トヨタ・ハリアー プレミアム“アドバンストパッケージ”(4WD/CVT)
現代ニッポンのど真ん中 2014.02.14 試乗記 およそ10年ぶりにモデルチェンジされたトヨタの高級クロスオーバーSUV「ハリアー」。2リッターガソリンエンジンの4WDモデルに試乗した。新型「ハリアー」の存在価値とは
新型「ハリアー」が売れているらしい。トヨタから出た受注関連の公式情報は、昨年12月中旬時点のものだけだが、デビューから1カ月での受注台数は約2万台。月販目標2500台の8倍。滑りだしとしては上々の部類。東京の街中でも年明けくらいからポツポツと見かけるようになり、その増殖ペースはたしかに速めかも……というのが偽らざる実感だ。
ただ、初期受注のおよそ4割を占めるハイブリッドは2リッターより納車開始が少し遅く、ハイブリッドに一般ユーザーが乗りはじめたのはつい最近。つまり、今まで街中で見かけた新型ハリアーは基本的に2リッターであり、ハイブリッドがグイグイ増えていくはずの今後は、新型ハリアーの存在感も一気に高まると予想される。
まあ、いまどきの気分としては「なにはなくともハイブリッド」な人も多いだろう。動力性能もハイブリッドのほうが明らかに強力。ただ、新型ハリアーでは、2リッターとハイブリッドの価格差は同じ4WD同士だと約70万円。さらに「2リッターなら2WDで十分」と思えれば、その差は約90万円まで広がる。
いずれにしろ、普通の使い方でハイブリッド燃費分のモトを取るのはむずかしい。というか、今回あらためて2リッターの4WDを使ってみたら、新型ハリアーの魅力はハイブリッド以外の部分にこそあるような気がしてきた。すなわち、この立派なSUVが2リッターエンジンでフツーによく走り、この立派なSUVが2リッターなら300万円前半の乗り出し価格で買える……という点こそ、新型ハリアー最大の存在価値ではないかと思った。
すでにご承知のように、新型ハリアーは日本専用車だそうである。本体価格300万円台で月販2500台程度のモデルを専用開発するとは、シロート目にはかなり厳しく思えるが、プラットフォームを共用する日本未導入の新型「RAV4」とほぼ同時並行で開発した……というあたりにその秘密がありそうである。
商売上手なデザイン
これはまったく個人的な妄想的感想でしかないのだが、新型ハリアーを見て、私はなぜか、あのEXILEを思い出した。具体的にどこがどう……というより、そのたたずまいからディテールにいたるまで、日本の20〜30歳代のプチ肉食系男子(とそれに準じるセンスをもつ中高年層)にウケそうなツボを徹底的に突く商売上手っぷりが、なぜかEXILEとかぶるのである。
新型ハリアーはスタイリングからいきなりキラキラだ。とくに今回のようなダークカラーだと、そこかしこにちりばめられたクリア樹脂とLEDが、シルバーアクセサリーで飾った日焼けマッチョを彷彿(ほうふつ)とさせる。
新型ハリアーは先代よりわずかにサイズが縮小された。ただ、ホイールベースが55mm短くなっているが、全長は15mmしか短縮されていない。その分オーバーハングが長くなっているのだが、新型ハリアーではそれを主にフロント側に充当して、ノーズのとんがり意匠を実現している。
しかもノーズがとんがっているだけでなく、リアはデッキ風のデザインであり、サイドウィンドウグラフィックも含めて、われわれの頭の中にあるハリアーのイメージをきちんとトレースしつつ、全体には、今風にいうとイカツイ。商品デザインとしては見事というほかない。
ドアを開けてシートに座ると、「ちょっとだけクルマ好き」の日本人はさらに感心するだろう。ダッシュボードからセンターコンソール、ドアパネルにいたるまで、これでもか……とレザー貼り。ダッシュのうねるような凸面デザインは、憧れの「クラウンアスリート」をも彷彿。そして中央にはクールでキラキラのタッチパネル。シートにはまるでベントレー(!)の格子ステッチ。ドアパネルのエンブレム刻印は好き嫌いが分かれそうだが、こういうちょっとした小技をうれしく思う日本人のほうが多いと思う。
舗装路中心なら2WDで十分
こうして平均的日本人の物欲を徹底して刺激するクルマを、この手頃価格で提供するところが、新型ハリアーのキモである。それを可能とした最大の理由は前記のようにRAV4と兄弟車であることなんだが、それ以外にも秘密はある。
