マツダ・アクセラスポーツXD(FF/6AT)/アクセラハイブリッドHYBRID-S Lパッケージ(FF/CVT)/アクセラスポーツ15S(FF/6MT)
胸を張れるクルマ 2014.03.24 試乗記 かつてないほど幅広いラインナップをそろえる、マツダの新型「アクセラ」。南国・鹿児島での試乗会から、それぞれの仕様に見られる走りの違いをリポートする。驚きのバリエーション
それにしても、新型「アクセラ」で驚かされるのは、バリエーションの多さだ。
車体形式はスポーツ(5ドアハッチバック)とセダンの2種類。動力源は1.5リッターと2リッターのガソリン、2.2リッターディーゼルターボという3種のエンジンに、2リッターガソリンエンジンを核としたマツダ初のハイブリッドを合わせた計4種類。さらに、ハイブリッドを除く3種のエンジンでは、主力の6段ATのほかに6段MTが選べるから、パワートレインの組み合わせだけで7種類。あと、1.5リッターのAT車にはFFのほかに4WDもある。
これらはすべて「海外にあるモデルも寄せ集めると……」ではなく、なにかしらのカタチで日本国内で入手可能な仕様である。それでも、ハイブリッドはセダンのみ、日本では2リッターとディーゼルが5ドアのみ、セダンにMTの設定はなし……と、いくつかの制約はあるものの、車体とパワートレインの組み合わせは、日本だけで都合10種類もあるのだ。
競争が激化して、コストと品質の両立が迫られる昨今、各社の取り組みとしてよく聞かれるのが“仕様数削減”だ。海外ではMTを売っても、日本でだけはAT限定……というのが今はフツー。どことはいわないが、「非・売れ筋グレードはとことん省く」という戦術の結果として、輸入車より簡素なラインナップになってしまっている国産車も少なくない。
マツダはその正反対である。「日本のメーカーが日本で商売するんだから」と、とにかく出し惜しみしない。とあるインタビューで、新型アクセラのデビューまで開発主査をつとめた猿渡健一郎さんが「パワートレインは乗る人の好みの問題ですから。それに合わせてご用意する」と、ハッキリ断言していたのを思い出す。
ディーゼル車は“ホットハッチ”!?
「CX-5」と「アテンザ」に続いて、アクセラにもディーゼルがある。発売前のプロトタイプも含めると、アクセラのメディア向け試乗会はこれで4回目だが、公道でアクセラ・ディーゼルを試すことができたのは今回が初だ。
スカイアクティブを名乗る最新マツダ車では「ディーゼルはあって当然」の雰囲気があるが、さすがにアクセラでは、企画当初に日本で用意するべきかは流動的だったという。ただ、アテンザのディーゼルが国内で予想外に売れたことで、迷いは消えた。
現在のマツダでは2.2リッターディーゼルターボが最も高性能なエンジンとなる。だから、現時点で同エンジン車最軽量となるアクセラでは、ディーゼルは完全にホットハッチ扱いで、フロントグリルにちょこっと赤いラインが差し込まれたりもする。
マツダ製2.2リッターディーゼルそのものの速さと気持ち良さを、いまさらここで細かく説明はしない。このディーゼルはアテンザより100kg前後も重いCX-5やアテンザでものけぞるようなパンチ力を見せて、なおかつアテンザのMTでは6速1000rpm以下(!)でも、シレッと涼しげに走ってしまうほどである。それを最軽量のアクセラに積めば、怒涛(どとう)のごとく速いのは自然の摂理だ。
ただ、実際の試乗前に不安がなかったわけではない。重量である。アクセラのディーゼルは前軸荷重だけで、2リッターガソリン比で140kg、1.5リッターガソリン比ではなんと200kg近くも重い。CX-5でもアテンザでも、ガソリンとディーゼルの操縦性には差があって、うねった路面、下り勾配のタイトコーナーなどでは明確にアンダーステアが強く、ガソリン車と同じ運転をするとノーズの重さをもてあまし気味になる。
コーナリングにほれぼれ
トータル重量が軽いアクセラでは相対的なノーズヘビー度合いがさらに強まるわけで、もてあます頻度はさらに増えると考えるのが普通である。シロートの私でも「大丈夫なのか?」と心配になる。だが、それはやっぱり、シロートの杞憂(きゆう)でしかなかった。
後述する1.5リッターと比較すれば、ディーゼルはもちろんハッキリ重い。いい意味で重厚である。ただ、驚くほどにアンダーステアが小さい。今回の試乗コースとなった指宿スカイラインは、アップダウンも路面のウネリや波打ちもけっこう多く、クルマにとって決してやさしいタイプの道ではない。しかし、そこをアクセラXD(しかもパワートレインがより重い6AT)で走っても、「曲がんねえな」とか「ハナが重てぇ!」というネガティブな印象はまるでなかった。
アクセラXDはカットスリックみたいな超絶ハイグリップタイヤをガッチガチに硬いアシで強引に押し付けているわけではない。むしろ逆だ。
215幅の「ダンロップSP SPORT MAXX TT」はけっこうな高性能タイヤだが、この種のものとしてはバランス指向。そして、フットワークは他のアクセラ同様に、いい案配にじんわりとピッチング&ロールして、しかるべき車輪に優しく絶妙に荷重をスッと載せる。うねり路などでは意外なほど上下動が大きいが、タイヤはとにかく接地したまま。「路面をなめるがごとし」を快適な乗り心地の形容句とするならば、XDはどのアクセラより路面をなめる。
そして、コーナーの曲率を問わず、踏めば踏むほどグイグイ。いやスゴイ。この快適性、このしなやかさ。そして、以前乗った2リッターの記憶を含めても、パワステの重さとノーズの釣り合いは、これが最もマイタイプのベストテイスト。ヘビーで馬鹿力のディーゼルをこれほど見事に御しきるとは!! スロットル制御などに急激な加減速を緩和する思想が入っているというが、そのほかには特別なトラクションデバイスは公表されていない。「CX-5やアテンザからはちょっと想像しがたい。なんでっすか!?」と開発担当氏に尋ねたら「こっちのほうが新しいですから」とニヤリ。
新型アクセラにハズレなし
今回が初見ではないが、ハイブリッドと5ドアの1.5リッターMTにも乗った。
ハイブリッドは、現時点では日本専用。国内のこのセグメントは事実上、ハイブリッド(トヨタのアレ)の独壇場だから、ないわけにはいかないのだ。
自社製2リッターエンジンにプリウス用のハイブリッドシステムを組み合わせたアクセラハイブリッドは、ほかではオルガン式のアクセルペダルが吊り下げ式になること、スポーツモードやパドルシフト的な可変システムがないこと、複雑なリア・マルチリンク・サスペンションのせいで動力バッテリーが意外に高い位置にあること……といった“他車用に開発されたシステム流用の限界”がなくはない。
