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BMW M4クーペ コンペティション(FR/8AT)

痛快にして爽快 2021.05.24 試乗記 青木 禎之 BMWのハイパフォーマンスクーペ「M4」がフルモデルチェンジ。まずはド派手な面構えで注目を集めたが、肝心の走りの進化はどうなのか。あいにくのウエットコンディションながら、箱根のワインディングロードで仕上がりを試してみた。

これじゃ物足りない

駐車場のシャッターが巻き上げられると、なるほど、「ギョッ」とするような大きなキドニーグリルが姿を現した。「BMW M4クーペ コンペティション」がパレットに載っている。

戦前のBMW、例えば伝説の「328ロードスター」がごく縦長のグリルを並べていても違和感がなかったのは、エンジンルームの天地が広くて、左右のヘッドランプセクションやフェンダーがハッキリと独立していたからだ。確かに新しいM4はボンネットにグリルからつながる隆起を設けて、グリルを視覚的に左右と切り離そうと試みてはいるものの、21世紀にこのモチーフを復活させるのなら、まだまだ足りない。もっと大胆に!

とはいえ、機能に立脚しないで表層的にフェンダーの範囲を広げてみても、それでは単なるレトロデザインに堕してしまう……。てな具合に素人なりのデザイン論をブチたくなる時点で、クルマ界のトレンドセッターたるBMWの術中にハマっているのかもしれない。個人的には、顔の真ん中に付けられたニッポンサイズのナンバーが周囲から浮いているように見えて仕方ない。法に触れない範囲で、左右どちらかに寄せられないものでしょうか?

賛否両論、話題沸騰のフロントフェイスとは対照的に、新しいM4全体のフォルム、ことに斜め後ろから見た姿にケチをつける人は少ないだろう。ルーフラインがなだらかに下降するさまは絵に描いたようなスポーツクーペだし、テールエンド付近でノッチが付いているのがまたニクい。荷室容量を稼げる実用上のメリットに加え、どこかフォーマルな雰囲気が漂うのがいい。高級感の演出がお上手ですね。

流麗なデザインのため犠牲にされがちなリアシートは、座面こそやや低いが、膝前、頭上ともほどほどの空間が確保され、余裕はないが大人用としても使える。実用を意識していることは、前席背もたれ肩のレバーを引くと自動でシートが前進して、後席に乗り込むスペースをつくってくれる機能からもうかがえる。定員は4人だ。

2021年1月に国内導入が発表された新型は「M3」時代から数えて6世代目、「M4」として独立してからは2世代目となる。今回はよりハイパワーな「コンペティション」に試乗した。
2021年1月に国内導入が発表された新型は「M3」時代から数えて6世代目、「M4」として独立してからは2世代目となる。今回はよりハイパワーな「コンペティション」に試乗した。拡大
発表されるや賛否両論の議論を巻き起こした巨大なフロントグリル。これに合わせてボンネットも大胆な造形になっていることが分かる。
発表されるや賛否両論の議論を巻き起こした巨大なフロントグリル。これに合わせてボンネットも大胆な造形になっていることが分かる。拡大
「M3」も含めて全車でCFRP製ルーフを採用。シャークフィンアンテナの両サイドにはスリットが刻まれる。
「M3」も含めて全車でCFRP製ルーフを採用。シャークフィンアンテナの両サイドにはスリットが刻まれる。拡大
はね上げ形状のトランクリッドの上にはスポイラーも備わっている。センター部分にはルーフのスリットから流れた空気を受けるくぼみがある。
はね上げ形状のトランクリッドの上にはスポイラーも備わっている。センター部分にはルーフのスリットから流れた空気を受けるくぼみがある。拡大
Mモデルのみに着用が許されたサイドギル。「M4 competition」ロゴがレイアウトされる。
Mモデルのみに着用が許されたサイドギル。「M4 competition」ロゴがレイアウトされる。拡大
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刷新されたパワープラント

