第364回:「ヴィッツ」もアイキャッチになる?
イタリアのプチ日本ブーム
2014.09.12
マッキナ あらモーダ!
気がつけば日本製家電が消えていた
音響機器メーカー「パイオニア」が、ライブやクラブで使われるDJ機器事業を売却する方針であることが、複数の関係者の話として2014年9月3日に伝えられた。パイオニアのDJ機器は世界シェアでトップを占めていることから、話が本当だとすれば、同社の経営は予想以上に深刻な状況かもしれない。
中学生時代、目黒にあった本社1階のショールームに足しげく通い、「ブルーチップ」をためて同社製ヘッドホンと交換し、業界としてはかなり後発組であった同社製カセットテープを購入していたボクとしては、複雑な思いに駆られている。
思えば、イタリアの家電量販店で日本ブランドの存在感が薄くなって久しい。ボクの手元にある電器店のチラシ広告(全12ページ)を見てみる。ようやく一眼レフカメラの欄にキヤノン、テレビ欄にソニーと東芝製が載っているくらいで、PC系、タブレット、ファブレット、そしてモバイルいずれも日本ブランドは皆無である。
わが家にある電化製品も、もはや日本ブランドは数少ない。その数少ないものといえば、10年近く前に買ったサンスイ製DVDプレーヤーだ。昔サンスイといえば憧れのオーディオブランドだったが、それはイタリアのディスカウントスーパーの特売コーナーに置いてあった。日立製薄型アナログテレビも、6年前に、やはり家電量販店の売り出しで買ったものだった。思えば、あの頃からイタリアにおける日本製家電の立ち位置が揺らいでいた。
ちなみに、サンスイのDVDプレーヤーは、もはやあまりDVDを見ないことに気づき、テレビは地デジ化したあとも衛星デコーダーをつないで使っていたが、操作の煩雑さに負けて、先日ついにどちらも手放した。
日産&トヨタが堅調
いっぽう最近の日本ブランドの車は、イタリア市場ではどうか? UNRAE(イタリア自動車輸入業者組合)発表の2014年8月国内新車登録台数を見てみると、ブランドによって明暗が分かれていることがわかる。
下位から見てゆくと、インフィニティ、ダイハツ(すでにサービスを残して欧州販売から撤退している)が各1台、いすゞ2台、レクサス62台、スバル99台、ホンダ146台、マツダ150台、そして三菱171台と、もうちょっと頑張ってほしい数字が並ぶ。
ただし失望してはいけない。トップ3が堅調だ。スズキはランドローバー(407台)よりも多い563台を記録している。日産は1983台。これは英国工場製「キャシュカイ(日本名:デュアリス)」の人気が大きい。その数1038台。登録された日産車のうち半分以上がキャシュカイということになる。
そして、日本ブランド中トップのトヨタは1794台を記録している。最も登録台数を稼いだのは、フランス工場製の「ヤリス(日本名:ヴィッツ)」で650台だ。欧州ではハイブリッド仕様が設定されていることもヤリス人気の要因だ。
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日本車ファンのイタリア人は、どんなタイプ
日本ブランド車を支えているのは、どんな人々なのか? 実際には千差万別だが、筆者の身近なイタリア人からユーザー像を検証してみよう。
まずは現在20代後半から30代の若年層である。彼らはシルヴィオ・ベルルスコーニが設立した民放テレビ局が、次々と導入した日本製アニメを見て子供時代を過ごした。同時にポータブルCDプレーヤーなど周囲に日本製プロダクトがあふれるなか育った世代だ。クルマに関しても日本ブランドにまったく抵抗がない。
40代後半から50代には、かつて「欧州車よりも安くてアクセサリー豊富」という、いわば単純な理由で日本車入門を果たしたユーザーが多い。ところが乗ってみると意外に耐久性が高く、メンテナンスフリーであることに感激して、すっかり日本車ファンになってしまった、というのが典型的なストーリーだ。
自動車保険の代理店を経営する知人カルロ氏もそのひとりで、20年近く前に買った「トヨタ・ランドクルーザー」以来、ずっとトヨタ車がガレージにある。「仕事仲間の間で『日本車が故障救援のトラックに載せられているのを見ることはめったにない』というのは定説だよ」と教えてくれた。
そして50歳代のイタリア人日本車ユーザーにおける、もうひとつのユーザー像は、「バイクから入門派」である。1970年代、この国の男子は、日本から輸入開始されて日が浅いホンダやスズキのバイクに憧れた。ハイヤー運転手のアンドレアは「『ホンダCB400 Four』が俺の青春」と振り返り、今は「トヨタ・ヤリス」に乗る。民間車検場を営むパオロは「長いことイタリアじゃ、ホンダが四輪を造っていることを知らないイタリア人がたくさんいたよ」と証言する。その彼は、今も古い「プレリュード」を大切に保管している。彼らにとってはバイクが日本車とのキューピッド役だったのである。
思えばボクがイタリアにやってきた18年前は、「日本=コピー大国」のイメージを抱く人たちが高齢者を中心にまだたくさんいた。ボクがカメラを提げて取材していると、頻繁に「今度は何を盗撮しに来たんだ」とちゃかされたものだ。そのたび「『スバル1000』のフラット4が先になかったら、『アルファスッド』は開発できなかっただろうが!」と心のなかで叫んでいた。
そういう既成概念がほとんど消えたのは、単なる世代交代だけではない。イタリア人ユーザーの信頼を裏切らない、優秀な日本車のおかげとボクは信じている。
ちまたにも「日本ブーム」が!
そんなことを書いていたら、近所のディスカウントスーパーで「『トヨタ・ヤリスハイブリッド』が20台当たる!」というキャンペーンが、この9月から始まった。30ユーロ(約4100円)分の買い物+スーパー側が選んだ該当商品を最低1点買うと、応募資格が与えられる仕組みだ。ちょっと前まで特賞の定番といえば「フィアット500」だったが、今やトヨタも格好のアイキャッチなのである。
日本ブランドではないが、日本ムードを売りにしている商品も少なくない。たとえばスーパーには「ビオンセン」なるバスプロダクト(シャンプー、リンス、バスソープなど)が並んでいる。同じ名前の商品は他国にもみられるが、イタリア版はボクが住むシエナにある大学医学部の皮膚科と、東京の温泉研究機関との共同プロジェクトであることが誇らしげに記されている。発売された当初ボクは「一発屋的企画かな」と思ったが、気がつけば商品系列を拡大しながた10年以上続いている。
そして最も新しい強烈な「プチ日本ブーム」は、ボクが住むシエナの「すしレストラン」である。知っているだけでも、ここ数年の間に立て続けに6軒オープンした。
長年日本人経営の店があるローマ、ミラノなど大都市と違い、シエナのそれらは中国をはじめとするアジア系の人たちによるものだ。
だが、駅前のショッピングセンターには向かい合って2軒が入居するという、東京の商店街もビックリの現象が起きている。かつてこの街では「SUSHIやSASHIMIを食べたことがある」という人は、ちょっとした文化人、いやそれを通り越してヒーロー扱いだった。女房は地元の有閑マダムが集まる料理教室にすし講座を頼まれ、ボクもシャリをうちわであおいで冷ます役をやらされたものだ。それがどうだ。今やすっかり珍しいものではなくなった。
人口5万人ちょっとの街に、こんなにすしレストランができちゃって、流行が去ったあとどうするのか。日本製家電ブランドの将来以上に心配している今日このごろである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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