第333回:イタ~い! イタリアのクルマ維持費はこんな感じ
2014.02.07 マッキナ あらモーダ!車検のアポは直接交渉に限る
人間の体内時計というのは素晴らしいものである。先日ボクのクルマが車検の月であることを見事に思い出した。日頃まったく意識していなかったのに、である。
イタリアにおける現行車検制度は、初回は4年後、以降は2年ごとに受けなければならない(タクシー、ハイヤーなど営業車は毎年)。実際はEU基準に近づけたものであるが、ボクがイタリアにやってきた1996年には、まだ10年ごと(!)だったことを思えば、ずいぶん近代的になったものである。
今ボクが乗っているクルマの初回登録は2008年1月だ。最後に受けた車検は、2012年1月。クルマにとっても、ボクにとっても最初の車検であった。あれから2年。法規では、当該月いっぱいに受ければよい。滑り込みセーフである。
前回持ち込んだのはメーカー指定の協力工場だったが、その後ふとしたことからその工場が委託している民間車検場と知り合いになった。そこで、今回はそちらに直接持ってゆくことにした。
イタリア人と交渉するのは電話やメールより、「ファッチャ・エ・ファッチャ(フェイス・トゥ・フェイス)」が一番手っ取り早い。その日はスイス-オーストリアとまわった大ツーリングの帰路だったが、その足で民間車検場になだれ込んだ。民間車検場といっても、日本のように修理工場を兼ねているところもあれば、車検をほぼ専門に行っているところも両方ある。ボクが門をたたいたのは後者だ。
他の民間車検場のごとく、ぐちゃぐちゃに書かれた卓上ダイアリーをだらだらめくり、あの日でもない、この日もダメ……とか、アポイントを調整するのかと思いきや、ナポリ生まれの工場長パオロさんは「じゃ、今からやろっか」といきなり切り出した。昼休み直後で偶然空いていたのか、ナポリタンゆえの男気かは不明であるが、これは二度手間にならず助かる。
ふと車内を見れば、旅行用の荷物やら、飲み残したジュースやらが散らかっている。他人が突然家に来てしまったときのように焦ったが、スタッフのお兄さんは「大丈夫、大丈夫」と言って、クルマをダイナモ上に移動させ、検査を始めてしまった。
待っている間に会計を済ませると、車検費用は65.60ユーロ(約9100円)であった。
なおイタリアの場合、外観に車検を受けたことを示す表示はなく、ただ車検証にステッカーを貼るだけである。
クルマの馬力で変わる自動車税
検査を待っている間、いやな予感がよぎった。毎年1月は自動車税の支払い月でもあった。
パオロさんの民間車検場でも支払いができるというものの、旅行直後かつ現金払いの車検で、手持ちの現金が底をついていたボクは、その日は断念した。
イタリアで自動車税の支払いは、大きな街にあるイタリア自動車クラブ(ACI)、もしくはタバコ屋さんで可能だ。タバコ屋さんでは「ロットマティカ」と称する、ナンバーズくじ発行機ネットワークを借りて行うのが面白い。ただし、ボクの場合は、同様に徴税窓口となっている自動車専門の代書屋さん(プラティカ・アウト)が近所にあるので、そちらに赴くことにした。
自動車税は州税で、州ごとに税額が決められている。シエナ在住のボクの場合、トスカーナ州に払う仕組みだ。税額は対象車が欧州排ガス規制「ユーロ」の、どのグレードに属するかで変わってくる。低公害車はより割安になる計算だ。
ボクのクルマは最新のユーロ5より1段階低いユーロ4である。100kWまでは2.71ユーロ/kWの計算だ。それを超えた馬力には、4.26ユーロ/kWが加算される。出力103kWだと、 合計は283.78ユーロ。それに徴収手数料なるもの(1.87ユーロ)が加わって、285.65ユーロ(約4万円)であった。
ここまでで、車検と合わせて5万円近い出費だ。いずれもうっかり忘れていただけに、情けなくなってくる。すると代書屋さんのおばちゃんが、「税額は、去年と同じよ」と教えてくれた。郵便から高速料金まで、毎年1月1日に何から何まで値上げするイタリアにしては奇跡、ということで、そこはひとつ我慢することにした。
