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BMW M4クーペ(FR/7AT)

享楽のM 2014.09.16 試乗記 今尾 直樹 「M」の血統を受け継ぐBMWの高性能モデル「BMW M4クーペ」。単に「速い」というだけにとどまらない、豊かな魅力に触れた。

モード切り替えでいかようにも

M4を走らせることは、快適にしてぜいたくな喜びであった。もっと乗っていたい、と思った。なにしろ楽チンで気持ちイイ。ある種の酩酊(めいてい)状態。ドライバーをほどよく酔わせてくれる。

金色の広報車は、右ハンドルの7段デュアルクラッチの2ペダルで、誠に運転しやすい。431psという大パワーも恐るるに足らず。変速が実にスムーズで、まるでトルクコンバーター型オートマチックのようだ。

アダプティブMサスペンションを備えた足まわりは、しなやかなストローク感がある。タイヤ銘柄は、ミシュランのパイロットスーパースポーツで、オプションの19インチを履いている。前255/35、後ろ275/35という太くてペッタンコのZR規格ではあるけれど、Mの先例にならい、ランフラットではないことも効いているのだろう。オプションのカーボンセラミック・ブレーキ(110万円なり)がバネ下を軽くしていることもあるに違いない。可変ダンパーはもちろん、コンフォートモードを選んでいる。

軽く右足に力を入れると、3リッターの直列6気筒ツインターボは、なにより低くて乾いた排気音でもってドライバーを有頂天にする。一本調子のきらいはあるけれど、原始のエナジーがみなぎっている。

早朝の大都会のど真ん中の一般道を駆け抜け、首都高速に上がって、アダプティブMサスペンションのモード切り替えを試みる。シフトレバーの左側のシルバーで囲まれた3つのボタンで、エンジン、ダンパー、ステアリング特性を、それぞれコンフォート、スポーツ、スポーツプラスに切り替えることができる。ギアボックスのプログラムの切り替えはシフトレバーの後方に設けられたスイッチが担う。
ダンパーをコンフォートからスポーツにすると、車体がスーッと低く沈み込むような感じがする(金属バネなので、実際に車高が低くなるわけではない)。戦闘開始である。といって、夏休みのまっただ中で首都高速は混んでいる。どうしようもない。ステアリング特性をスポーツにすると、重くなる。軽い方が個人的には好みである。ステアリングはコンフォートにしてみる。そういうセッティングができるわけである。

Mシリーズの最新モデルである「M4クーペ」は、「M3セダン」ともども2014年1月のデトロイトショーで世界初公開。日本では2月に受注が開始された。
Mシリーズの最新モデルである「M4クーペ」は、「M3セダン」ともども2014年1月のデトロイトショーで世界初公開。日本では2月に受注が開始された。
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「M4クーペ」のインパネまわり。テスト車にはオプションで用意されるカーボンファイバートリムが装着されていた。
「M4クーペ」のインパネまわり。テスト車にはオプションで用意されるカーボンファイバートリムが装着されていた。
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前席にはサイドサポートの張り出した「Mスポーツ・シート」を標準で採用。運転席にはシートポジションのメモリー機能が備わっている。
前席にはサイドサポートの張り出した「Mスポーツ・シート」を標準で採用。運転席にはシートポジションのメモリー機能が備わっている。
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タイヤサイズは前:255/40ZR18、後ろ:275/40ZR18が標準だが、テスト車にはオプションの19インチのものが装着されていた。
タイヤサイズは前:255/40ZR18、後ろ:275/40ZR18が標準だが、テスト車にはオプションの19インチのものが装着されていた。	拡大
「M4クーペ」のセンターコンソール。シフトの横に備わるのが走行モードの切り替えスイッチだ。ここで、ドライバーが設定した走行モードを記憶し、ワンタッチで呼び出せるステアリングスイッチも備わる。
「M4クーペ」のセンターコンソール。シフトの横に備わるのが走行モードの切り替えスイッチだ。ここで、ドライバーが設定した走行モードを記憶し、ワンタッチで呼び出せるステアリングスイッチも備わる。
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キーワードは「厚み」

乗り心地はあらゆる速度域で厚みを感じさせる。ぶ厚く切ったステーキ肉のような厚み。虎屋のようかんを厚く切るのもぜいたくだが、牛肉にはようかん以上に復元力がある。速度が増すと、適度にサシが入ってくる。かむと、口中でとろける。そういう感じ。それほど当たりは柔らかい。M4におけるぜいたくとは、厚みであると見つけたり。

M謹製3リッター直6ツインターボは、最高出力431psを、過給エンジンとしては異例の7300rpmという高回転で生み出す。とはいえ、7300rpmまで一般道で回しきるチャンスはほとんどない。夏休みまっただ中で、首都高が混んでいると前述したけれど、高速道路まで混んでいる。ということもあって、ドライバーが味わうのは1850-5500rpmで供給される56.1kgmのトルクである。100km/h巡航は7速トップで1750rpm程度である。ここから右足を踏み込んでみたところで、過給ラグは見いだせない。ふたつの小型タービンが即座に反応して、最大値ではないにしても、厚みのあるトルクを瞬時に紡ぎ出すからだ。

山道ではひたすら安定感があった。可変ダンパーはボディーを、人工的になりすぎない範囲でフラットに保ち、タイヤはぬれた路面をしっかとつかみ続ける。M4は「M3」ともどもCFRP、いわゆるカーボン製ルーフを採用している。これが上屋を軽くして、相対的に重心を低めている。理論的にはそうなる。感覚的には、のりで地面にベッタリ貼ったみたいである。さらにM4のみ、トランクリッドの構造材にカーボンを用い、外板を樹脂製にして軽量化を図っている。車検証による前後荷重は、850:790kgである。およそ52:48と、若干フロント・ヘビーであることもまた、厚みのある安定感につながっているのかもしれない。

