トヨタ・ヴィッツRS“G's・スマートパッケージ”(FF/5MT)
名馬に癖あり? 2014.07.01 試乗記 マイナーチェンジされた「トヨタ・ヴィッツ」の中で、ひときわ異彩を放つスポーティーモデル「ヴィッツRS“G's”」。こだわりの専用パーツやチューニングで磨いたという、走りの質をリポートする。正体不明のスポーツモデル
「取材前日にピックアップをしてください」という指示で、すでに薄暗くなった編集部の駐車場を訪れた際、初めて目にしたこのモデル。その姿を前に、それが一体“何”なのか、一瞬で判断することはできなかった。
リアに回れば、(そのエンブレムから)かろうじてヴィッツであることは確認できる。が、ベース車両に対して大幅なイメージチェンジを企てたフロントマスクからは、そんな出自を知ることは、もはやほとんど不可能だ。
ノーズ先端からは、本来そこに与えられるはずのブランドマーク(ヴィッツの場合、扱いチャンネルであるネッツ店を示す「N」の文字をデフォルメしたもの)まで外されている。そこまでして、自らの血統を封印したいのだろうか!?
そもそも、「G's」というサブブランド(?)が意味するところも、今ひとつ分かりにくい。それは“G SPORTS”の略号であり、どうやら「トヨタのスポーツ系チューニングモデルに与えられるネーミング」らしいことは理解されよう。しかし、そうなると今度は、「TRD」や「モデリスタ」など今まで耳にしたことのあるブランドの狙いとの違いが、分かりにくくなってしまうのだ。
ゆえにこのモデルは、自身の立ち位置を秘匿しないとやりにくいということなのか……初めて実車を前にして、そうした考えばかりが思い浮かぶのだった。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
チープな感じはどこへやら
現行型ヴィッツについては、2010年末のデビュー時期から逆算すれば、リーマンショック直後の厳しい頃が“仕込み”の真っ最中であったであろうことが、容易に想像できる。しかし、確かにそうした事情はあったにしても、インテリア各部の質感などには先代モデル以上のチープさが目立ち、走りの仕上がりにも特に見るべき部分はなかったというのが、デビュー当初のヴィッツに対する印象だった。
ところが、そんなあまり芳しくはない記憶を胸にドライバーズシートに乗り込んでの第一印象は、「あれ? ヴィッツってこんなによくできていたっけ……?」というものだった。
G'sという“特別なモデル”ゆえ、スエード調素材が用いられたフロントシートや革巻きステアリングホイール、専用加飾が与えられたダッシュボードやドアアームレスト部など、多くの専用アイテムがおごられているということもあるだろう。
しかし、そうした上乗せポイントを差し引いたところで、インテリア全般の質感が明らかに向上していることは、後日“ノーマルの最新型ヴィッツ”に触れる機会があった際にも再度認識できた。
ここまでやれるのならば、どうして最初からそうしてくれなかったのか……。今となってはそんな思いは湧くものの、もはやその見た目・質感で特にケチを付けたくなる部分は姿を消したというのが、最新ヴィッツである。
ただひとつ、これもG'sの専用アイテムとして用意される、6200rpmからレッドラインとなるタコメーターを中央に据えたシルバーベースの3連メーターが、夜間、目盛りに赤い照明が入るため少々読み取りづらいのは難点だが。
リファインすべき点もある
ブレーキペダルを踏みながらスターターボタンを押しているのに、エンジンが掛からない……のは、実は今回テストしたモデルがMT仕様だから。
そのシフトフィールは「抜群」とまではいかないし、現状の5段を6段仕様へと格上げしてほしい気持ちになるのだが、それでもこうしてMTが選べるだけ幸せと言わなくてはいけないのが、今の日本なのかもしれない。
ただ惜しいのは、クラッチのミートポイントが今ひとつつかみづらかったことで、時に狙いよりも高い回転数でつながったり、逆に低い回転数にとどまってストール気味となったり。しばらく乗るうちに、どうやらそれは、アクセル操作に対するピックアップが鈍いため、結果として「回転が遅れて高くなり過ぎる傾向がある」という、コントロール性の甘さによるものと気が付いた。また、回転落ちが鈍いのも、スポーティーモデルの心臓としてはちょっと残念な性質だ。
今回、シリーズ中の1リッターと1.3リッターエンジンには大幅なリファインが施されたものの、このモデルが搭載する1.5リッターエンジンは、ほぼ手付かずの状態。結果、昨今のユニットとしては今ひとつ“下のトルク”が厚みに欠ける感覚だし、この期に及んでアイドリングストップ機構が与えられないことにも、少々失望させられた。
残念といえば、上り坂での発進時にずり下がりを防止するデバイスが与えられなかった点もそうだ。「そんなもの、ドライビングの楽しさには関係ないだろう」と言うなかれ。本来ならば“マイナス”(後ずさり)となってしまう、発進時の初速を完全にゼロの状態にとどめることのできるこうしたアイテムは、坂道でより力強いスタートを演じるためには、思いのほか有効なものであるからだ。
驚きのフットワーク
そんなこんなで率直なところ、動力性能に関しては「大きな不満はないけれど、極上とは言い難い」という印象にとどまったものの、期待と予想を上回る仕上がりを実感させてくれたのが、そのフットワークだった。
