ポルシェ・マカン ターボ(4WD/7AT)/マカンS(4WD/7AT)
大ヒット間違いなし 2014.03.18 試乗記 日本にも導入されるポルシェの新型SUV「マカン」とは、一体どんなクルマなのか? 他車とはどのような違いがあるのか? 仕様の異なる2つのモデルを、ドイツ本国で試した。戦略的なニューモデル
ポルシェが、世界にあまたある自動車メーカーの中でも“屈指の技術者集団”であるという点に、もちろん異論はない。
そもそもそうでなければ、誰もが一度はひらめき、しかし諦めていったRRというレイアウトをただひとり手なずけ、誕生から半世紀が経過した今なお、「911」を第一級のスポーツカーとして世界に認めさせることなど、到底不可能であったに違いない。
一方で、同社が“マーケティング能力にたけたメーカー”であるという思いが日に日に強まっているのも事実だ。
2013年の世界販売台数は16万台を超え、「2018年には20万台超」という目標も前倒しでの実現が確実――かような絶好調が報じられるポルシェの現況は、1990年代初頭に年産1万5000台を割り込み、「周辺メーカーが救済に乗り出すのでは?」とまことしやかにささやかれるほどの窮地に陥った過去を、すっかり忘れさせる。
そんな”奇跡の復活”を遂げる原動力となったのが、文字通り社運を懸けて開発された「ボクスター」であり、「カイエン」であるのはよく知られたハナシ。特に、巨額の利益をもたらす“稼ぎ頭”となったカイエンが、「アメリカでポルシェ車を所有する人の多くは、大型SUVを同時所有している事実がある」というマーケティングに基づいて開発されたというのは、至極納得のできるシナリオでもあるわけだ。
911、ボクスター/ケイマン、カイエン、そして「パナメーラ」に続く“第5のレンジ”としてリリースされた「マカン」も、やはりそんなマーケティング主導型のモデルであるのは明白。ポルシェのSUVには憧れつつも、8気筒エンジン搭載を前提に開発されたカイエンを「この時代にはあまりにも重厚長大に過ぎる」と考える人々が世界に数多く存在するであろうことは、今や誰の目にも明らかだろう。
カイエンに勝る躍動感
インドネシア語でトラを意味するというそのネーミングが明らかにされるまでは、“ベイビー・カイエン”などと紹介されたマカン。ポルシェも自ら、そのキャラクターを「コンパクトSUVセグメントのスポーツカー」と評しているが、実際のサイズは、コンパクトという言葉が示すイメージに合うとは言い難い。
4.7mに満たない全長は、カイエンに比べると150mmほどコンパクト。しかし、その全幅は20mmと違わず、マカンも1.9mを超える全幅の持ち主となる。
それでも、実車を前にすればやはりカイエンよりは明らかに小さく感じられるのは、どうやら80mmほど低い全高がもたらす「ボリューム感の違い」によるところが大きいようだ。さらに言えば、リアウィンドウの傾斜角は大きく、結果的に短くなったルーフを含め、アッパーボディーの造形には“クーペ風味”が強く感じられる。マカンのたたずまいのほうが、カイエンよりも躍動感に富んでいてスポーティーであるのは間違いない。
“峰”を残した両脇フェンダーの先端にヘッドライトを配すレイアウトが、明らかにカイエンを範とする“ポルシェ顔”である点には、多くの人が納得しそう。その一方で、エンブレムが主役の(?)ツルンとプレーンなリアビューは、やや好みが分かれそうだ。
カイエンよりも70mm低いとされるドライバーズシートのヒップポイントは、優れた乗降性をもたらす。その反面、着座姿勢やアイポイントが“乗用車”とさほど変わらないために、見下ろし感に富んだSUV的なフィーリングに乏しい点は、支持が割れるところだろう。
ただ、3連丸型のメーターやダッシュボードのドアサイドに設けられたキーシリンダー、前方へとせり上がる「ライジング・コンソール」など、随所にこのブランドならではのアイコンがちりばめられたインテリアの雰囲気は、なるほど最新のポルシェ車にふさわしいもの。
もちろん、キャビンの空間は大人4人で乗るのに十分な広さがあるが(定員は5人)、ラゲッジスペースの高さが制限されてしまうのは、前述したとおりリアウィンドウが強く傾斜していることからも、ある程度はやむを得ない。
意外なほどに静かで上品
ローンチの時点では、2種のガソリンエンジン搭載モデルと1種のディーゼルエンジン搭載モデルの、計3タイプが発表されたマカン。前者は、すでにパナメーラにも搭載されているポルシェ内製の3リッターと、それをベースに新開発された3.6リッターの、いずれもツインターボ付き直噴V6ユニット。後者は「カイエン ディーゼル」の場合と同様、親会社であるフォルクスワーゲンから供給を受ける、3リッターのターボ付きディーゼルユニットだ。
「よりスポーティーなキャラクターを目指す」という目的のため、いずれもカイエンのティプトロニック(トルコン式AT)ではなく、PDKと称する7段のDCTが組み合わされる。全モデルが電子制御式多板クラッチを用いた4WDシステム「PTM(ポルシェ・トラクション・マネージメントシステム)」を採用し、2WD仕様は存在しない。
3.6リッターの「マカン ターボ」でスタートすると、これが意外なほどしなやかなフットワークと静粛性をみせる。当初の予想よりも上品な走りの持ち主であることに驚かされた。
もちろん、0-100km/hの加速タイムが4秒台というモデルだけに、アクセルペダルを深く踏み込んだ際の加速力は文句ナシだ。が、そんなシーンでも荒々しさは伴わず、排気サウンドも予想したほど派手なものではなかった。