無事故でも安くならないワケ
自動車税を払い終えたら、今度は2月に自動車保険の契約満了日もやってくることを思い出した。泣きっ面に蜂とは、このことだ。
おっと、書き忘れたが、前述のイタリアの車検代金には、日本のような自賠責保険は含まれない。自動車の所有者は、民間の保険会社を選んで個々に契約する。加入は所有者の義務だが、日本の自賠責のように効率的に徴収できるシステムはない。そのため、2014年1月29日に発表された恐ろしい最新調査によると、「イタリアでは路上を走る10台に1台が保険未加入」という。
15年前、イタリアに来て最初にクルマを買ったばかりのボクは、知り合いのおじさんが代理店を営んでいた保険会社と契約した。車両保険無しで6万円くらいだった。
しかし、いくら無事故で等級を稼いでも安くならないので、聞けばその理由がわかった。イタリアでは、その保険料の上昇率もすさまじいためだ。インフレに加え、事故件数や保険金詐欺が多いことが背景にある。参考までに、イタリアの自動車保険の高さは、欧州一である。
代理店のおじさんは、とてもよくしてくれる人だったが、背に腹は代えられなかった。次に買ったクルマの途中から、当時ようやく普及しはじめた外資系の電話申し込み型保険に切り替えた。安くなったうえ、ロードサービスも付いた。
幸い無事故を続け、等級は18等級中最高のゼロ(事故を起こさないほど等級が減る)に到達。だが前述のような理由で、一向に安くならない。イタリアの保険に、対人・対物無制限というのはない。ボクが選んだプランは対人650万ユーロ(約8億9000万円)、対物200万ユーロ(約2億8000万円)が上限だ。にもかかわらず、今回保険会社がはじき出した更新保険料は、515.29ユーロ(約7万2000円)にも達した。ここまでくると脱力感にさいなまれて、「いっそもうクルマを手放そうか」とも思った。
しかし、公共交通インフラが脆弱(ぜいじゃく)なイタリア地方都市で、いきなりクルマをやめると不便なことが多すぎる。そこで、ダメもとでほぼ10年ぶりに保険会社を見直すことにした。この国でもようやく最近普及しつつあるネットによる一括見積もりサイトを使うと、イタリアのネット契約系保険会社が、対人・対物とも600万ユーロ(約8億2000万円)、それに人身障害補償、これまでより充実したロードサービスも付帯して、341.99ユーロ(約4万7000円)である。
おおっ、2万5000円も安い! 「早速申し込みだ」と意気込んだら、なぜかネット上でボクのクレジットカード番号を入力しても受け付けてもらえない。仕方がないので、銀行で保険料を振り込んだ。やっと振り込んだあとも、「手続きがまだ完了していません」というメッセージが、携帯やメールにひっきりなしに舞い込んだ。
次は、前の保険会社に更新打ち切りの通知である。「面倒くさいなあ」と思って調べたら、イタリアでも2013年から、日本と同様に更新保険料を期限までに支払わなければ、自動解約となる制度ができたことを知った。保険市場の自由競争と活性化を促す措置らしい。さらに、従来の保険会社では必ず郵便で返送しなければならなかった署名書類も、新しい会社はメール添付でオーケーとのことだ。やたら面倒な手続きが多いイタリアだが、亀の歩みで進歩しているのである。
バックで走りたい!
というわけで、イタリアでクルマを維持するため、財布の中からひと月で10万円近くが消えていった先月であった。
そろそろメーターパネル内の「定期メンテナンスお知らせインジケーター」が点灯する時期だ。前回の点検からの走行距離だけでなく、経過月も計算していて、月日がたてば容赦なく点灯してしまうことは知っているものの、思わず「バックで走れば、次の点検まで少し距離が稼げるんじゃないか?」と、恐ろしいほどくだらない考えが一瞬頭をよぎったボクだった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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