第3回:「ボルボV60」試乗インプレッション
意志を感じるクルマ 2014.09.16 最新ボルボで 爽快ドライブ! ボルボV60ラグジュアリー エディション高速道路からワインディングロードまで、600kmを超えるドライブルートで「ボルボV60ラグジュアリー エディション」に試乗。その安全性能を支える運転支援システムを含めた、実力をテストした。
リーズナブルな基幹モデル
ボルボV60ラグジュアリー エディションに乗るのは、これが2度目だ。ただし前回は、東京都内の試乗会で1時間程度接しただけなので、その走りを体感し尽くしたとは言えない。だから今回、八ケ岳周辺を1泊2日でドライブするというプランは、このクルマの神髄を知る意味で、願ってもない機会だった。
ラグジュアリー エディションについていま一度紹介しておくと、1.6リッター直列4気筒直噴ターボエンジンに6段ATを組み合わせた、前輪駆動の「V60 T4 SE」に、レザー・パッケージとセーフティ・パッケージ、パーソナル・カー・コミュニケーター(PCC)、キーレスドライブを組み込んだ特別仕様車だ。
追加装備を価格に換算すれば約50万円分にもなるのに、車両価格は419万円で、T4 SEより20万円以上安い。でもラグジュアリー エディションは、安さだけが取りえなのではない。それを往復600km以上の道のりで思い知らされた。
八ヶ岳へは、東京からも名古屋からも、中央自動車道を使うのが一般的だ。今回もそのルートを選んだ。100km以上もの間、高速道路を走り続けることになるので、標準装備される全車速追従機能付きアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)に頼ることにした。
同種の装備は国産、輸入車を問わず普及が進んでおり、いまや珍しい装備ではない。しかし中央自動車道を巡航しながら、ボルボのそれは完成度の点でトップレベルにあると感じた。人間の感覚に限りなく近い作動感だったからだ。
熟成された運転支援システム
多くの追従機能付きクルーズコントロールは、前が空いたときや逆に詰まったときの反応が遅れ気味だったり、加減速が唐突だったりして、まるで初期の自動音声放送のように、ぎごちなく感じられることが多い。V60はそうではない。反応は速いのに加減速は穏やか。一般的なドライバーがごく普通にスピードを上げ下げするような感覚なのである。
このACCを操るステアリングスイッチのアイコンも印象的だった。大きくシンプルなので、ひと目で識別できる。考え抜かれたアイコンであることを実感する。その奥に位置する+と-を打ち抜いたシフトパドルがブラインドタッチできる点を含めて、スカンジナビアンデザインもまた、安全に寄与していることを教えられる。
速度計内に表示されるロード・サイン・インフォメーション(RSI)もありがたかった。たまにしか現れない道路標識を探し回らなくても、今走っている道路の制限速度や追い越し禁止などの情報をアイコンで伝えてくれる。スピードオーバーすると点滅する仕掛けも親切だ。これもまた安全性に寄与するアイテムと言える。
そしてもうひとつ、両脇の車線の状況を知らせるブラインドスポット・インフォメーション・システム(BLIS)にも触れておく必要があるだろう。この種のシステムの中では、相手がかなり後方にいる頃から通過するまで、かなり長い間、他車の存在を教え続けてくれるからだ。
過剰と思う人がいるかもしれない。でも考えてみてほしい。100km/hで走る車両は、1秒間に30m近くも進んでしまうのだ。そんな事実を思い起こせば、念には念を入れたほうがいいという結論に行き着くのではないか。オレンジ色のインジケーターが、ドライバーから見やすい場所に、見やすい形状で埋め込まれていることも特筆に値する。
ちなみに100km/hは、Dレンジで約2000rpm。多少の登り坂であれば、1.6リッターとは思えぬ豊富なトルクを生かし、トップギアのまま速度をキープできる。体を優しく包み込むシート、硬すぎないサスペンション、安定した直進性が、ドライバーをリラックスさせる。疲労軽減もまた安全につながることを、ボルボは熟知しているようだ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
楽しさにつながる安心感
先に紹介したACCは、“全車速追従機能付き”とあるとおり、0km/hまで対応する。その点を、高速道路を降りてから、すいた一般道で試した。ここでも遅れや唐突感はない。以前他のボルボで試したときは、ドライバーである僕がペダルを踏んで走っていると勘違いしていたほどだ。シティ・セーフティと呼ばれる低速用衝突回避・軽減オートブレーキシステムを世界で初めて標準装備した経験の成せる業と言えるかもしれない。