「M4クーペ」は、0-100km/h加速が7段AT車で4.1秒、6段MT車で4.3秒という動力性能を実現。最高速はリミッターによって250km/hに制限されている。(数値はいずれもヨーロッパ仕様のもの)
「M4クーペ」は、0-100km/h加速が7段AT車で4.1秒、6段MT車で4.3秒という動力性能を実現。最高速はリミッターによって250km/hに制限されている。(数値はいずれもヨーロッパ仕様のもの)
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「M4クーペ」の3リッター直6ツインターボエンジン。従来モデルの「M3クーペ」より排気量は1リッターほど小さいものの、最高出力は11ps、最大トルクは15.3kgm強化されている。
「M4クーペ」の3リッター直6ツインターボエンジン。従来モデルの「M3クーペ」より排気量は1リッターほど小さいものの、最高出力は11ps、最大トルクは15.3kgm強化されている。
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マフラーにはハイグロス仕上げの「Mデュアルツインエキゾースト・テールパイプ」を装備。音とデザインの両方で、他の「4シリーズ」との差別化を図っている。
マフラーにはハイグロス仕上げの「Mデュアルツインエキゾースト・テールパイプ」を装備。音とデザインの両方で、他の「4シリーズ」との差別化を図っている。
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当たり年のワインのように

M3の系譜とはなにか? 純粋にレース規則を満たすためにつくられた初代を除き、2代目以降のそれは、「ポルシェ911」はちょっとマズイと考える人たちのためのぜいたくなビジネス超特急であったろう。911みたいに異形のクルマに乗っていたら世間が許さない、というような社会的規制、風潮は世界中のどこにでも、もちろんご本家のドイツにだってあるわけである。なにしろドイツというのは、隣の芝生がのびすぎている、ということで通報されちゃうような監視社会なのだ。そう、昔だれかに教わった気がする(そうとう曖昧です)。

だからといって、M4がマジメなビジネスマンズ・エクスプレスだ、といいたいのではない。だからこそM4は911よりもむしろ享楽的なのである。そう確信したのは、某日の土曜日、東京都心で広報車と同じ金色のM4を見たときである。比較的若い男性がネクタイをゆるめ、シートを倒し気味にして運転していた。助手席に女性がいて、後ろの席に男性が前のめりの姿勢で乗っていた。そして、六本木方面に向かって、乾いた排気音を残しながら走り去った。これが911だったらどうだろう? ああいう雰囲気はむずかしいのではないか。もちろんこれは、私がそういうM4をたまたま目撃して、勝手に思っただけです。

M4の車両本体価格は1126万円。フツウの「4シリーズ」で一番安い「420iクーペ スポーツ」は511万円である。一番高い「435iクーペ Mスポーツ」は797万円。Mの文字がつくと、300万円以上の価格差がつく。フツウの若者にとって年収以上の金額をほとんど同じカタチのクルマに注ぎ込む。420iからM4にいたるには、600福沢諭吉必要だ。2台のあいだにある違いは、ひとことでいえば厚みである。豊穣(ほうじょう)さ。リッチネス。ボルドーのヴィンテージとフツウの年との違いみたいなもの、といえるかもしれない。自らの感覚を喜ばせることのみにお金をつかう。享楽的な人生って、スバラシイ。

(文=今尾直樹/写真=荒川正幸)

ダウンサイジングターボの採用により、動力性能とともに燃費性能も向上。燃料消費率、CO2排出量ともに、従来モデルより25%以上改善しているという(ヨーロッパ仕様車の値)。
ダウンサイジングターボの採用により、動力性能とともに燃費性能も向上。燃料消費率、CO2排出量ともに、従来モデルより25%以上改善しているという(ヨーロッパ仕様車の値)。
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フロントのエアアウトレットにあしらわれた「M4」のロゴ。「3シリーズ」のクーペやカブリオレが、独立車種の「4シリーズ」となったのに伴い、「M3クーペ」も現行型から「M4クーペ」に名前が変更された。
フロントのエアアウトレットにあしらわれた「M4」のロゴ。「3シリーズ」のクーペやカブリオレが、独立車種の「4シリーズ」となったのに伴い、「M3クーペ」も現行型から「M4クーペ」に名前が変更された。 拡大
トランクルームの容量は445リッター。後席には6:4分割可倒機構が標準で備えられている。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
トランクルームの容量は445リッター。後席には6:4分割可倒機構が標準で備えられている。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
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テスト車のデータ

BMW M4クーペ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4685×1870×1385mm
ホイールベース:2810mm
車重:1640kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:431ps(317kW)/7300rpm
最大トルク:56.1kgm(550Nm)/1850-5500rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 92Y/(後)275/35ZR19 100Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:12.2km/リッター(JC08モード)
価格:1126万円/テスト車=1357万6000円
オプション装備:パーキングサポート・パッケージ(11万3000円)/Mカーボンセラミック・ブレーキ(110万円)/Mライトアロイホイール ダブルスポークスタイリング437M(27万8000円)/アダプティブMサスペンション(28万5000円)/リアウィンドウ・ローラーブラインド(4万9000円)/レーンチェンジ・ウオーニング(7万7000円)/アクティブプロテクション(5万1000円)/カーボンファイバートリム ブラッククロームハイライト(6万9000円)/BMWコネクテッドドライブ・プレミアム(6万1000円)/フルレザーメリノ(23万3000円)

テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:4267km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:269.5km
使用燃料:30.0リッター
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)/9.4km/リッター(車載燃費計計測値)
 

BMW M4クーペ
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今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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