうである。「The aspiration : the best car in the world(野望:ザ・ベスト・カー・イン・ザ・ワールド)」。aspirationには、「熱望の対象」とか「切望」という意味もあるらしい。世界に冠たるメルセデス・ベンツ、自動車の創造主が「世界一のクルマ」をつくりたいと熱望し、「最善か無か」の覚悟でもって挑んだ結果が新型Sクラスである。それは、世界中の顧客が実はメルセデス・ベンツに熱望していたことでもある。帝王よ、目覚めよ、と。
そのSクラスの、日本市場でのスタンダードモデルが3.5リッターV6+電気モーターのS400ハイブリッドで、今回試乗したのはその豪華版たる「S400ハイブリッド エクスクルーシブ」である。どこが豪華かといえば、革の素材がナッパレザーになったり、19インチホイールが標準になったりする。まことにぜいたくのきわみである。これがスタンダードのちょっと上で、さらにこの上に「S550ロング」と2種の「S63 AMG」がある。ここでは触れないのは、筆者も触れたことがないからである。
S400ハイブリッドで走りだしてみると、ま、なんてことない。そこがスゴイ。2次元のCGのメーターの、奥行きのなさに最初は戸惑ったけれど、すぐに慣れる。ハイブリッドの違和感がゼロといっていい。モーターの制御、エンジンとの連携がバツグンにうまいのだ。
足まわりはフツウのエアサスだけれど、まあ、すばらしいです。ドライバーはシートに座って、たいていステアリングを握る。そのとき、これはどんなクルマなのだろう、と想像する。リムのレザーのタッチがすべすべでフニフニと柔らかく、強く握りしめると硬い芯がある。そのステアリングの感触からくる直感通りの乗り心地、といってよい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
変わりつつある「権力のあり方」
さらに運転していて、楽しい。メルセデス・ベンツは退屈である。ということが巷間(こうかん)言われたりする。たしかに胸騒ぎするワクワクするナニはないかもしれない。けれど、しみじみとしたよさがある。ステアリングは比較的スローではあるけれど、しっとりとした安心感がある。その安心感に委ねながらのドライブはまことに安心感があって、同じことを言っているだけですけれど、BMW流の「シーア・ドライビング・プレジャー」とは異なる、自動車の本家本元メルセデス流の運転の楽しみがある。
S400ハイブリッドの場合、リチウムイオン電池の搭載位置の関係もあるのだろう。前後重量配分51:49と、メルセデスとしては50:50に近い。それゆえか、フロントヘビー感がない。それでいて抜群の高速スタビリティーがある。V6ユニットは十分な力を持ち、高回転まで回すとグオオオオッという勇ましい快音を発する。電気モーターを使っていても、新幹線みたいではけっしてない。エレキは入れど、ちゃんと自動車なのだ。
メルセデス・ベンツ日本の戦略通り、黒塗りのS400ハイブリッドが東京・丸の内かいわいであまた走り始めることだろう。新型S400ハイブリッドで個人的に好ましいと思ったのは、エバッた感じがあまりしなかったことだ。なんとなく民主的な香りがしたのである。それはもちろん3.5リッターV6、306psと、車重約2トンの高級車としては控えめなことがひとつの理由ではある。スタンダードモデルのちょっと上の仕様なのだ。とはいえ、ま、願望を込めて申し上げるのだけれど、権力のあり方の変貌を新しいSクラスは体現しているのではないか、とはいい過ぎでしょうか……。
(文=今尾直樹/写真=小林俊樹)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツS400ハイブリッド エクスクルーシブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5120×1900×1495mm
ホイールベース:3035mm
車重:2090kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:306ps(225kW)/6500rpm
エンジン最大トルク:37.7kgm(370Nm)/3500-5250rpm
モーター最高出力:27ps(20kW)
モーター最大トルク:25.5kgm(250Nm)
タイヤ:タイヤ:(前)245/45R19 102Y(後)275/40R19 101Y(グッドイヤー・エフィシエントグリップ<ランフラット>)
燃費:15.4km/リッター(JC08モード)
価格:1270万円/テスト車=1410万円
オプション装備:リアシートコンフォートパッケージ(75万円)/Burmesterハイエンド3Dサラウンドサウンドシステム(65万円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2269km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:225.0km
使用燃料:27.1リッター
参考燃費:8.3km/リッター(満タン法)/8.1km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】 2026.6.1 「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。
-
トヨタRAV4 GRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】 2026.5.30 新型「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド車ではEV走行換算距離が約150kmにまで到達。もちろん電池容量の拡大によるところも大きいが、何よりも最新のハイブリッドシステムによる効率向上が効いている。「GRスポーツ」をドライブした印象をリポートする。
-
キャデラック・リリックV(4WD)【試乗記】 2026.5.29 キャデラック初の電気自動車(BEV)「リリック」に、最高出力646PSのハイパフォーマンスモデル「リリックV」が登場。“ブランド史上最速”をうたう豪速SUVだが、実際に乗ってみると、高い動力性能がもたらすゆとりや心地よさにも魅力を感じる一台となっていた。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD)【試乗記】 2026.5.28 前衛を身上とするフランスのラグジュアリーブランド、DSオートモビルから、新たなハイエンドモデル「DS N°8(ナンバーエイト)」が登場。当代屈指の性能を誇る電気自動車であり、かの地では大統領専用車にも選ばれる一台の、独創の魅力に触れた。
-
メルセデスAMG GLC53 4MATIC+(4WD/9AT)【海外試乗記】 2026.5.27 「メルセデス・ベンツGLC」にスポーティーな「メルセデスAMG GLC53 4MATIC+」が仲間入り。「43」と「63」の中間、AMGとしては松竹梅の竹にあたるモデルだが、今後はそのポジションの重要性がさらに増すことになるという。本国ドイツでドライブした印象をリポートする。
-
NEW
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
NEW
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。 -
新生アルピナは成功するか? その将来とBMWとの関係について考える
2026.6.1デイリーコラム具体的なデザインスタディーも公開され、いよいよ市場展開が見えてきた新生アルピナ。将来的な成功の“確度”やいかに? BMWによる新たなアルピナ像について、両ブランドに詳しい西川 淳が詳しく解説する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)【試乗記】
2026.6.1試乗記「ホンダCR-V」がフルモデルチェンジ。新型は適切なボディーサイズと高品質な内外装を持ち、乗れば最新のホンダ車らしい気持ちよさが味わえる。ただし、その月販目標は400台。ちょっと弱気ではあるものの、周辺事情にも考えを巡らせると極めて妥当な数字にも思えてくる。 -
日産リーフB7 G(前編)
2026.5.31思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「日産リーフ」に試乗。初代のデビューから15年余りを経て生まれた3代目はスタイリングも中身も刷新。苦境にある日産を立て直す重責を担っている。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。