ガレージから引き出したM4コンペティションには、スーパーカーの風格があった。デカい。全長×全幅×全高=4805×1885×1395mmのボディーサイズは、初代「6シリーズ」があっさり外殻に収まってしまう大きさだ。

もちろん各部にアルミニウムを使用することで軽量化に努めてはいるが、ニューM4の車重は1730kg。先代から100kg以上ウェイトが増した計算になる。車検証を引っ張り出して確認すると、前後の車軸重量は910kg:820kgと、フロントがやや重い。

大きく重くなったボディーでこれまで以上に駆けぬけるため、パワープラントの強化が図られ、新たに2979ccの直列6気筒“Mツインパワー”ターボが開発された。

BMWに限らず各社スポーツモデルのエンジンは、熟成を重ねるため、結果的に古い世代のユニットが大事に使われるケースが多い。BMWの「M3」とM4もその例にもれず、旧型は通常の「3シリーズ/4シリーズ」より1世代前にオリジンを求められるモノだった。今回、根本から刷新されたわけだ。吸排気バルブの開閉タイミングを可変化したダブルVANOS、空気の吸入量をバルブの開度でコントロールするバルブトロニックを搭載。2つのタービンで過給される直噴エンジンである。

ベーシックなM4(1298万円)で480PS/6250rpmの最高出力と550N・m/2650-6130rpmの最大トルクを発生。ストレート6のチューン度合いを高めたM4コンペティション(1348万円=試乗車)と、各種運転支援機能を省略し、ふんだんにカーボンパーツをおごって約25kgの軽量化を果たした「M4コンペティション トラックパッケージ」(1460万円)では、どちらも510PS/6250rpmと650N・m/2750-5500rpmを発生。パワー・トゥ・ウェイトレシオで、いずれも、該当する先代グレードを凌駕(りょうが)する。

組み合わされるトランスミッションは、M4が6段MT、コンペティションモデルが「Mステップトロニック」ことトルクコンバーターを用いた8段ATとなる。コンペティションには、増大した駆動力に対応してアクティブな4輪駆動システム「xDrive」を採用したモデルが用意される予定だが、それは2021年秋までお預け。まずはRWD(後輪駆動)モデルからの導入となった。

伸びやかなフォルムが美しいサイドビュー。ボディーの全長は先代モデルよりも120mm長くなっている。
伸びやかなフォルムが美しいサイドビュー。ボディーの全長は先代モデルよりも120mm長くなっている。拡大
直列6気筒というレイアウトは同じながら、新型では「X3 M」などと同じ3リッターツインターボのS58型ユニットに改められた。
直列6気筒というレイアウトは同じながら、新型では「X3 M」などと同じ3リッターツインターボのS58型ユニットに改められた。拡大
フロントが275/35ZR19、リアが285/30ZR20という前後異サイズのタイヤを履く。Mカーボンファイバーブレーキは107万5000円のオプション。
フロントが275/35ZR19、リアが285/30ZR20という前後異サイズのタイヤを履く。Mカーボンファイバーブレーキは107万5000円のオプション。拡大
巨大なディフューザーに囲まれた4本出しのマフラーエンド。排気音量は内部の可変バルブによって大きくも小さくもできる。
巨大なディフューザーに囲まれた4本出しのマフラーエンド。排気音量は内部の可変バルブによって大きくも小さくもできる。拡大
0-100km/h加速のタイムは3.9秒。最高速はリミッターによって250km/hに制限されるが、試乗車はオプションの「Mドライバーズパッケージ」によって290km/hに引き上げられていた。
0-100km/h加速のタイムは3.9秒。最高速はリミッターによって250km/hに制限されるが、試乗車はオプションの「Mドライバーズパッケージ」によって290km/hに引き上げられていた。拡大

内燃機関の延命のために

試乗車は、派手な「サンパウロイエロー」のボディーペイントに、ぜいたくな「フルレザーメリノ」のインテリア(30万8000円のオプション)。薄いブルーを基調に、外装色に合わせた黄色いスエードがアクセントとなった不思議なカラーコンビネーションは、凡人とは隔たった高級車の証しでしょうか!? ヘッドランプにブルーの差し色が使われているのは「ちょっとわからない」こだわりだ。

