第223回:「ポルシェ・マカン」はこんなクルマ
ドイツで開催されたワークショップに参加して
2014.01.18
エディターから一言
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「カイエン」よりひとまわり小さなポルシェの新しいSUV、「マカン」のワークショップ(体験型講座)が2013年12月、ドイツで開催された。車両概要説明のほか、同乗ながら試乗も行われるなど、充実した内容だった。
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骨格部分は「アウディQ5」と共通
ロサンゼルスオートショーでワールドプレミアを飾った「ポルシェ・マカン」のワークショップが、ドイツ・デュッセルドルフにほど近いグレーベンブロイヒのドイツ自動車連盟(ADAC)交通安全センターで開かれた。
マカンに関する事前情報といえば、これがポルシェにとって初めてとなるコンパクトSUVであること、その基本設計が同じフォルクスワーゲングループに属するアウディの「Q5」と共通であること、そして車名のマカンがインドネシア語で「トラ」を意味していることなどがよく知られている。
マカンのボディーサイズは全長4699×全幅1923×全高1624mmで、順に4845×1940×1710mmの「カイエン」より15cmほど短く、2cmほど狭く、9cmほど背が低い。ホイールベースもカイエンの2895mmに対して2807mmと、約9cm短い。したがって、カイエンがフルサイズSUVだとしたらマカンがコンパクトSUVに分類されるのは当然だろう。
ちなみに「アウディQ5」は4630×1900×1660mmでホイールベースは2810mmだから、マカンのほうが7cm長く、2cm幅広く、4cmほど背が低いことになる。
なお、ここに記した寸法はマカンのみヨーロッパ仕様で、カイエンとQ5は日本仕様。したがって、マカンで2807mm、Q5で2810mmとなるホイールベースは同一のものと考えられる。
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小型SUV市場の急成長を見込む
なぜ、ポルシェはカイエンよりほんの少し小さなマカンを発売することになったのか? その最大の理由はカイエンのセールスが好調なことにあるように思う。2012年、ポルシェは全世界で14万台あまりを販売した。しかも、「911」「ケイマン」「ボクスター」「カイエン」「パナメーラ」からなる計5モデルのうち、最も多く売れたのはカイエンの7万4763台で、これはポルシェ全体の50%を上回る数字に相当する。
また、事前に行ったマーケットリサーチによれば、マカンが属することになるコンパクトSUVの全世界的な市場規模は2018年に120万台になると予想されているらしい。これは2007年の300%増に相当するもので、つまりは今後も急速な成長が見込まれている市場なのだ。したがって、カイエンの次にマカンでコンパクトSUV市場に打って出ようとするポルシェの戦略は正鵠(せいこく)を射たものといえる。
いっぽうで、ポルシェはただ販売台数の増加だけを狙っているわけではない。マカンの生産工場としてはライプチヒが選ばれ、ポルシェはここに5億ユーロ(約700億円)を投じて生産ラインを新設、年間5万台の生産キャパシティーを確保した。つまり、カイエンが現状の販売台数を維持できるとすれば、ポルシェの人気ナンバーワンはあくまでもカイエンであり、マカンはそれに次ぐポジションにつくことになる。
また、仮にマカンがキャパシティー一杯の年間5万台が生産されたとしても、それは先の予想を引用すると、2018年の段階で4%のシェアにしか相当しない。「ポルシェはあくまでも高級スポーツメーカーとして希少性を重んじる」 との意図が、彼らの販売戦略に秘められていることがこの点からもわかる。
独自のV6エンジンを搭載
では、マカンはQ5とどのくらい同じで、どのくらい異なっているのだろうか?