ただ、ブレーキの自然さ、右足操作に対する加減速Gの“ツキ”は、マツダテイストで相当に煮詰めたのは乗ればわかる。膨大にあるバリエーションのひとつとして、分かりやすい可変システムの開発を横に置いて(?)も、そこを突き詰めただけのことはある。
1.5リッターは事前の予想以上に売れているらしい。利益率だけで見れば、マツダとしては2リッターあたりがもっと出てほしいはずだが、実際の商品を見れば売れるのは当然である。
アクセラの1.5リッターは見ても乗っても哀しき安普請のオーラはまるでなく、新開発スカイアクティブ-Gの1.5リッターはさわやかに回って、とにかく軽く軽快にクリンクリン曲がる。アクセラはXDでもイヤなノーズヘビー感はまったくないが、やっぱりハナが軽いのは気持ちいい。これで200万円前後。欧州車だとBセグメント値段。この予算でクルマを買おうと思ったら、真剣に悩む。
アクセラの開発主査は、あまりに膨大なバリエーションに戸惑う販売現場のセールスマンを前に「お客さんは絶対に悩む。でも、売り手の都合や好みを押し付けないでほしい。一緒にとことん悩んで、納得して買ってもらってほしい」と諭したという。作り手が率先して、こういうことをハッキリいえるのが、今のマツダの強さなんだろう。
アクセラは捨てグレードなし。日本人が胸を張れるジャパニーズCセグメントの星。個人的には、XDにちょっと傑作の匂いを感じる。
(文=佐野弘宗/写真=小林俊樹)
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テスト車のデータ
マツダ・アクセラスポーツXD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4460×1795×1470mm
ホイールベース:2700mm
車重:1450kg
駆動方式:FF
エンジン:2.2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:175ps(129kW)/4500rpm
最大トルク:42.8kgm(420Nm)/2000rpm
タイヤ:(前)215/45R18 89W/(後)215/45R18 89W(ダンロップSP SPORT MAXX TT)
燃費:19.6km/リッター(JC08モード)
価格:298万2000円/テスト車=301万3500円
オプション装備:CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万1500円)
※価格はいずれも5%の消費税を含む。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:3877km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:101.1km
使用燃料:--リッター
参考燃費:10.1km/リッター(車載燃費計計測値)
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マツダ・アクセラハイブリッドHYBRID-S Lパッケージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4580×1795×1455mm
ホイールベース:2700mm
車重:1390kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:CVT
エンジン最高出力:99ps(73kW)/5200rpm
エンジン最大トルク:14.5kgm(142Nm)/4000rpm
モーター最高出力:82ps(60kW)
モーター最大トルク:21.1kgm(207Nm)
タイヤ:(前)205/60R16 92V/(後)205/60R16 92V(ブリヂストン・エコピアEP150)
燃費:30.8km/リッター(JC08モード)
価格:262万5000円/テスト車=281万4000円
オプション装備:CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万1500円)/Boseサウンドシステム(AUDIOPILOT2+Centerpoint2)+9スピーカー(7万3500円)/電動スライドガラスサンルーフ(8万4000円)
※価格はいずれも5%の消費税を含む。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:4911km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(2)/山岳路(4)
テスト距離:93.7km
使用燃料:--リッター
参考燃費:11.9km/リッター(車載燃費計計測値)
マツダ・アクセラスポーツ15S
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4460×1795×1470mm
ホイールベース:2700mm
車重:1240kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:6段MT
最高出力:111ps(82kW)/6000rpm
最大トルク:14.7kgm(144Nm)/3500rpm
タイヤ:(前)205/60R16 92V/(後)205/60R16 92V(トーヨー・ナノエナジーR38)
燃費:19.2km/リッター
価格:190万500円/テスト車=215万7750円
オプション装備:ディスチャージパッケージ(6万8250円)/セーフティクルーズパッケージ(8万4000円)/CD/DVDプレーヤー+地上デジタルTVチューナー(フルセグ)(3万1500円)/Boseサウンドシステム(AUDIOPILOT2+Centerpoint2)+9スピーカー(7万3500円)
※価格はいずれも5%の消費税を含む。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:4890km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(--)
テスト距離:106.0km
使用燃料:--リッター
参考燃費:9.6km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。