第327回:クルマに関心のない家族のクルマ物語、アゲイン!
2013.12.20 マッキナ あらモーダ!ある日、女房の家での風景
先月、日本に滞在していたときのことである。
ある日、女房・大矢麻里の実家では、彼女と3歳年上の義姉が大掃除を始めた。青春時代に収集した、膨大な枚数のLPレコードを見つけた彼女たちは、買い取り専門業者にその値段を聞いたところ、ほとんど無価値であることがわかって、落胆していた。
しかし、レコードジャケットの間から、「郷ひろみコンサートチケット」といったものが出てくるたび、「キャー!キャー!」と少女のごとく盛り上がっている。
それだけならいいのだが、二人から「大矢君(ボクは彼女たちからそう呼ばれている)も、ヒロミ・ゴーのように、60歳をピークに設定して鍛えないと!」などと、いわれなきとばっちりが回ってくる。それを聞いて、畳の上で「お嫁サンバ!」と叫びながら踊ってしまう自分が、さらに悲しくなった。
どんなクルマに乗っていたのか、覚えていない!?
「サンバ」で思い出したが、かつて女房の実家では「スバル・サンバー」に乗っていたという。それを記したのは、ちょうど2年前の本欄に記した「クルマに関心ない家族のクルマ物語」である。
要約すると、東京郊外にあった女房の実家は、女房も義姉も、初期に乗ったスバル・サンバーや「スバル360」、義父が免許を返上する直前まで乗っていた「トヨタ・クラウン」など一部を除き、所有したクルマをほとんど覚えていなかった。そればかりか、実際にクルマを運転していた、1931年(昭和6年)生まれの義父もしかりだった。
家にあった歴代のクルマをすべて記憶しているボクからすると、なんとも不思議である、という話であった。
そうこうしているうちに、女房と義姉の片付けは、郷ひろみのLPレコードから古い写真へと移っていった。そこでボクは今回も2年前に引き続き、彼らの家族写真の中から、クルマの写っているものをピックアップしていった。
見てみると、おいおい、2代目および3代目の「トヨタ・コロナ」や初代「トヨペット・コロナマークII」、“ハコスカ”こと3代目「日産スカイライン」など、前回は話に出てこなかったクルマが、何台も写っているではないか。
ただし、今回も義父に写真を見せながら聞くと、「これはウチのクルマだっけなぁ、いや、近所のだったかなぁ」と、あやふやなものもある。今回写真で紹介するのは、彼らの家にあったことが、ようやく確認できたクルマたちである。
なぜゆえ、自分の家にあったクルマを覚えていないのか? と思うだけでなく、ときには、高度成長時代には考えられないような、車格ダウンも平気でしている。
その質問に、義父は、「購入予算が限られていた時代は、知りあいの修理工場で、程度がマシな中古車を見つけては、次々に前のクルマを下取りにだしてローンを組み替えて乗り換えていたから」と説明する。
クルマ選びよりビックな計画
なんとエンスージアスト度数の低いことよ、と、今回もボクは心の中で嘆いた。だが、義父の昔話は、意外な方向に展開していった。
本人によれば、19歳のとき、東京都立川市にあった短大の英文科で学ぶ傍ら、夜は同じ市内の米軍基地で、倉庫番のアルバイトを始めたという。そのとき慣れた英会話を武器に2年後、日本に支店が開設されることになった米国系銀行に入行することになる。配属されたのは、米軍横田基地内の支店だった。休日には米軍基地内の教会で、通訳のボランティアをした。やがてその教会で、同じく通訳をしていた友人と意気投合。4年後の1956年、彼らは2人でアメリカ渡航計画をたてる。
航空券は極めて高価な時代である。貨物船内の余剰船室で海を渡る決意をした。実際、今でも義父の家の引き出しには、当時貨物海運会社から取り寄せた見積書が残っている。いっぽうで従軍牧師から、米国入国に必要だった推薦状も手に入れた。そう、クルマの選択などより、もっとビッグなことを企てていたのである。
友人は義父より先に渡米し、南カリフォルニアの神学校に入学した。義父は彼から「アメリカではカズハル(義父の名前)の住居も、当面の生活を支える皿洗いのバイトも確保できる」という手紙を受け取り、米国に旅立つばかりとなった。
ところが、である。義父は、その従軍牧師の近所に住んでいた若い娘と恋におちてしまう。そればかりか、米国行きの代わりに結婚を選び、基地内で銀行員生活を続ける道を選んだ。
いうまでもなく、その娘とは、2年前に他界したボクの義母である。もし義父が早くアメリカに渡ってしまっていたら義母とも出会わず、女房もいなかったわけだ。「クルマ無関心家族」などと散々書いてしまったものの、思わず義父に頭を垂れたボクであった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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