ハーレーダビッドソン・トライグライド ウルトラ(MR/6MT)
“鉄馬流”のスポーツマインド 2014.03.20 試乗記 ハーレーダビッドソンの三輪モデル「トライグライド ウルトラ」に試乗。四輪車が忘れかけていた、骨太で濃密な“操る喜び”に触れた。普通自動車免許で乗れる
なぜハーレーダビッドソンの試乗記が『webCG』に登場するのか。編集部員の自動二輪車運転免許保有率が高いから、ではなくて、写真でお分かりのとおり三輪、つまり「トライク」だからだ。あとで書く事情のおかげで、クルマの免許で乗れるハーレーなのである。
トライクはミニバンやSUVと同じように、新しいジャンルを作り出すのが得意なアメリカで誕生した。生みの親がハーレーで、1932年に荷物運搬用として登場したサービカー(Servi-car)がルーツとされる。三輪自動車というだけなら、1886年に作られたベンツ第1号車も該当するし、わが国のオート三輪だって1930年代から存在しているけれど「オートバイから発展した三輪」がハーレー起源ということなのだろう。
サービカーは1970年代に生産を終えた。ところがその少し前から、一部のユーザーがレジャーユースで愛用していた。ピックアップトラックを遊びグルマに使うのと似た感覚だ。その結果、コンバージョンメーカーが続々と登場した。そこでハーレーは再生産を決意。「トライグライド ウルトラ」という名前で、今度は乗用モデルをリリースしたという経緯らしい。
クルマのような、バイクのような
そのトライクがクルマの免許で乗れる理由は、わが国の自動車に関する2つの法律、道路交通法と道路運送車両法の立ち位置の違いによるところが大きい。
道路交通法は免許制度や交通規則に関すること、道路運送車両法は登録や車検、安全、環境に関することを規定している。2つの法律で判断が異なるのはよくあることで、例えば「原動機付自転車」は道交法では50cc以下、車両法では125cc以下になる。
トライクもそのひとつで、道路交通法では昔のオート三輪の流れをくんでいるためもあって普通自動車、つまり『webCG』で扱う乗用車と同じカテゴリーだが、道路運送車両法では側車付き二輪車(サイドカー)になる。
だから普通自動車免許で乗れ、ヘルメットの着用義務はないが、自動車税はオートバイと同じで、車庫証明は不要だ。クルマとオートバイの両方を所有する自分にとって、トライクは双方の好ましい部分を兼ね備えたようなカテゴリーに映っていた。そこにハーレーが参入してきたのである。
時代に即したVツイン
今年、創業111年を迎えるハーレーといえば、V型2気筒エンジンを思い出す人が多いだろう。このVツイン、現在は空冷のビッグツインとスモールツイン、水冷のV-RODの3種類に大別される。トライグライドが積むのはビッグツインだ。
くわしく書けば「ツインクールド・ハイアウトプット・ツインカム103」で、2014年モデルで導入された、シリンダーヘッドのみ水冷化し、圧縮比アップなどを実現した103キュービックインチ、つまり1689ccユニットを積む。ツインカムと銘打ってはいるがDOHCではない。クランク近くにカムシャフトを置いたOHVのまま、それを2本にして吸排気効率を向上させたのだ。
最高出力は未公表。最大トルクは13.5kgm/3750rpmと、クルマのようなスペックだ。燃料供給はもちろんインジェクションで、トランスミッションは6段。後輪を回すのはチェーンではなくベルトだ。Vツインにこだわりつつ、環境問題や騒音問題という今日的なテーマにもしっかり対応したパワートレインなのである。
奥が深い“三輪”のハンドリング
僕は1年半前、2013年モデルのオールラインナップ試乗会で、ビッグツインの二輪モデルに何車種か乗る機会に恵まれた。なので最近のハーレーは未知の世界ではないのだが、「タイヤが1本増えるだけでこうも違うのか!」と痛感した。
一番の違いはハンドリングだ。オートバイは自転車と同じように、車体を傾けて(バンクさせて)曲がる。でもトライグライドは三輪だから傾けられない。だからハンドルを切って曲がるのだが、バーハンドルのままなので、ついついバンクさせようとして傾かないことに気付き、あわててハンドルを切る始末だった。