さて、スターターボタンを押したとたん、派手な排気音が発せられる。「Mスポーツエキゾーストシステム」のおかげで、ウルサイと感じるならサウンド強化機能をオフにすることもできる。M4コンペティションでは、エンジンやサスペンション、ステアリング、ブレーキ、トランスミッション、そしてDSCといった車両制御システムを自在に設定できるのが、運転マニアのビマー(BMW好き)にはたまらない魅力だろう。自分好みの設定を保存して、ステアリングホイールに設けられたMボタンで瞬時に呼び出すことも可能。怠惰なドライバー(←ワタシです)の場合、「ロード」「スポーツ」「トラック」と標準設定されている3種類のMモードのうち、「前2つで十分かな」などと思いますが。

M4コンペティションで街を走り始めて最初に感じるのは、「乗り心地がいい」ということだ。といっても、ソフトにたゆたう安楽さとは異なり、たとえ「コンフォート」モードでも硬く締まった足まわりだが、路面の細かい情報をキッチリ伝えながら不快な突き上げをよく抑えている。電制ダンパーの動きがスムーズで正確なのだろう。いかにも“高級”コンペティションといった感じ。

すぐに働くアイドリングストップにも驚かされる。赤信号や一時停止でクルマが止まるや6気筒は沈黙し、ブレーキペダルから足が離れると異例の速さで再スタートする。最近ではバッテリーへの負担が取りざたされる同機能だが、内燃機関を少しでも延命させようとする、バイエルンの執念を感じさせる一事だ。M4コンペティションのカタログ燃費は、10.1km/リッター(WLTCモード)とされる。

Mモデルでありながら、渋滞時のハンズオフにまで対応した最新の運転支援システムを標準装備する。
Mモデルでありながら、渋滞時のハンズオフにまで対応した最新の運転支援システムを標準装備する。拡大
試乗車はオプションのフルレザーメリノのインテリアをチョイスしていた。カラーリングは水色が鮮やかな「ヤスマリナブルー×ブラック」。
試乗車はオプションのフルレザーメリノのインテリアをチョイスしていた。カラーリングは水色が鮮やかな「ヤスマリナブルー×ブラック」。拡大
ヘッドレスト一体型のMスポーツシートが標準装備。背もたれ上部の「M4」ロゴはエンジンオンで点灯する。
ヘッドレスト一体型のMスポーツシートが標準装備。背もたれ上部の「M4」ロゴはエンジンオンで点灯する。拡大
リアシートの乗員は2人。ルーフがリア下がりのクーペスタイルではあるものの、大人でもきちんと座れる。
リアシートの乗員は2人。ルーフがリア下がりのクーペスタイルではあるものの、大人でもきちんと座れる。拡大

ココロの制動力も強化を

0-100km/h加速3.9秒を豪語する俊足ぶりについては言及するまでもないだろう。ベーシックなM4からプラス30PSのありがたさは公道では実感できないが、ストレート6のさざめきを感じながらのドライブは、すばらしい気分だ。510PSの強心臓は、高速道路の100km/h走行では1600rpm程度で静かに回っているだけ。スロットルペダルを軽く踏み増しするだけで、その強心臓ぶりをむしろ感じさせない、スムーズで疾風のような加速を味わえる予感がドライバーを上機嫌にさせる。

M4コンペティションには、ステアリング操作をもつかさどる高機能のクルーズコントロールが装備される。設定は簡単でわかりやすく、210km/h(!)までセット可能。加減速や「曲がり」も上手。状況の変化に対する反応が速いので安心感が高い。自動で判断する機能も上がっているようで、例えばターンシグナルランプを点灯させて車線変更しようとしても、死角に他車がいるとステアリング操作に抵抗する。高速道路での自動運転は「すぐそこ」と実感させられる完成度だ。