今回は、カイエン/パナメーラとともにマカンの生産も行われる、ドイツはライプチヒの工場を基点とした冬の試乗会であったため、テストカーはどれもウインタータイヤを装着していた。それもプラス側に作用をしたか、路面の継ぎ目に対するハーシュの処理なども見事な水準と思えた。「このクラスで唯一」とうたわれる車高調整機能付きのエアサスペンションをオプション装着したモデルに乗り換え、コイル式サスに比べて15mmローダウンとなるノーマルモードで試乗してみても、フットワークのテイストにほとんど変わりはなかった。
一方、ノーマルタイヤに換装し前出のエアサスやトルクベクタリングをオプション装着したマカン ターボによる、工場敷地内のサーキットコースにおけるテストドライブでは、このモデルが“ポルシェの作品”であることを思い知らされた。
特に、タイトターンの脱出からアクセルを深く踏み込んだときに、テールアウトのファイティングポーズをとろうとする点は興味深い。いかにも、後輪側へのエンジントルクバイアスが強く掛けられたことを実感させられるそんな挙動は、ベースのボディー骨格を共有する「アウディQ5」とは、全く異なるものだった。
さすがポルシェの動力性能
最高出力400psを誇るマカン ターボから、340psのマカンSに乗り換えると、当然、その加速のたくましさは多少マイルドになる。
とはいっても、それはあくまでもポルシェ基準でのハナシだ。マカンSとて0-100km/hのタイムは5.4秒。さらに“カタパルト発進”を可能とするローンチコントロールを含む、「スポーツクロノパッケージ」をオプション装着した場合の5.2秒というデータは、ケイマンのベースグレードのそれを、軽々としのぐ速さだ。
このように、2つのモデルには、確かに動力性能上の差があるものの、それは「どこまでの“過剰”を求めるか」の違いであるといっていいだろう。
ちなみに、Sではオプション扱いとなる電子制御式の可変減衰力ダンパー「PASM」やバイキセノン式のヘッドライト、レザーパッケージが、ターボでは標準装備となるほか、“シューズ”のサイズにも違いはあるものの、日本における両者の価格差は、すでに発表されているとおり278万円*に達する。(*消費税8%含む。以下同じ)
端的に言って、「カイエンが買えてしまう価格」が設定されたターボに比べると、何だかSがお買い得に感じられてしまうのは、巧みな商品戦略の成せる業か。ちなみに719万円*のこちらだと、「メルセデス・ベンツMクラス」や「BMW X5」のスターティングプライスよりも“かなり下”という値づけになる。
恐らく、このポルシェのブランニューモデルは、世界で大ヒットを飛ばすことになるだろう。実際、まだデリバリーが始まっていない今年の年頭の段階で、「予定されていた年間5万台の生産計画を、8万台に上方修正する」といった、景気のいい話までが漏れ伝わってきてもいる。
その一方で、「カイエンやパナメーラ、そしてこのマカンがポルシェ内でのシェアを増やし続ける」という報を聞くにつけ心穏やかでないのは、「ポルシェはスポーツカーメーカーであるべき」と信じて疑わない往年のファンであるかもしれない。
……などと言いつつも、「こうしたモデルによるもうけを原資に、より楽しく、より夢中にさせてくれる新型スポーツカーを開発してくれるなら、それはそれで大歓迎!」という、もうひとりの自分の声も、どこからか聞こえてくるのだ。
(文=河村康彦/写真=ポルシェ・ジャパン)
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テスト車のデータ
ポルシェ・マカン ターボ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4699×1923×1624mm
ホイールベース:2807mm
車重:1925kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:400ps(294kW)/6000rpm
最大トルク:56.1kgm(550Nm)/1350-4500rpm
タイヤ:(前)235/55R19/(後)255/50R19(ダンロップSPウインタースポーツ4D)
燃費:10.9km/リッター~11.2km/リッター(NEDC複合サイクル)
価格:997万円*/テスト車=--円
オプション装備:--
*日本での車両本体価格(消費税8%含む)。
※価格以外の数値は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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ポルシェ・マカンS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4681×1923×1624mm
ホイールベース:2807mm
車重:1865kg(DIN)
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:340ps(250kW)/5500-6500rpm
最大トルク:46.9kgm(460Nm)/1450-5000rpm
タイヤ:(前)235/55R19/(後)255/50R19(ダンロップSPウインタースポーツ4D)
燃費:11.1km/リッター~11.5km/リッター(NEDC複合サイクル)
価格:719万円*/テスト車=--円
オプション装備:--
*日本での車両本体価格(消費税8%含む)。
※価格以外の数値は欧州仕様のもの。
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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