たとえば、柔らかい触感のレザー貼りダッシュボード。それは複数のレザーを縫い合わせたような意匠なのだが、実際には1枚の合皮を精密に凹凸成形して、裏から樹脂を注入する“一体発泡”という技術によるものである。ステッチは完全な飾りでしかなく、生産工程はシンプルで低コスト。しかし、分厚い皮革を縫い合わせたような見た目を再現すべく、ステッチを深めにして、あたかも糸にテンションがかかったような質感を再現……と、すさまじく凝ったデザインになっている。
さらにハイテクも満載だ。トヨタはいまだ衝突防止技術でも追尾型クルーズコントロールでも、“完全停止”に踏み込んでいないのだが、その一歩手前の技術はハリアーですべて手に入る。だから危機的状況でなければ、いかにも「クルマが守ってくれている感」はきちんと感じ取れる。4WDシステムもスロットル開度やステアリング角度などをパラメーターに積極トルク配分する、市場初投入の最新型だ。
新型ハリアーの走りはほどほどに静かで乗り心地よく、素直で安定している。この種の背高モノに手慣れたトヨタ車らしく、上屋をほどよく上下させて衝撃を吸収しつつ、しかし不安感を助長するほどにはロールさせない……というサジ加減はけっこううまい。
新しい4WDシステムはリアルタイム表示のインジケーターを見るに頻繁にトルク配分を可変させているようだが、正直いうと、この2リッター程度では基本的にシャシーファスターである。舗装路中心の使い方なら2WDで十分……というか、軽量な2WDのほうが走りも活発だ。
まあ、ハッキリいうと、強く蹴り上げられたときの震動感とか、エンジンが高回転まで回ったときのノイズなど、全体の高級感、重厚感では、1クラス上級の「カムリ」ベースだった先代より「ちょっと車格が落ちたか?」みたいな感触がないことはない。数値上はきちんと進化させているのだろうが、全体に漂うオーラのちがいは隠し通せない。
ただ、何度もいうが、この価格である。今回の最上級プレミアム“アドバンストパッケージ”でも、2リッターの2WDなら360万円である。各種装備をさらに割り切れば、200万円台でもいくつかの選択肢があるのは素直に驚く。
このカッコよさと現代ニッポンど真ん中のセンスを素直に受け入れて、EXILEのキャッチーなヒット曲を聴きながら、人生を楽しめばよいではないか。この見事なまでの新型ハリアー商法に触れると、私がいつもやっている欧州カブレのオタク目線による意地悪で細かいツッコミなどどうでもよくなる。ごめんなさい。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
トヨタ・ハリアー プレミアム“アドバンストパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4720×1835×1690mm
ホイールベース:2660mm
車重:1690kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:151ps(111kW)/6100rpm
エンジン最大トルク:19.7kgm(193Nm)/3800rpm
タイヤ:(前)235/55R18 100H/(後)235/55R18 100H(ブリヂストン・デューラーH/T 687)
燃費:14.8km/リッター(JC08モード)
価格:378万9000円/テスト車=392万9700円
オプション装備:マイコン制御チルト&スライド電動ムーンルーフ(10万5000円)/アクセサリーコンセント(8400円)/LEDリアフォグランプ+寒冷地仕様(2万7300円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2132km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:429.1km
使用燃料:43.9リッター
参考燃費:9.8km/リッター(満タン法)/10.3km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。