第350回:空気を読めよ!? ミラノとボローニャでモーターショー(ほぼ)同時開催
2014.06.06 マッキナ あらモーダ!ミラノショー誕生に続き、ボローニャ復活!
2014年冬イタリアでは、ほぼ同時期にミラノとボローニャでモーターショーが、別々の主催者によって開催されるという、前代未聞の展開になりそうだ。
筆者が本欄でお伝えしたように、2013年10月、イタリア唯一の国際自動車ショーだった「ボローニャモーターショー」は、出展者の数が見込めないことを理由に中止を発表した。それは開催2カ月前のことだった。
ところがその発表から1カ月後の11月、「2014年冬にミラノで自動車ショーを開催。12月13日から21日まで一般公開」との発表が行われた。場所は、毎年春に家具ショー「サローネ・ディ・モービレ」が開催されることで知られる郊外・ローの見本市会場である。
ショーの名前は「ミラノオートショー」。計画の旗振り役は、アルフレード・カッツォラ氏(64歳)だ。何を隠そう、彼は元ボローニャショーのオーガナイザーである。1980年代初頭に出身地ボローニャでイベント会社を設立。すでに1976年からスタートしていたボローニャショーの開催権を継承した彼は、自社をフランスのGLイベンツ社に売却する2007年まで同ショーを仕切ってきた。
カッツォラ氏によると、ミラノオートショーでは、ボローニャショーで長年人気を集めた仮設サーキットを設営するという。またリリースでは、「ミラノは国際的な知名度だけでなく、美と流行を占うアイコン的存在。そして都市交通を考える場所という観点からも相応しい」と力説した。
話にはさらなる続きがあった。2014年1月、今度はボローニャを主催してきたGLイベンツ社もショー復活を正式に宣言したのである。一般公開日は12月6日から14日だ。毎年12月8日の祝日を会期に含めるという、従来のボローニャショー会期にしたがった形である。
「リジェネレーション」というサブネームを付与すると同時に、ボローニャはイタリア自動車産業にとって欠かせない歴史的エリアで、イタリア半島の南北からアクセスしやすいこと、イタリアで唯一OICA(国際自動車工業連合会)公認のショーであることをあらためてうたっている。
対立している場合か?
この事態、イタリア自動車メディアの反応はどうかというと、実は今ひとつだ。一般媒体に至っては、地元を除いてほとんど騒いでいない。一般のクルマ好きにボクが質問しても、「ボローニャが復活するのは、いいニュースだ」と口々に言うものの、実際ミラノ、ボローニャのどちらかに行くと積極的に答える人はみられなかった。
5カ月連続プラスをみせて回復基調か? と思われたイタリア国内自動車登録数だが、2014年5月にはふたたびマイナス3.8%に転落するなど、経済の回復はまだまだ。とても2都市で自動車ショー同時開催という浮かれムードにはなれない、というのが正直なところだろう。
近年のボローニャショーの惨状が、トラウマとなっていることもあろう。フェラーリやランボルギーニは、同じエミリア-ロマーニャ州を本拠としているにもかかわらず、輸出が主体であることもあり、ボローニャに見切りをつけた。最後に開催された2012年の出展社数はわずか6社だった。
実は筆者の記憶には、もうひとつのモーターショー開催模索都市がある。ちょうど4年前、トリノのある自動車関連企業のパーティーを取材したときである。中央政界や地元財界から数々の来賓もあった。そのなかのひとりがスピーチで「(2000年を最後に途絶えた)トリノショーの復活を!」と唱えると、会場内から拍手が上がった。その後トリノショー復活をさぐる動きは聞こえてこないが、10年も途絶えたモーターショーの復活話が出るとは、驚いた。
自動車メーカーがショー参加予算を新興国に多く分配するようになり、もはや欧州の主要ショーはジュネーブやパリでさえ来場者や出展者の伸びが期待できない今日、従来のモーターショーの延長をやっている場合ではなかろう、もっと空気を読めよ、というのがボクの率直な心情である。
加えて、ミラノ、ボローニャどちらのショーも、具体的な出展者名を現段階でひとつも明らかにしていないという、笑えない現実もある。
新しいカタチのモーターショーに期待
イタリアでは、何かというと類似した企画が都市ごとに立ち上がる。実はこれ、ファッション見本市でも同じで、フランスではパリ、イギリスではロンドンと決まっているのと対照的に、イタリアではミラノ、フィレンツェ双方で開催されている。
この、よく言えば独立性の高い、悪く言えば結束力のなさは、どこから来るものか? それはイタリア史をみればわかる。
11世紀以降に起源をさかのぼるイタリア各地の自治都市は、1861年に諸外国の侵略に対抗するため統一イタリア王国が誕生するまで600年以上も続いた。いまだ北部の一部地域では、大幅な自治権を求める運動があるのだから、そう簡単に人々のメンタリティーを変えることはではできないだろう。
そうした土地柄である。ミラノの歴史を知る古い人のなかには、第2次世界大戦前の1920-37年に開催された旧ミラノ自動車ショーの再来をイメージする人もいるに違いない。
と、辛口なことを書き連ねたが、ボクなりにはほのかな希望も感じている。ミラノオートショーを企画するカッツォラ氏は、会場だけでなく、ミラノ市街の広場などでも各自動車ブランドの展示やクルマ関連イベントを展開することを示唆している。
家具見本市の期間中、街中の商店で同時開催される「フォーリサローネ」は、家具以外のプロダクトデザインが扱えることもあって、見本市と同等、もしくはそれ以上の盛り上がりをみせている。オートショーでも、市街地コラボレーションが成功すれば、他と違った特色あるモーターショーになるかもしれない。
それで思い出すのは、数年前そのフォーリサローネで街頭取材中のボクを呼び止めた、ひとりの若者だ。聞けば、自動車デザインを専攻する学生だった。家具の祭典にもかかわらず、自分の作品が公になるチャンスを求め、作品集を携えて来ていたのだった。
先日Google(グーグル)が公開した、6年後の2020年に実用化をめざすという自動運転車は、ステアリングもなければペダルもない。エクステリアも従来のクルマのカッコよさ基準とは違う、パソコンのマウスを思わせるデザインだ。クルマに新しいベクトルが求められている今、違ったかたちのモーターショーが新しい才能の発掘に役立てばと願うのである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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