第357回:博物館よりディープなイタリアのリサイクルショップ
2014.07.25 マッキナ あらモーダ!人気のリサイクル店
今年イタリアの7月は雨や曇りの日が多く、海だキャンプだというマインドには、ほど遠い。そんなとき、ついのぞいてみるのがリサイクルショップだ。
「IL MERCATIONO(イル・メルカティーノ)」は、イタリア版リサイクルショップのチェーン店である。同社のサイトによると、フランチャイズの本部は北部のヴェローナにある。
委託販売というべき形式で、アイテムによって販売価格の50%から75%が売り主に翌月還元される仕組みだ。100ユーロ未満は現金、それ以上は小切手で支払われる。コンピューター管理による明朗な価格や取引がウケて、1995年の創立以来今日まで200店舗を展開するまでに成長した。
ボクが住むシエナの店は、ジャンニさんというおじさんが切り盛りしていて、以前著書を書くときに取材させてもらって以来親しくなった。参考までに彼は、売り上げの2%を本部にロイヤルティーとして毎月払っているらしい。
ジャンニさんの店は1970年代に建てられたと思われるマンションの1階部分にあって、主店舗と家具専門の離れで構成されている。商品を引き取るか引き取らないかは、ジャンニさん夫妻以下、スタッフが即座に判定してくれる。
現代イタリア社会が見えてくる品々
衣類は、たとえベネトンのような普及銘柄でも、ブランド物なら引き取りオッケーな確率が高い。また、古いワインが充実しているところは、キャンティ・クラシコを郊外に控えるこの一帯ならではである。
炭で熱して使っていたアイロンや、その昔鍛冶屋さんが作った鍵といったものも、家庭内の装飾品として人気があるので、買い取りウエルカム商品のようだ。
いっぽう、パソコンおよび関連用品は、意外に引き取らない場合が多い。ジャンニさんいわく「より高性能で、安価な新製品が次々と出てくるため、少し前のものには値段がつけられない」のだそうだ。
新品同様の洋食器セットが多いのは、(もちろんすべてがそうとはいえないが)この国での離婚・別居が、10年前と比べて2倍に増えているのと少なからず関係があるだろう。
今年前半は、いわゆる「お掃除ロボット」が数々出品されていた。これは、「おじいちゃん・おばあちゃんが子供や孫からクリスマスプレゼントにもらったが、使い方が今いちわからないため売りに出した」というストーリーが容易に想像できる。
品々を眺めていると、イタリア現代社会が見えてくるのである。
レトロなペダルカーまで
自動車ファンにうれしいアイテムも時折並べられる。
タイヤチェーンは、全サイズがそろっているわけではないが、自分のクルマと合えばラッキーだ。三角表示板が入った愛車セットの類いも、出品されていることが少なくない。メーカーとしては、この国のシェアを反映してフィアット、ルノー、オペルといったところが多い。
かつてジウジアーロやピニンファリーナがデザインした家庭用電話、というのも定番商品として、ジューサーミキサーや自動製パン機の脇に転がっている。
いっぽう先日店先で見つけたのは、年代不詳の赤いペダルカーである。ちゃんとボローニャナンバーが付いている。ステアリングは「シトロエンDS」を思わせる1本スポークだ。「ジョルダーニ」という、ボローニャに1875年から1984年まで存在したおもちゃメーカー製である。
ジャンニさんは「もう少しコンディションが良いものも、ときどき入るんだけどね」と頭をかく。しかしトリノやイモラなど、ヒストリックカーイベントで珍重され、時には回顧展まで行われるジョルダーニのペダルカーが、さりげなく売られているところが面白い。
運命を決めた身長計
いわゆるミリタリー系も多数入荷する。
ヘルメットから手回し発電機の付いた野戦用電話まで、毎回訪れるたび何かしら入荷している。ボクはこれまでミリタリーファンらしきいでたちのお客と遭遇したことはない。にもかかわらず、しばらくすると消えている、つまり売れているから驚きだ。
ジャンニさんの奥さんが「これ、新入荷よ」と教えてくれた。何かと思って見れば「身長計」であった。土台は鋳鉄で、かなり頑丈である。よく見ると、第2次世界大戦まで旧イタリア王国のシンボルであったサヴォイア家の紋章が入っている。奥さんによると徴兵検査用だという。たしかにそれを示す「MISURA PER LEVA MILITARE」の刻印がある。
ボクは、奥さんに勧められるままその身長計に乗ってみる。わが女房が真ちゅうの可動部分を下げると、どっしりと頭にその重さが伝わってきた。それは、かつてイタリア人男性の将来を決め、多くは生死さえ分けた運命の重みだった。もちろん展示体系も解説板もない。しかしイタリアのリサイクルショップは、ヘタな博物館より深いのである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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