第354回:イタリア式・超ローカル「モーターショー」をナメるなよ!
2014.07.04 マッキナ あらモーダ!田舎のモーターショー
「今週末にモーターショーをやるから、見に来なよ」
近所のディーラーの屋外展示場を冷やかしていたら、知り合いのセールスマン、アンドレアが、こうボクに声をかけた。彼の言う「モーターショー」とは、地元の自動車ディーラーが合同で行う展示会のことである。
5年前、市民体育館裏の駐車場でやっていたところを、偶然通りかかって寄ったことがあった。ボクが子供の頃住んでいた東京郊外の町で行われていた「産業展」における、地元自動車販売店の展示のようなものであった。ところがアンドレアによると今回の会場は、郊外だという。そこで週末、仕事の合間の気分転換に”田舎のモーターショー”を見学すべくクルマを走らせた。
向かったのは南郊の工場地帯である。正確には「工場地帯だった」と言ったほうがよいかもしれない。かつては活気があったが、すでにナンニーニの菓子工場(元F1ドライバー A.ナンニーニの家業)をはじめ多くの地元企業が撤退して、今日ではいまひとつ寂しい一帯である。唯一にぎわうのは、ミッレミリアのルート脇にあることから、タイム調整ポイントとして出場車が集うときくらいだ。
それにしても今日は晴天。みんな海に行ってしまうであろう夏の週末に、そんなイベントをやって大丈夫か?
ダートコースから古本まで
しかし会場に着いてみると、ボクの心配はどこ吹く風。日曜午前だというのに路上駐車しようと思っても、周辺の路肩は来場客のクルマでもういっぱいである。会場を見渡すと、以前の体育館裏の駐車場と違い、ダートのコースまで設営してあり、四輪駆動車やトライアルバイクが交互にデモ走行している。話題づくりのひとつとして、ヘリコプターまである。
地元の自動車教習所は、滑りやすい路面を再現した出張ドライビングスクールを催していた。順番を待っていた若い女性に「海に行かないのか?」と聞けば、「それよりクルマが好きだもん」という答えが返ってきた。
この自動車&バイクの祭りは「フェスタ・デル・モトーレ」という。あいにく前述のアンドレアは不在だったが、彼の同僚によると、今年からこの場所に移ったとのことだ。
傍らでは、「アバルト」や「ランチア・デルタ インテグラーレ」の愛好会メンバーたちが、今まさにミニツーリングに出発しようとしている。
狭い市内の会場ではできなかったさまざまなアトラクションが、盛り上げに貢献しているようだ。
元倉庫と思われる廃屋に「Agip(アジップ)」の古いホーロー看板が立てかけてあるので中をのぞくと、薄暗い中に本が置かれた机とスロットレーシング台があった。そこにいた店のあるじは、なんと知り合いの古本&骨董(こっとう)品店のファブリツィオだった。
日頃彼の店のメイン商品は旧市街という立地上、古い版画やアンティークトイである。
「なんだよ、クルマ関連書籍も守備範囲だったのかよ。早く言えよ」とボクが言うと、ファブリツィオは「古いモノはなんでも好きだから」とひょうひょうと答えた。
そこに、ひと組の家族連れがやってきた。脇で見ていると、父親は「これはお父さんが昔乗ってたバイクだぞ」と子供にバイクの本の写真を指しながら自慢げに話している。横入りして話を聞けば、父親の名前はアルベルト。彼が乗っていたのは、50ccのトライアルバイク「カバレッロ」だった。イタリア北部のファンティックモーターが1960年代末から製造していた看板モデルだ。参考までにファンティックは、1997年に事業を畳んでいる。
やがてアルベルトは家族とともに、「俺のクルマ、見に来いよ」とボクを屋外に引っぱって行く。そうして連れて行かれた先にあったのは、「BMW3 シリーズ」の改造車だった。
修理工場を営む彼によると、数年前までは仕事・趣味ともにチューニングに精をだしていたものの、保安基準が年々厳しくなってしまった。そこで、最近はドリフト走行実演に情熱を傾けているのだという。
そう説明するやいなや家族の前でクルマに乗り込み、会場中央に設営された仮設トラックで、タイヤの煙を上げながらくるくる回り始めた。
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ホンダ製ミニ耕うん機に思う
食べ物屋台で、おやつにパターテフリッテ(フライドポテト)をチビチビつまみながら向かいを眺めれば、トラクターが何台も往来している。古いトラクターの愛好会だった。
「ディーゼルエンジン自体が予熱(グロー)装置をもたず、ユーザー自らバーナーの火を当てていた時代のもの」が収集対象なのだそうだ。やがて彼らは、驚いたことに実際に空き地の土を掘り起こし始めた。これも郊外だからできることである。
おっと、そろそろ昼だ。出展者の大半が、ランチのためにいったん家に引き上げ始めた。ボクも帰るべくクルマに戻ろうとしたとき、車両展示の脇で、ミニ農機を売るおじさんを見つけた。アメリカやイタリアのブランドに交じってホンダもあるので、「ホンダの評判、どうですか」と声をかけてみた。するとジョヴァンニという彼は、「そりゃあいいよ。構造が明快で値段も手頃。何よりお客さんが感激するのは、たとえ何年放っておいても一発で始動することさ」と教えてくれた。
偶然にも脇には、来場者が乗ってきたと思われる古い「トヨタ・セリカ」が、走り去るフェラーリに対峙(たいじ)するかのように誇らしくパークしていた。
イタリアにおける日本車に対する高い信頼には、ホンダのミニ耕うん機も一役買っているに違いないと確信したのだった。
かくも、冷やかしのつもりで訪れた“田舎モーターショー”だったが、そこに集う人々のクルマに対する熱き思いは、世界5大モーターショーに勝るとも劣らないのであった。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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