トヨタ・ハリアー ハイブリッドZ(4WD/CVT)/ハリアー ハイブリッドZ“レザーパッケージ”(FF/CVT)/ハリアーG(FF/CVT)
多芸多才・容姿端麗・商売繁盛 2020.07.21 試乗記 都市型SUVのパイオニアである「トヨタ・ハリアー」がフルモデルチェンジ。4代目となる新型の走りの印象や装備の使い勝手、さらには車台を共有する「RAV4」との乗り味のちがいなどをリポートする。よくぞここまで!
新型ハリアーは案の定、バカ売れらしい。7月16日時点で受注台数が4万5000台(月販目標は3100台)に達しており、今から商談に入っても、モデルによっては納車が年明けになるケースもあるとか。ハリアーの公式ホームページにある「工場出荷時期目処のご案内」をのぞいても、今は“詳しくは販売店にお問い合わせください”とあるだけで、具体的な時期は出てこない。例のウイルスのせいで不安感ばかりがあおられる昨今、こういう景気のいい話を聞けるだけでも、ありがたい気分になる。
それにしても、新型ハリアーの実物はなかなかスゴいカタチをしている。長めの前後オーバーハング、とんがったノーズ、強く傾斜したリアウィンドウとキックアップしたリアエンドなどが、エクステリアにおける“ハリアーらしさ”なのだろう。車体後半部はもちろん一部に樹脂部品も動員した造形ではあるが、リアドアからリアフェンダー、テールゲートの深絞りプレスラインには「この価格帯・この生産台数でよくぞここまで!」と思うほかない。
この「よくぞ!」はインテリアも同じ。一見すると、これでもか……というステッチレザーの世界だが、実際は一部にそれ風の樹脂成形部品を使ったり、体がめったに触れない樹脂シボの大半をハードプラにしたりと、コスト配分は巧妙だ。いっぽうで、縫い合わせ目にパイピングを加えた助手席前や「馬の鞍をイメージした厚革の風合い」を表現したというセンターコンソールなど、ハイライトとなる部分の仕立ては素直に見事である。
室内空間や荷室は「スタイリング優先で割り切った」というが、強くカーブして見えるルーフも、実際にはリアゲート付近までほとんど下降していない。後席はヒップポイントが低めなので、実際に座ると意外なほど広い(そのぶん、見晴らしは正直いって良くない)。荷室も日常づかいには不足感はまるでないが、内張りをギチギチにせめて容量を確保するより、曲線基調の内張りやメタル調パネルの遊び心がハリアー信者の心をくすぐるのだろう。
3部作の掉尾を飾る
新型ハリアーの骨格設計がRAV4と共通の「GA-K」プラットフォームを基礎とすることは、すでに何度も報じられているとおりである。ちなみに今回のハリアーの開発を担当したチーフエンジニアも、RAV4と同じ佐伯禎一氏である。もっというと、北米からスタートして中国や豪州、欧州に導入予定という3列シートSUV「ハイランダー」もGA-K由来で、チーフエンジニアは同じく佐伯氏だ。
現行RAV4は日本でこそ2019年発売だったが、初めて世に出たのは2018年秋の北米発売だった。そしてハイランダーが翌2019年秋に北米発売されて、2020年に今回のハリアーである。こうして連続的に開発された3台のSUVを、佐伯氏は「3部作」と称する。
なかでも、RAV4とハリアーはホイールベースやシートレイアウト、パワートレインなどの共通点がとくに多い。そのうえでハリアー特有の乗り味を実現するキモとなったのは、車体その他に投入された騒音対策の数々と、新開発のショックアブソーバーという。
このショックアブソーバーについては「ピストンスピード2mm/s以下の極微低速域でもスムーズなストロークの動きを確保」という効能書きがまったく同じことから、以前の記事で「『レクサスES』で初採用された『スウィングバルブショックアブソーバー』と思われる」と書かせていただいたが、実際はちがった。ここに訂正いたします。すみません。
スウィングバルブ~がKYBの商標なのに対して、新型ハリアーの足もとを支えるそれは、日立オートモティブシステムズ製なのだそうだ。担当者によると、日立を使う理由は「調達の都合」ということで、サプライヤーはちがっても目指す性能はほぼ同じなのだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
狙い目は下位グレード
今回はハリアーとしては初の公道試乗で、ハイブリッドの4WD(後輪はモーターで駆動する「E-Four」)と同じハイブリッドの2WD、そして2リッター純エンジン(の2WD)という3機種を走らせることができた。ただし、その試乗メニューが横浜みなとみらいを拠点に、1台あたり30分~1時間というルートも時間も限定的だったことをお断りしておく。
そんなチョイ乗りでも、だれにでも分かる新型ハリアーの魅力は静粛性だ。直接乗りくらべなくても、RAV4より明らかに静かである。
