MINIクーパー ペースマン ALL4(4WD/6AT)
無駄を楽しめる人へ 2014.05.20 試乗記 「MINI ペースマン」に4WDの新グレードが登場。“ちょっと非力”だからこそ味わえるMINIならではの走りとともに、あらためてペースマンの魅力に触れた。ニッチな願いをかなえるクルマ
「クロスオーバー」があるんだから「ペースマン」は要らないだろう?
ペースマンが登場したとき一瞬そう思ったが、「待てよ、ペースマンってありだよな……」と考え直す自分がいた。いまは家族がいて、なかなかクーペに手を出せないが、20代独身の頃はクーペしか頭になかった。どうして、ふだん1~2人しか乗らないのに後ろのドアが必要なんだ。そのために、せっかくのスポーティーなフォルムを諦める必要がどこにあるのかと。
MINIのクロスオーバー風はほしいけど、4ドアは絶対イヤだ。かといって、MINIでもクーペでもない……。そんなわがままをいうヤツは少数派かもしれないが、このペースマンの登場により好きなクルマに乗れると喜んでいる人がいるに違いない。こだわる人の願いをかなえるクルマ……それが、ペースマンであり、MINIなのだ。
そんなペースマンが日本で発売されたのは2013年3月2日のこと。その時点では自然吸気(NA)の1.6リッターエンジンを積む「クーパー ペースマン」と、1.6リッターターボの「クーパーS ペースマン」、そしてその4WD仕様である「クーパーS ペースマン ALL4」という顔ぶれだった。そして、遅れて登場したのが、クーパー ペースマンの4WD仕様である「クーパー ペースマン ALL4」。今回はこのAT版を試乗した。
MINIのウェブサイトを見ると、FFのクーパー ペースマンとクーパー ペースマン ALL4のAT版の車両重量はそれぞれ1360kgと1440kg。4WD化により80kg重くなった計算だ。これをカバーするためか、AT仕様ではエンジンがターボ付きに変更されていて、FFが最高出力122ps/6000rpm、最大トルク16.3kgm/4250rpmであるのに対し、4WDは122ps/4600rpm、19.4kgm/1350-4600rpmと、低回転からトルクが厚みを増しているのがわかる。果たして、クーパー ペースマン ALL4の走りは?
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パワフルとはいえないが……
ところで、デザインの好みをいうと、私はクーパーS系よりこのクーパー系の方がいい。ラジエーターグリルやフロントバンパー内のエアインテークがすっきりしているからだ。ついでにヘッドライトもMINIのように丸かったらよかったのに……。一方、ペースマンのサイドビューはベーシックなMINIよりも断然カッコいいと思う。これぞ、クーペの真骨頂だ。
MINIのコックピットもまた楽しい。全体の質感はさほど高いとはいえないものの、乗員をワクワクさせてくれるのはこのクルマならでは。特に、センターコンソールや天井に設置された「トグルスイッチ」には男心がくすぐられてしまう。一方、センターメーターの速度計は相変わらず見にくく、ステアリングコラム上のタコメーター内のデジタル表示のほうが確認しやすい。その点、新型MINIではこの問題が解決されているから、開発陣も気にはしていたんだろうな。
専用チューンの1.6リッターエンジンを始動し、さっそく走りだす。さすがにクーパーSのような威勢の良さはなく、どちらかというと出足はもっさりとした印象だ。エンジンの性能とFFよりも増えた車両重量、そして、4WDであることを考えれば予想どおり……というところだ。
とはいえ、走りだしてしまうと必要十分な加速は得られるし、必要とあればマニュアルシフトを使って高い回転を維持し、それなりに活発に走らせることもできる。ストレスなくドライブできるうえに、ペースマンの4WDを手頃な価格で手に入れられるという意味では、このクーパーは魅力的な選択肢だと思う。
しかも、このクーパー ペースマン ALL4でも、ゴーカートフィーリングは健在だ。
MINIらしさはハンドリングにあり
クーパー ペースマン ALL4は、アンダーパワーゆえにゴーカートフィーリングが際立っているともいえる。それは、街中のいつもの交差点を曲がるだけでもわかる。全高も車高も標準のMINIより高いぶん、ロールは少し大きくなるが、ステアリングを切るやスッと向きを変える俊敏さは、やはりMINI。もちろん、さらにスピードの高いワインディングロード、しかも下りなら、痛快なことこの上ない。
引き換えに、高速走行時の直進安定性はFFベースの4WDらしいとはいえず、「ステアリングホイールに軽く手を添えているだけで矢のように直進する」……とはいかないのだが、このあたりはご愛嬌(あいきょう)。フラット感はまずまず。乗り心地は、装着されていた大径(225/45R18)のランフラットタイヤが路面によってはドタバタする印象があったが、十分許容できるレベルである。
独立した後席は、標準のMINIに比べると余裕があり、サポートに優れたシート形状により座り心地も良好。とはいえ、大人が長時間座って移動するには窮屈といわざるをえず、過大な期待はしないほうがいい。ラゲッジスペースも、高さはあるが奥行きは不足気味で、リアシートの倒れ方もいまひとつすっきりとしていない。パッケージングをもう少し煮詰めてもよかったのではないか?
しかし、スペース効率ばかりを追求したつまらないクルマよりも、無駄が散見されてもエキサイティングなクルマだったら、後者のほうが楽しいに決まっている。そもそも、クーペなんて無駄の塊みたいなものだし、そこに価値を見いだせる人にこそ、クーペを所有する資格があるのだから。
(文=生方 聡/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
MINIクーパー ペースマン ALL4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4120×1785×1520mm
ホイールベース:2595mm
車重:1440kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:122ps(90kW)/4600rpm
最大トルク:19.4kgm(190Nm)/1350-4600rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91V/(後)225/45R18 91V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ<ランフラット>)
燃費:12.7km/リッター(JC08モード)
価格:348万円/テスト車=483万2270円
オプション装備:ランフラットタイヤ(1万8000円)/アロイホイール・5スターダブルスポーク・コンポジットブラック(7.5J×18ホイール+225/45R18タイヤ)(23万5000円)/スポーツレザーステアリング(4万3000円)/コンフォートアクセスシステム(8万6000円)/ホワイトボンネットストライプ(1万7000円)/ビジビリティーパッケージ<レインセンサー+自動ドライビングライト+ヒーテッドウィンドスクリーン>(5万円)/ブラックリフレクターヘッドライト(2万5000円)/電動ガラスサンルーフ(18万円)/自動防眩ルームエクステリアミラー(4万円)/アームレスト(2万5000円)/インテリアサーフェス<ピアノブラック>(4万円)/スポーツボタン(3万円)/バイキセノンヘッドライト(10万円)/MINIビジュアルブースト(12万円)/レザーグラビティーシート<シートヒーター付き>(27万円)/メタリックペイント(5万5000円)/MINI ETC車載器パッケージ(1万8270円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:5137km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:319.1km
使用燃料:28.8リッター
参考燃費:11.1km/リッター(満タン法)/11.8km/リッター(車載燃費計計測値)
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生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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