はっきりしているのは、マカンに搭載されるエンジンはどれもポルシェが独自に開発したものである、ということ。フラッグシップの「マカン ターボ」はV6 3.6リッターツインターボエンジンから400ps/6000rpmと56.1kgm(550Nm)/1350-4500rpmを発生。0-100km/h加速:4.8秒と最高速度:266km/hを実現する。
これに続くのは、3.6リッター版のショートストローク仕様であるV6 3リッターツインターボエンジン搭載の「マカンS」で、340ps/5500-6500rpm、46.9kgm(460Nm)/1450-5000rpmを発生。0-100km/h加速:5.4秒と最高速度:254km/hをマークする。
なお、この2台のV6エンジンは、パナメーラに積まれているものと基本設計が共通とされている。
ヨーロッパでは、この2モデルに加えて「マカンS ディーゼル」(V6 3リッターツインターボ ディーゼル。258ps/4000-4250rpm、59.1kgm<580Nm>/1750-2500rpm)が用意されるが、こちらは残念ながら日本には導入されない見通しである。
同じパワートレインでいえば、アウディが8段ティプトロニックATのギアボックスとトルセン式センターデフを用いるのに対して、マカンでは7段PDKと電子制御油圧多板式となる点も異なる。また、前後輪間のトルク配分比はQ5が前40:後60を基本とするのに対し、ポルシェのエンジニアは「(マカンのトルク配分比は)路面状況や運転状況によって細かく変化するため、具体的にいくつとはいえない」と説明するにとどまった。ただし、状況に応じて前後のトルク配分比を0~100の範囲で調整できるとの回答は得られた。
いっぽうのギアボックスについて「ポルシェ自製のものか?」と質問したところ、「グループ内で開発されたものを使用している」との回答だったので、おそらくアウディSトロニックに独自のチューニングを施したものと見ていいだろう(Q5も初期型はSトロニックを搭載していた)。
「Q5」にはないエアサス仕様も
いうまでもなく、内外装の仕立てもポルシェ独自のものだ。このうち、エクステリアデザインはシャープなキャラクターラインが特徴的で、カイエンより引き締まった表情を見せる。コックピットもスポーツカーらしくいくぶんタイトな印象を与えるもので、シートの上にちょこんと座っているというよりも、クルマそのものを身にまとっているかのような強い一体感を覚える。
スタビリティーコントロール、トラクションマネージメント、ポルシェ・アクティブサスペンション・マネージメントシステム(PASM)、ポルシェ・トルクベクタリング・プラス(PTV Plus)といった電子制御系がポルシェオリジナルとなるのも当然だろう。
また、オプションでスポーツ・クロノ・パッケージを装着すると、ローンチコントロール機能もあわせて装備される。簡単な操作だけでベストの発進加速性能を自動的に引き出すローンチコントロールを用いると、0-100km/h加速が0.2秒速くなるとポルシェは主張している。
いっぽう、サスペンションは基本的にQ5のものをそのまま用いる。ワークショップ会場にはサスペンションがユニットの状態で展示されていたが、アウディのマークがサスペンションアームやサブフレーム類のいたるところに刻み込まれていた。
マカンのサスペンションには、金属バネを用いた標準仕様、これにPASMを装備した仕様、Q5にはなかったエアサスペンション仕様の3タイプが用意されるが、基本的にスプリング、ダンパー、スタビライザー、ブッシュ類などはポルシェオリジナルのものとなる。エンジニアに確認したところ、一部アライメントはQ5と異なるものの、サスペンションジオメトリーはQ5と共通だという。
ポルシェのチューニング技術に脱帽
しかし、実際にマカンのダイナミックな性能に触れてみれば、ベースが何であるのかとか、何のパーツが共通なのかとか、そういった些末(さまつ)なことはどうでもいいと実感するはずだ。
今回は同乗試乗という形ながら、マカンS ディーゼルでオフロード走行を、そしてマカン ターボでオンロード走行を体験する機会を得た。そして、オンロードコースでステアリングを握ったポルシェのテストドライバーは、大きく回り込む中速コーナーを深いドリフトアングルを維持したまま走り抜けて見せたのだが、そのときの安定しきった姿勢にはほれぼれとするばかりだった。
また、当日はミシュランの「LATITUDE Tour HP(ラティチュード ツアー エイチピー)」と呼ばれるM+Sタイヤを装着していたにもかかわらず、「自分がオーナーだったら絶対に足を踏み入れないだろう」と思える急坂や泥濘(でいねい)地を難なく走りきってみせたので、オフロード性能にもまず不満の声は上がらないだろう。
いずれにせよ、マカンに触れて驚かされたのは、ポルシェの誇るチューニング技術である。かつて“Wrong End”と呼ばれた911を50年の時をかけて飼いならしてしまった彼らのサスペンションマジックは、このマカンでも存分に発揮されていた。いや、それどころかエンジンが適正な位置にレイアウトされ、基本性能に優れたアウディのフロント:5リンク式、リア:トラペゾイダル式のサスペンションがあれば、ポルシェが主張するような「コンパクトSUV界のスポーツカー」を作り上げるのはたやすいことだったのかもしれない。
なお、マカンの名がインドネシア語でトラを意味するのは前述のとおりだが、ポルシェのPR担当は「トラには力強さ、優雅さというニュアンスが含まれています。音の響きも悪くありません。また、私たちは世界中のエージェントを駆使して、候補に挙がった車名にネガティブな意味が含まれていないかどうかも調査しています。私はいいネーミングだと思いますよ」との答えが返ってきた。
マカンの日本発売は2014年後半の見通し。それよりひと足早く2月下旬に国際試乗会が開かれる予定なので、こちらも非常に楽しみだ。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=ポルシェ)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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