さらに、最上級となるハイブリッド4WDは、同じパワートレインのRAV4より約80kgも重いこともあって、明らかに重厚な身のこなしとなる。とくに今回の試乗車は大径19インチホイールを履く「Z」グレードで、しかも天井に大面積のガラスルーフを備えることもあってか、重量に対する足まわりの設定が明らかに柔らかく感じた。
その直進でのソフトタッチと、くったり速やかにロールする特性はどこか懐かしくもあり、さしずめ「クラウン ロイヤルサルーン」のSUV版といった風情だ。国内専用車だった先代とはちがい、新型ハリアーは「ヴェンザ」として北米販売もされる国際派に脱皮した。それでも、こうして良くも悪くも日本的なテイストを醸してくれるのは日本人として悪い気はしない。
ただ、上屋が安定したフラットライドと接地感の両立レベル、大きなギャップで突き上げられたときのいなし具合、フロアに伝わる振動の少なさといった現代的な意味での快適性、安定性は、今回の試乗車だと4WDより2WD、ハイブリッドよりは2リッター、そしてホイールサイズも19インチよりも18インチ(17インチには試乗できず)のほうが印象が良かった。つまり、軽くて安価な仕様内容ほど(耳に届く静粛性以外は)、走りが好印象だったのはちょっと意外。というのも、トヨタの高級車の場合は、上級グレードで、装備のトッピングが多くなるほど快適になる傾向が強いからだ。これを裏返すと、今回試乗したような2リッターの中間グレード「G」なら、この内外装の質感と乗り心地が300万円台半ばで手に入るわけで、これは素直に商品力がメチャクチャ高い。売れるわけである。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
中小企業のチカラ
新型ハリアーは基本ハードウエアに新味がないぶん、内外装のデザインと質感、そして担当者の苦労がしのばれる装備が目を引く。今回のハリアーでとくに注目すべき装備は、最近話題のドラレコを早くも取り込んでしまった「前後方録画機能付きデジタルインナーミラー」と、トヨタでおなじみの開閉式ムーンルーフのかわりに新投入された「調光パノラマルーフ」だろう。
とくにドラレコ機能付きのデジタルインナーミラーは、まさに“機を見るに敏”というほかなく、ディーラーオプションとしての売り上げを当て込んでいたはずの用品部門や販社の抵抗がかなり強かったであろうことは想像にかたくない。いっぽうの液晶による調光ガラスルーフは2002年発売のマイバッハが世界初だった気がする。その後もメルセデス名義の「Sクラス」や「マイバッハSクラス」が調光ガラスルーフを採用したが、それがいよいよハリアーまで降りてきた。
新型ハリアーの調光パノラマルーフも、SクラスやマイバッハSクラスと同じく日本のAGC(旧・旭硝子)が供給する。ただし、スイッチひとつ(もしくは“空が見たい”といった音声入力)で透明と不透明が瞬時に=世界最速で切り替わる点が今回最大の特徴という。
ちなみに、その調光ガラスそのものを生産するのは前記のとおりAGCだが、調光のキモとなる(2枚のガラスにサンドイッチされた)液晶パネルは九州ナノテック光学という中小企業が開発した特殊フィルムなのだという。同社が自動車部品に参入するのはこれが初らしい。新型コロナウイルスに翻弄される今日このごろにあって、これもまた、新型ハリアーにまつわる景気のいい話である。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
拡大 |
テスト車のデータ
トヨタ・ハリアー ハイブリッドZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4740×1855×1660mm
ホイールベース:2690mm
車重:1770kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:178PS(131kW)/5700rpm
エンジン最大トルク:221N・m(22.5kgf・m)/3600-5200rpm
フロントモーター最高出力:120PS(88kW)
フロントモーター最大トルク:202N・m(20.6kgf・m)
リアモーター最高出力:54PS(40kW)
リアモーター最大トルク:121N・m(12.3kgf・m)
システム最高出力:222PS(163kW)
タイヤ:(前)225/55R19 99V/(後)225/55R19 99V(トーヨー・プロクセスR46A)
燃費:21.6km/リッター(WLTCモード)