最高出力が109psと、決してパワフルではない点に加え、ヘリカルLSDがオプション装着されていたことも手伝ってか、まず、トラクション能力に十分なゆとりが感じられるのが美点。加えて、コーナリング時は多少のロールを許すものの、路面や走行シーンを問わず“4輪が地についている”感覚がなかなか秀逸で、基本は硬めでありながらも不快さを巧みに封じこめ、時にしなやかさすらアピールする脚の仕上がりで「これがあのヴィッツのものなのか!?」という驚きすら与えてくれた。
ちなみに、このようにこれまでのヴィッツからすれば見違えるような変化が得られた背景には、ボディーのスポット溶接の増し打ちや床下補強材の大型化といった、今回のマイナーチェンジでシリーズ全車が採用した内容に加え、サスペンションアームやメンバーブレースの高剛性化、ロッカーフランジのスポット打点追加といった、このモデル専用のリファインの効果があるはずだ。
操舵(そうだ)に対しやや応答遅れが認められるシーンもあったものの、路面とのコンタクト感をそれなりに伝えてくれるステアリングフィールも悪くない。
ただし、撮影のためUターンを繰り返した際に、明確になったのが小回り性の悪さ。カタログで確認してみれば、最小回転半径は5.6mと、何と「クラウンマジェスタ」(5.3m)よりもはるかに大きい。確かに、他のグレードよりもローダウンされたサスペンションと幅広のタイヤが採用されるものの、コンパクトカーとしては、これはちょっとつらい。
このモデルに付けられたプライスタグは、214万7237円。これはなかなかリーズナブル……と思いきや、約25万円のナビゲーションシステム(ディーラーオプション)を含めた試乗車の総額は、260万円超だった。
果たして、そうした価格をどのように受け取るか? こればかりは、人によって意見が分かれそう。その点でも、このG'sは、シリーズ中最も“問題提起型”のヴィッツといえそうだ。
(文=河村康彦/写真=郡大二郎)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
トヨタ・ヴィッツRS“G's・スマートパッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3980×1695×1490mm
ホイールベース:2510mm
車重:1060kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:109ps(80kW)/6000rpm
最大トルク:14.1kgm(138Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)205/45R17 84W/(後)205/45R17 84W(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:--
価格:214万7237円/テスト車=266万865円(販売店装着オプション含む)
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万2400円)/G's専用アルミホイール<ダークスパッタリング>(6万4800円)/ナビレディセット<6スピーカー&バックカメラ+ステアリングスイッチ>(3万7800円)/ブレーキパッド<G's専用スポーツ>(1万9440円)/ヘリカルLSD(3万2400円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>&SRSカーテンシールドエアバッグ<前後席>(4万3200円)/※以下、販売店装着オプション エクセレントナビ<G-BOOK mX Proモデル>(24万5700円)/ETC車載器ビルトインタイプ<ボイスナビ連動タイプ>(1万7388円)/G's専用フロアマット(2万520円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:650km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:298.2km
使用燃料:23.5リッター
参考燃費:12.7km/リッター(満タン法)/11.8km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。 -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気
2026.1.15エディターから一言日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。 -
ルノー・グランカングー クルール
2026.1.15画像・写真3列7座の新型マルチパーパスビークル「ルノー・グランカングー クルール」が、2026年2月5日に発売される。それに先駆けて公開された実車の外装・内装を、豊富な写真で紹介する。 -
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。


