でもしばらくすると慣れた。曲がりたい側のグリップを手前に引き、アクセルを開けていくと、うまく旋回できる。アクセルを開けすぎると、昔のオート三輪のように転倒してしまう可能性もあるから油断は禁物だが、流れに乗って走る程度なら、不安なくこなせるようになった。二輪や四輪以上に奥が深そうだ。
乗り心地も独特だった。オートバイの揺れはいわゆるピッチングだけで、クルマはそこにローリングが組み合わされるが、トライグライドは三輪なので斜め方向の揺れも存在する。しかしこちらも、短時間で慣れた。
粗削りな鼓動は健在
小雨交じりの取材日は、三輪ならではの安心感がありがたかった。仮にアクセルを開けすぎて、後輪がズルッとなっても、転倒とは無縁。信号待ちで足を路面に着かずに停止できることもホッとする。モーターを用いた後退までできるから、押し歩きでよろめいて車体を倒してしまう心配もない。
一方で、Vツインの感触は二輪のハーレーと同じ。半水冷となっても、アイドリングではあふれんばかりの鼓動と振動が乗り手を揺さぶる。それでいて2000rpmあたりまで回せば振動が消え、巨大なVツインが生む粗削りの鼓動だけを伝えてくる。不快成分を消し、快感成分だけを抽出したこの調教、絶妙と言うしかない。
「ハイアウトプット」を名乗るだけあって回せば速いし、レッドゾーンまでストレスなく吹け上がるけれど、気持ちいいのはやっぱり2000~3000rpm。80km/hでのクルージングならトップギアで約2000rpmと、この快感領域にどっぷり浸れる。
“鉄馬”ならではの操る喜びがある
AT天国アメリカ生まれでありながら、ハーレーはすべてMTだ。トライグライドも例外ではない。クラッチレバーは重くはないけれど、左足のかかとでシフトアップ、つま先でダウンするシーソータイプのチェンジペダルは、ガシャンッと昔の機械のような響きを返してくる。たぶん意図的にこのタッチを残しているのだろう。いまとなっては新鮮だ。
ここまで逞(たくま)しく骨っぽい走行感覚、現在のクルマ(四輪車)では到底味わえない。クルマはやはりトランスポーターとしての役割が主で、より速く、より快適にという進化をたどってきたのに対し、オートバイはいまなお操る喜びを大切にしているという違いがよく分かる。三輪のハーレーもまた、アイアンホース=鉄馬なのだった。
でもトライグライドなら、最初に書いたようにクルマの免許で乗れる。単室容積850ccという巨大な2本のシリンダーをドコドコ震わせ、チェンジペダルをガッチャンと踏み込みながら流していると、今のスポーツカーが忘れてしまった真のスポーツマインドが、この三輪車には宿っているような気がした。
(文=森口将之/写真=郡大二郎)
テスト車のデータ
ハーレーダビッドソン・トライグライド ウルトラ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2670×1390×1430mm
ホイールベース:1670mm
車重:559kg
駆動方式:MR
エンジン:1.7リッターV2 OHV 4バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:非公開
最大トルク:13.5kgm/3750rpm
タイヤ:(前)MT90 B16 M/C 72H(ダンロップD402F)/(後)P205/65R15 92T(ダンロップ・シグネチャー)
燃費:16.1km/リッター(メーカー値)
価格:406万7000円/テスト車=406万7000円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:634.7km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(10)/高速道路(0)/山岳路(0)
テスト距離:47.4km
使用燃料:6.1リッター
参考燃費:7.8km/リッター(満タン法)
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森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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