プジョー・シトロエン フルラインナップ試乗会【試乗記】
単なる着せ替えにあらず 2011.12.25 試乗記 プジョー・シトロエン フルラインナップ試乗会(プジョー308SW プレミアム/シトロエンC4ピカソ エクスクルーシブ/プジョー207GT/シトロエンC5 セダクション)プジョー・シトロエンのフルラインナップ試乗会で、1.6リッター直4ターボエンジンを搭載した、スタイリングの違う4つのモデルに試乗。同じエンジンで、クルマの性格はどれだけ変わるのか?
1.6リッターのみだけど……
ジャーナリスト向けの試乗会は、乗りたい車種を事前に伝えておく予約制と、あいているクルマをその都度選ぶ先着制がある。プジョー・シトロエンのオールラインナップ試乗会は前者だったので、編集部がシトロエン2台、僕がプジョー2台を予約した。
そして当日、4台を乗り換えながら、あることにあらためて気づいた。エンジンがすべて共通なのである。いずれもPSAとBMWグループが共同開発した1.6リッター直列4気筒直噴ターボで、試乗した4台については156psおよび24.5kgmという、最高出力と最大トルクまで共通だ。
ほかに用意されるのは、やはりPSAとBMWの共同開発による1.6リッター4気筒の自然吸気ユニットだけ。すなわち、現在日本で販売されているプジョーとシトロエンは、排気量はひとつしかないのである。
フォルクスワーゲンも、多くのモデルに1.4リッターユニットを積んでいるものの、「ゴルフGTI」には2リッターを搭載している。ダウンサイジングをうたっても、やはり排気量の魅力には勝てないのだろう。その点、プジョーとシトロエンは徹底している。
こういった共通化に、旧来のクルマ好きは不満を覚えるかもしれない。でも国内の軽自動車やハイブリッドカーでは、排気量の選択肢がないのが実情だ。そう考えると「オール1.6リッター」としたラインナップは、実際のところ日本ではあまり問題にならないのではないかと筆者は思っている。それよりも気になるのは、同じエンジンを積みながらブランドのカラーや車種ごとの個性がしっかり色分けされているかだ。
そこでまずは、「プジョー308SW」と「シトロエンC4ピカソ」を借り出した。
かたや「スポーティー」、こなた「ゆったり」
C4ピカソは2011年2月に、フロントバンパーやシート生地などに変更を受けている。一方の308SWはハッチバック、CCともども2011年6月にマイナーチェンジを受け、「508」に似た新世代のプジョー顔にチェンジした。
どちらも3列シートの7人乗りだが、308SWはワゴン、C4ピカソはミニバンである。本国にはC4ピカソと同クラスの「プジョー5008」というミニバンもあるが、2ブランドの差別化を考えると、日本では現状のラインナップが正解かもしれない。
まずは308SWに乗り込む。以前乗った初期型は、同じ1.6リッターターボでありながら140psで、ATは4段だった。それに比べると加速はかなりレスポンシブになり、余裕も加わった。これならライバルの「フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント」と対等に比較できる。
サスペンションは路面の状況を明瞭に伝えるが、そこはネコ足、鋭いショックはたくみにいなす。重めのステアリングを切ったときのノーズの動きは以前より軽快になり、車体は平行移動するようにコーナーを抜けていく。初期型と比べるとスポーティーになった。
だからこそC4ピカソに乗り換えたら、あまりの違いにびっくりした。同じエンジンでありながら、こちらはフワーン、フワーンと速度を上げていく。ボディーがやや重たいこともあるが、それよりもシングルクラッチの6段EGSの反応がおっとりしていることが大きい。シフトアップでの減速感は、パドルを使ってマニュアルシフトすれば解消できる。
乗り心地は、段差や継ぎ目はショックを伝えがちなのに、それ以外はゆったり揺れるという伝統的なシトロエンテイスト。ハンドリングも同様で、ステアリングはスイッチみたいに軽くクイックなのに、コーナーはしんなりと姿勢変化しながら粘り腰で抜けていく。
つまり2台の走りは、見た目以上に違っていた。では車格が違うとどうだろうか。ということで、「プジョー207GT」と「シトロエンC5」に乗り換えた。
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ブランドらしさを実感
207GTは、2007年3月に「207」が日本に上陸した際、150ps、5段MTというスペックでラインナップされていた。その後一度消滅したものの、2010年6月に現在の156ps、6段MTで復活した。C5は同年5月に2リッター自然吸気に代えてこのユニットを搭載し、2011年2月に内外装のリファインとプライスダウンを実施している。
207GTの走りは、やや懐かしい味がした。自然吸気並みにリニアでレスポンスに満ちたエンジン特性は現代的だが、それ相応に響くサウンド、308SW以上に路面との関係が密な乗り心地、ドライバーの意思どおりに動くハンドリングに、「205GTI」直系のスポーツモデルであることを実感したのだ。同じパワートレインを使う「シトロエンDS3」よりも野性味を感じたのは、やっぱりライオン印だからか?
ある意味でプジョーらしさをいちばん実感しやすいモデルかもしれない。そして現行シトロエンでもっともシトロエンらしい一台は、C5だろう。
今回試乗した「C5 セダクション」は、以前試乗記をお届けした「C5 エクスクルーシブ」と比べ、ハイドラクティブサスペンションのふんわり感に磨きが掛かっていた。ホイール、タイヤがインチダウンしたおかげもあるのだろう。いつ乗っても「別世界」という言葉を思い浮かべてしまう心地よさである。
車重は1620kgと、このエンジンを積む車種としては重量級になるけれど、1500rpmあたりから過給を開始する全域ターボと呼べる特性のおかげで、加速に不満はない。6段ATは308SWよりトルコンの使い方が穏やか。こうした部分にもブランドごとの作り分けが施されているようだ。
試乗を終えて、プジョーとシトロエンは単なる着せ替えではないことを、再認識させられた。プラットフォームやエンジンは共通なのに、サスペンションやトランスミッションのチューニングを変えて、まったく別物に仕立てている。PSAというレストランに、2人の名物シェフがいて、同じ素材を使っても全然違う料理を作ってしまう。そんな感じなのである。
(文=森口将之/写真=峰昌宏)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車は「シトロエンGS」と「ルノー・アヴァンタイム」。