仮にACCをカットした場合にも、V60は車間警告機能でドライビングをサポートしてくれる。前車に接近すると、ダッシュボードの奥に埋め込まれた赤いインジケーターが、運転に支障のない光度で点灯し、注意を促す。それでも接近を続け、衝突の危険があると判断したときには、一転して強烈な光の点滅と大音量の警告音で危険を知らせる。もちろん、なんら回避行動がとられなければ、自動ブレーキが作動することになる。
このあたりの光と音のメリハリのつけ方は、国産車をはるかに超えたレベルにある。ほとんどのドライバーが危機的状況なのだと認識し、その後の運転に気をつけることだろう。なんとしても事故を減らしたいというボルボの強い意志が、直前での明確な警告に表れているように思えた。
あらゆる状況で、あらゆる角度から、乗員を守ってくれる。だからこそ八ヶ岳山ろくの雄大なワインディングロードを、思う存分満喫できる。
エンジンは基本はフラットトルク型だけれど、アクセルペダルを踏み込めばクォーンという快音を響かせつつ吹け上がる。つまり回す楽しみもある。しかもボディーサイズの割には1.6リッターという小排気量を選んだおかげで、山道ではノーズの重さを感じない。切った方向に素直に向きを変えてくれて、とにかく爽快。
初期のV60と比べてしなやかさが増したサスペンションは、快適な乗り心地をもたらすだけでなく、ハンドリングでも優位性を見せる。4本のタイヤが着実に路面に接地し続けてくれるから、荒れた路面でもステアリングに軽く手を触れているだけで矢のように走り、コーナーでは信頼のグリップで高揚感をサポートする。
安全というベースがあるからこそ、走りが楽しめる。ボルボで長距離を走ると、いつも大切なことを思い出すのである。
(文=森口将之/写真=郡大二郎)
→「V60」によるドライブ旅のリポートはこちら
→八ヶ岳周辺のドライブシーン(写真)はこちら
テスト車のデータ
ボルボV60ラグジュアリー エディション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×1865×1480mm
ホイールベース:2775mm
車重:1590kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:180ps(132kW)/5700rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1600-5000rpm
タイヤ:(前)215/50R17 95W/(後)215/50R17 95W(ミシュラン・プライマシー)
燃費:13.6km/リッター(JC08モード)
価格:419万円/テスト車=434万9429円
オプション装備:クリスタルホワイトパールペイント(10万2858円)/レザー・パッケージ+セーフティ・パッケージ+PCCキーレスドライブ(特別装備)/※以下、販売店装着オプション パークアシストカメラ<リア>(3万857円)/ETC車載機<音声ガイダンス機能付き>(2万5714円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:2464km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:643.5km
使用燃料:54.4リッター
参考燃費:11.8km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)
→「ボルボV60」のオフィシャルサイトはこちら

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
第6回:「ボルボV40」試乗インプレッション 2014.9.22 ボルボV40 T4 SE(FF/6AT) ボルボファミリーの中で、好調なセールスが伝えられるコンパクトハッチバックの「V40」。その実力は、どれほどのものなのか? 東京~伊勢・志摩間での試乗インプレッションを報告する。
-
第4回:「V40」で伊勢・志摩を訪ねる 2014.9.18 ボルボのプレミアム・スポーツコンパクト「V40」で、1000km超のロングドライブへ。観光スポットとして名高い伊勢・志摩を巡る“こだわり旅”を紹介する。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。