価格:474万円/テスト車=513万1600円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万3000円)/ITSコネクト(2万7500円)/調光パノラマルーフ<電動シェード&挟み込み防止機能付き>(19万8000円)/パノラミックビューモニター<シースルービュー機能付き>(6万0500円)/おくだけ充電(1万3200円)/寒冷地仕様<ウインドシールドデアイサーなど>(1万7600円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エクセレントタイプ>(4万1800円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1860km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
トヨタ・ハリアー ハイブリッドZ“レザーパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4740×1855×1660mm
ホイールベース:2690mm
車重:1710kg
駆動方式:FF
エンジン:2.5リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:178PS(131kW)/5700rpm
エンジン最大トルク:221N・m(22.5kgf・m)/3600-5200rpm
モーター最高出力:120PS(88kW)
モーター最大トルク:202N・m(20.6kgf・m)
システム最高出力:218PS(160kW)
タイヤ:(前)225/55R19 99V/(後)225/55R19 99V(トーヨー・プロクセスR46A)
燃費:22.3km/リッター(WLTCモード)
価格:482万円/テスト車=521万6000円
オプション装備:ボディーカラー<プレシャスブラックパール>(5万5000円)/ITSコネクト(2万7500円)/調光パノラマルーフ<電動シェード&挟み込み防止機能付き>(19万8000円)/パノラミックビューモニター<シースルービュー機能付き>(6万0500円)/おくだけ充電(1万3200円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エクセレントタイプ>(4万1800円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:1546km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |
トヨタ・ハリアーG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4740×1855×1660mm
ホイールベース:2690mm
車重:1620kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:171PS(126kW)/6600rpm
最大トルク:207N・m(21.1kgf・m)/4800rpm
タイヤ:(前)225/60R18 100H/(後)225/60R18 100H(ダンロップ・グラントレックPT30)
燃費:15.4km/リッター(WLTCモード)
価格:341万円/テスト車=397万2100円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万3000円)/ITSコネクト(2万7500円)/リアクロストラフィックオートブレーキ<パーキングサポートブレーキ[後方接近車]>+ブラインドスポットモニター[BSM](6万8200円)/T-Connect SDナビゲーションシステム+JBLプレミアムサウンドシステム(36万9600円)/アクセサリーコンセントAC100V・100W<ラゲッジ右側1個>(8800円)/おくだけ充電(1万3200円) ※以下、販売店オプション フロアマット<エクセレントタイプ>(4万1800円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:862km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。 -
ホンダの株主優待「モビリティリゾートもてぎ体験会」(その2) ―聖地「ホンダコレクションホール」を探訪する―
2025.12.10画像・写真ホンダの株主優待で聖地「ホンダコレクションホール」を訪問。セナのF1マシンを拝み、懐かしの「ASIMO」に再会し、「ホンダジェット」の機内も見学してしまった。懐かしいだけじゃなく、新しい発見も刺激的だったコレクションホールの展示を、写真で紹介する。






















