試乗した日はあいにくの雨だったが、前輪に駆動干渉がないスッキリしたステアフィールがかえって際立って、ハイパフォーマンスクーペながら、抑えた速度で山道を行くのが楽しい。ツインターボのレスポンスは俊敏だし、シフトプログラムを制御する「ドライブロジック」を最もスポーティーにすれば、MT車にも負けない動力系との一体感を得られる。大トルクの2輪駆動モデルだけに、不用意にスロットルを開けた際のホイールスピンが怖いが、それは運転者の責任である。

秋には4WDモデルが輸入されて、ウエット路面での加速力がさらに高められるはずだが、その場合、オプションの「Mカーボンセラミックブレーキ」(107万5000円)以上に“ココロのブレーキ”を強化しないといけない。人によってはxDriveモデル導入までの猶予期間は、新しいフロントフェイスと折り合いをつける時間として有効に機能することだろう。

(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

ホーンボタンの上部には「M1」「M2」のMモードスイッチがレイアウトされる。「ロード」「スポーツ」「トラック」モードに切り替えられるだけでなく、それぞれに好みの車両セッティングを登録しておくこともできる。
ホーンボタンの上部には「M1」「M2」のMモードスイッチがレイアウトされる。「ロード」「スポーツ」「トラック」モードに切り替えられるだけでなく、それぞれに好みの車両セッティングを登録しておくこともできる。拡大
先代モデルが7段のデュアルクラッチ式ATを搭載していたのに対し、新型ではトルコン式の8段ATを採用(6段MTモデルもある)。「ドライブロジック」機能によってシフトスケジュールを3段階に変えられる。
先代モデルが7段のデュアルクラッチ式ATを搭載していたのに対し、新型ではトルコン式の8段ATを採用(6段MTモデルもある)。「ドライブロジック」機能によってシフトスケジュールを3段階に変えられる。拡大
車両のセッティングをより細かく設定できる「Mドライブプロフェッショナル」は12万4000円のオプション。エンジンや足まわりだけでなく、トラクションコントロールの介入レベル(10段階)も変更できる。
車両のセッティングをより細かく設定できる「Mドライブプロフェッショナル」は12万4000円のオプション。エンジンや足まわりだけでなく、トラクションコントロールの介入レベル(10段階)も変更できる。拡大
「Mドライブプロフェッショナル」には「Mドリフトアナライザー」も含まれている。ドリフト走行の距離や時間、アングルなどを記録しておけるという機能だが、やはりクローズドコース向けの装備だろう。
「Mドライブプロフェッショナル」には「Mドリフトアナライザー」も含まれている。ドリフト走行の距離や時間、アングルなどを記録しておけるという機能だが、やはりクローズドコース向けの装備だろう。拡大

テスト車のデータ

BMW M4クーペ コンペティション

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1885×1395mm
ホイールベース:2855mm
車重:1730kg
駆動方式:FR
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510PS(375kW)/6250rpm
最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/2750-5500rpm
タイヤ:(前)275/35ZR19 100Y/(後)285/30ZR20 99Y(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:10.1km/リッター(WLTCモード)
価格:1348万円/テスト車=1570万2000円
オプション装備:ボディーカラー<サンパウロイエロー>(0円)/フルレザーメリノ<ヤスマリナブルー×ブラック>(30万8000円)/Mドライブプロフェッショナル(12万4000円)/Mカーボンセラミックブレーキ(107万5000円)/BMWディスプレイキー(4万2000円)/カーボンファイバーインテリアトリム(15万1000円)/アクティブベンチレーションシート(11万7000円)/パーキングアシストプラス(6万9000円)/Mドライバーズパッケージ(33万6000円)

テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:5680km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:389.2km
使用燃料:53.5リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.2km/リッター(満タン法)/7.6km/リッター(車載燃費計計測値)

BMW M4クーペ コンペティション
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青木 禎之

青木 禎之

15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。

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