第331回:二子玉川の高濃度・高レベルにクラクラ!
大矢アキオ、捨て身の路上調査員「東京編」
2014.01.24
マッキナ あらモーダ!
そうだ、東京があった
路上を走るクルマをカウントすることにより、雑誌ではわからないリアルな自動車生態系を感じていただく「大矢アキオ、捨て身の路上調査員」シリーズ。これまでヨーロッパ各地はもとより、上海やデトロイトでも実施してきたが、ふと気がつけば、日本で試みたことがなかった。
2013年11月、1年ぶりに東京を降り立って約1カ月間滞在したボクが驚いたのは、「トヨタ・アクア」の驚くべき繁殖力であった。同時に、ここ数年感じていたのは、エリアによって走っているクルマの差が、以前にも増して大きくなっていることである。
そこで滞在中、丸の内、埼玉の国道沿い、そして二子玉川の3カ所で、ドライバーや通行人からのいぶかしげな視線を浴びながらカウント調査を試みた。
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丸の内は3台に1台が「クラウン」!
結果は以下のとおりだ。いずれも5分間、一方向を走ってくるクルマを定めて数えたもので、タクシーやバス、大小の商用車は含んでいない。
【その1】丸の内 新丸の内ビルディング付近 平日午後の5分間
トヨタ:15台(うちクラウン10台、プリウス2台)
日産:7台(フーガ、ティアナ、エルグランドなど。リーフ1台含む)
レクサス:3台
メルセデス・ベンツ:2台
BMW、オペル(オメガ): 各1台
【その2】埼玉県東松山市 国道407号線 平日午後の5分間
トヨタ:28台
日産:16台
ホンダ、スバル:各13台
マツダ、ダイハツ:各11台
三菱、スズキ:各6台
レクサス:3台
メルセデス・ベンツ、フォルクスワーゲン:各2台
BMW:1台
【その3】世田谷区 二子玉川駅高島屋付近 日曜日午後 5分間
トヨタ:18台
BMW:13台
メルセデス・ベンツ:11台
日産:10台
ホンダ:5台
アウディ、レクサス、スバル:各4台
マツダ:3台
フォルクスワーゲン、フィアット:各2台
シトロエン、ジープ、ボルボ、フォード、スマート、フェラーリ、スズキ:各1台
細かく分析してみると……
かくも予想どおり、エリアによって特色あるクルマ分布となった。加えて、それぞれを分析してみると、さらに面白い事象がわかってくる。
丸の内では、軽自動車が1台も現れなかった。また、このかいわいに増えたようなイメージがあるレクサスは3台にとどまった。いっぽうで、走ってくるクルマの3台に1台はなんと「トヨタ・クラウン」(!)だった。いまだ一帯における正統はクラウンなのである。輸入車はわずか4台にとどまった。
これは後述する埼玉の国道とあまり変わりがない。1980年代・中曽根政権時代の輸入品奨励時代は遠い昔、今や丸の内かいわいの企業は、たとえハイヤーにせよ、日本車で手堅くゆくのがスタイルのようだ。ついでにいえば、ボクの頭の中で丸の内としっかり結びついていた「三菱デボネア」が、もはや眼前に姿を現さなかったのも寂しかった。
次は、埼玉県の国道沿いである。アクアが台頭する前の新車販売台数が刷り込まれた頭で観察していると、黄色いナンバー、つまり軽自動車の多さばかりに目がいった。したがって、スズキ、ダイハツ、三菱といった軽に強いメーカー製が数を稼ぐかと想像していた。計測中にはスズキの懐かしいモデル「Kei」も姿を現した。
しかし実際に数え終わってみると、実はトヨタ車と日産車で39%を占めた(両ブランドの軽は皆無だった)。
そして、事前予想をはるかに超えて圧巻だったのは、日曜日の二子玉川駅である。45%が輸入車で、その数38台はトヨタ車さえも上回った。
イタリアではクルマに差がでない理由
ところでイタリアでは、エリアによって、ここまでクルマに差は表れない。背景は複数ある。
まずは、ローマやミラノなど大都市の官庁・オフィス街周辺にも、通勤用を含む一般車が多数流入することだ。一歩裏に入れば住宅街、という都市環境もクルマの種類のシャッフルを促す。
イタリア自動車市場における国産車比率が低いこともある。2013年の登録台数では約28%にとどまった。売れているクルマの3分の2以上が輸入車という環境なのである。輸入車は、もはやエリアの特色を示す基準とはならないくらい、当たり前なのだ。
もっと深い理由としては。高馬力車に対する課税が厳しく、かつ年間保険料や燃料代の高さは欧州トップクラスであることもある。大半の人々が乗るクルマはコンパクトなクルマに偏る。また、先日も記したが近年は税務調査が厳しく、これみよがしに派手なクルマに乗れない。
くわえて、たとえ生活にゆとりある年配者でも、小さなクルマ=若向きでカッコいいとする近年の趣向もそれらを後押しする。
一定の大きさ以上のセダンはショーファーが操るハイヤーのイメージが強いこともある。これらを総合すると、どの地域でもBセグメントもしくはCセグメントのコンパクトカーが主流を占めるのである。
冒頭でふれたアクアのように、たった1年で一気に街にあふれるモデルがあるというのもない現象だ。先代「フィアット・パンダ」や現行「フィアット500」のときもそうだったが、最初は様子をうかがいながら、いや、時にはケチをつけながら、ゆっくりと買い始める。イタリアのドライバーは慎重だ。
イタリアでも見たことがない、あのクルマが!
ところで日本を走る輸入車を見ていてほほ笑ましいのは、イタリアでは、もはや外国から出稼ぎに来ている人たちしか乗らなくなったような3代以上前のドイツ製高級車も、ぴかぴかに磨かれて大切に乗られていることだ。これあたりは、趣味系自動車雑誌のよい影響であろう。
しかしながら驚いたのは、「見たか! これが日本編の締めだ」といわんばかりに二子玉川に現れた、白い「フェラーリ・フォー」である。この市販フェラーリ初の四駆モデル、ボク自身はイタリアに住んでいても、いまだお目にかかったことがない。
気がつけば背後にある高島屋には、ボクが着たこともない高級ファッションブランドや、口にしたこともない地方ワインなどイタリア産品が盛りだくさんだ。
国民の実生活とは別次元の高級品が、長靴半島のさまざまな産業とイメージを支えていることは承知である。だが、ボクが住むトスカーナの地方都市よりも高濃度高レベルのイタリア度数に、軽い目まいを覚えた冬の午後であった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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